人生後半の年月を、住みづらい家で我慢しながら暮らすのではなく、自分たちに合った家に住み替えて、心豊かに暮らしたいと考えるシニア世代が増えている。

50歳を過ぎてからのリフォームで「人生後半を楽しむ家」を手に入れた人たちに、リフォームの内容と、リフォームによって暮らしがどう変わったのかを聞いてみた。

■ファミリータイプのマンションを一人暮らし仕様にリフォーム

東京都に住む中岡さん(68歳)は、築32年の4LDKのマンションを、4年前に全面リフォームした。

日当たりのいい窓からいちょうの木などの緑がいっぱいに見える、低層マンション。広々としたリビング・ダイニングには、テーブルとソファー以外に大きな家具はない。趣味の良いインテリアが飾られた、まるでホテルのように気持ちのいい空間だ。中岡さんはこの家で、多彩な趣味を満喫する日々を送っている。

女手一つで育て上げた息子と娘も、6年前に独立して、一人暮らしとなった。これからは趣味を楽しみながら、ますますアクティブなシニアライフを満喫したい。ここは静かな環境で、近くには商店街もある。都心までのアクセスもよく、駅からも徒歩5~6分と、シニアライフを送るのには理想的な立地だ。引っ越すことは考えられない。そこで、今のファミリー仕様のマンションを、一人で居心地よく暮らせる住まいへと全面リフォームすることにした。

リフォームにあたって、中岡さんがイメージしたのは「背筋を伸ばして過ごせる、居心地のいいホテルのような家」だ。いつもここから元気に出かけられて、帰ってくるとほっとする、自分の基地のような場所にしたい。そんな気持ちでリフォーム会社に相談した。しかし提案してもらった内容に、何となくしっくりこない。パターン化された間取りしか提案してもらえず、自分の要望がうまく伝わらない。そんなとき、テレビで建築士の水越美枝子さんを知り、「私とセンスが合いそう」とピンときたという。

■リビング・ダイニングを広く・くつろげる空間に

中岡さんがリフォームで解決したかったおもな問題は、以下のようなことだ。

【問題1:部屋が小さく分割されているので狭く、暗い】

南向きの部屋が、リビング・ダイニングと和室に分かれていたため、狭く、くつろげなかった。せっかく角部屋で南に面しているのに、光が奥まで入りにくく、電気をつけて過ごす時間が長くなっていた。

【問題2:収納が足りない】

古いマンションなどで造りつけの収納がほとんどなく、大きな家具を置いていたため、圧迫感があった。着物や手芸の道具なども増えてきて、収納に困っていた。

リフォーム前のリビング・ダイニング。奥の和室との間に壁があるため、光が入りにくかった。

リフォーム後のリビング・ダイニング。ダイニングテーブルは、飛騨の白河家具、ソファはアルフレックス、テレビ台はカッシーナのもの。スタイリッシュな空間になった。

「一番長く過ごす場所を、広く、居心地よくしてほしい」という中岡さんの要望に応え、分かれていた部屋(12畳のLDと、6畳の和室)をひとつにまとめて、20畳の広々としたリビング・ダイニングにした。二つの部屋を仕切っていた壁がなくなったことで、部屋の奥まで光が入るようになり、明るく、開放的な空間に生まれ変わった。「子どもが孫たちを連れてきたときにも、みんなでテーブルを囲めるようになりました」

壁は白いクロス貼りにし、オフホワイトのウールカーペットを敷いたことで、さらに明るい空間に。北側の壁には断熱材を入れ、リビング・ダイニングは全面に床暖房を設置。寒さの問題からも解放された。

ダイニングには、壁一面の低いカウンターを設け、LDで使うすべての物を収納できるように。和室の押し入れと納戸のあった場所には、壁の幅いっぱいの壁面収納を設け、着物などを収納できるスペースをつくった。

壁一面のカウンター収納で水平ラインを強調し、広さを感じられる空間に。床は、当時一緒に暮らしていた愛犬の足に負担がかからないよう、カーペット敷きにした。

■収納を増やして、物が外に出ていない家に

着物が大好きで、普段お友だちと食事に行ったり、落語を聞きに行ったりするときにも着物を着るという中岡さん。このリフォームで一番気に入っているのは、リビングの壁面収納に設けられた、着物専用のクローゼットだ。左手の側面と正面の壁には全身が映る合わせ鏡があるので、明るい場所で着付けができる。

お母さまから譲り受けた着物がすべて収まった。

帯を吊るして収納できるスライド式のバーは、中岡さんのアイデアだ。手前に引き出せば、どんな帯があるかひと目でわかるので選びやすい。

生地が傷まないよう、バーはゴム素材になっている。

4.9畳のキッチンは、大きな食器棚や家電棚が圧迫する、窮屈な空間だった。リフォームでは、キッチンをTOTOのシステムキッチンに変更。背面には造りつけの引き出し式収納と吊戸棚を設け、スッキリしたキッチンに。吊り戸棚は、奥行きが浅いので圧迫感を感じさせないが、天井いっぱいまで高さがあるので、今まで外に出ていたものがすべて収まった。

リフォーム前のキッチン。

引き出すだけで、奥までひと目で見渡せるので、食器の収納に便利。

洗面室は、収納が少ないためスチールラックなどを設置して整理していたが、雑然とした印象になっていた。広々としたカウンターの洗面台にリフォームし、カウンター内に、ミレーのドラム式洗濯機を組み込んだ。吊り戸や引き出しで収納もたっぷり確保し、物を外に出さない洗面室に生まれ変わった。水はねに対応するための壁のモザイクタイルは、インテリアのアクセントにもなっている。

■鏡を使って空間を広く見せる

子どもが独立して不用になった部屋の一つを、自分の寝室に。壁いっぱいにクローゼットを設けたため、大量の洋服が収まった。扉の1枚は全面鏡にしたので、着替えるときの姿見としても便利なうえ、部屋が広く見える効果がある。

玄関は、たたきを白いタイル張りにして、壁面いっぱいに収納スペースを設置。反対側の壁には、床から天井までの大きな姿見を設けて、広々と見える気持ちのよい玄関になった。「年を取るほど、常に自分の姿を見て、姿勢や体形をチェックすることは大切だと思います」と中岡さん。

■趣味を楽しむためのスペースも充実

中岡さんは非常に多趣味だ。華道は25年以上、「エスカ」というフランス刺繍は20年以上も続けている。アウトドアも好きで、仲間たちと一緒に、月に何回か山登りに出かける。

リフォームでは、4畳半の洋室を、フランス刺繍を楽しむためのアトリエにした。外の緑も目に入るし、思い切り作業に没頭できる、お気に入りのスペースだ。

子どもたちが残した机を2つ並べたので、広々と作業ができる。

「あちこち出かけても、この部屋に帰ってくるとホッとするんです。すべての物がちゃんと収まるので、いつもスッキリ暮らせます。高齢になると、いろいろとおっくうになってしまいがちだけれど、リフォームしたてのきれいな状態を、このままずっと維持したい。一人暮らしだからこそ、だらしなくならないよう気を張っていることは大切だと思います」と中岡さん。

設計を担当した水越美枝子さんは言う。

「中岡さんのマンションは、構造の問題で壁を外せなかったり、水回りを動かせなかったりと制限の多い物件でした。そんななかで、スッキリと広く見せるために心がけたのは、〝水平ラインをできるだけ長く通す″ということです。例えばダイニングの収納カウンターや、洗面室のカウンターがその例です。〝ホテルのような家″という中岡さんのご希望で、生活感があまりない、白を基調にした明るいインテリアになりました。いつも背筋が伸びて凛とした雰囲気の中岡さんにぴったりの家になったと思います。中岡さんの、年齢を重ねても新しいことに挑戦される姿勢に、私も刺激を受けました。これからもこの家を基点にして、ますますアクティブにシニアライフを楽しんでいただきたいと思います」

【このリフォーム事例についてのお問い合わせ】
一級建築士事務所アトリエサラ
電話:03-5933-2734
http://www.a-sala.com/

取材・文/臼井美伸
編集・ライター。ペンギン企画室代表。カタログハウスにて『通販生活』のライター、ベネッセコーポレーションにて生活情報誌『サンキュ!』の副編集長などを経て、独立。水越美枝子さんをはじめ、小室淑恵さん(ワークライフバランス代表)、カリスマブロガー中山あいこさんの著書など、インテリアや女性の生き方、子育てなどのライフスタイルに関わる本の編集・執筆やプロデュースを手掛ける。

取材協力・監修/水越美枝子
一級建築士。キッチンスペシャリスト。日本女子大学住居学科卒業後、 清水建設に入社。
商業施設、マンション等の設計に携わる。1998年一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計からインテリアコーディネイト・収納計画まで、トータルでの住まい作りを提案している。手がけた物件は200件以上。日本女子大学非常勤講師、NHK文化センター講師。著書に『40代からの住まいリセット術―人生が変わる家、3つの法則』(NHK新書)『いつまでも美しく暮らす住まいのルール 動線・インテリア・収納』(エクスナレッジ)がある。

撮影/永野佳世

 

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