生活動線に合った「散らからない家」にする【人生後半を楽しむリフォーム事例02】

人生後半の年月を、住みづらい家で我慢しながら暮らすのではなく、自分たちに合った家に住み替えて、心豊かに暮らしたいと考えるシニア世代が増えている。

50歳を過ぎてからのリフォームで「人生後半を楽しむ家」を手に入れた人たちに、リフォームの内容と、リフォームによって暮らしがどう変わったのかを聞いてみた。

■50代のうちにリフォームを決意した理由

小松さん夫妻(仮名、夫59歳・妻54歳)は、社会人の息子(26歳)と3人暮らし。埼玉県内の静かな住宅地に、19年前に建てた一戸建ての1階を、3年前に全面リフォームした。

南の窓から自然光が入る、30畳の広々としたリビング・ダイニング。生活感のあるものはすべてスッキリ収納されている、気持ちのいい空間だ。

小松さんがリフォームを考え始めたのは、築15年ほどだったころ。浴室やキッチンなどの水回りが老朽化したのがきっかけだったが、最初は部分的なリフォームしか考えていなかった。

補修を始めようと思っていたとき、玄関にシロアリを発見。これは全面的なリフォームが必要かも……。話し合いの結果、「子どもたちもそろそろ独立するし、50代の今なら体力的にも金銭的にもまだ余力がある。この機会に、夫婦が快適に住める家にしよう」と決意した。

■リフォームで解決したかった4つの問題

いったん全面的リフォームをすると決めると、解決したい問題が、いくつも出てきた。

【問題1:外から家の中が丸見えなので、カーテンを開けられない】
日当りのいい家なのに、外からの視線が気になるため、昼間もカーテンを閉めっぱなし。せっかくの庭も楽しめなかった。

【問題2:寒さが防げない】
窓は南向きなのに、中廊下や断熱性に問題があり、冬は我慢できないほどの寒さに悩まされていた。

【問題3:物が収納しきれていない】
収納スペースは押し入れしかないため、15年間でたまった物が収まりきれず、あふれていた。

【問題4:キッチンが暗い】
北側にある寒くて暗いキッチンに、奥様がひとりでこもって料理をしていた。

これらの問題を解決してくれる依頼先を探して、リフォーム会社や工務店などを訪れたが、満足できる提案をしてくれる会社はなかなか見つからなかった。

そんなときに出会ったのが、建築家の水越美枝子さんだった。テレビで紹介されていた、水越さん設計の家を見てひとめ惚れ。

「この方にぜひ頼みたい!」と思ったものの、水越さんが多忙のため、実際に依頼できたのは半年後だった。それでも、どうしてもお願いしたいという気持ちは変わらなかった。

■リフォームで「散らからない家」に!

ようやくリフォームがスタート。水越さんは、奥様が悩んでいる収納の問題を解決するために、家じゅうのすべての収納スペースの中を撮影し、持っている物の量を洗い出した。

それまでは、増え続ける物を、小家具を買い足しながら収納していたが、それでも収まり切れず、リビング横の和室を物置きのように使っていた。

リフォームでは、ダイニングや洗面室を中心に、収納スペースをたっぷりと設けることに。とくにダイニングには、カウンター収納を充実させた。

リフォーム前のダイニング。小家具を買い足しながら収納していたため、雑然とした印象だった。

キッチンカウンターの収納に加えて、窓側にもカウンター収納をたっぷりと設けた。低い収納なので、圧迫感がない。

奥様にはもうひとつ、悩みがあった。それは、帰宅したご主人がダイニングで着替えをすること。そのため、食事の支度をする奥様と動線がぶつかってしまうのだ。

当時、ご主人のスーツや息子さんのコート類を収納する場所はなく、和室にハンガーラックを設置して、そこにかけていた。水越さんはそれを解決するために、洗面室の隣に着替え室をつくり、クローゼットを設置することにした。

新しく設けたクローゼット。洗面室、浴室にもつながっているので、朝の身支度もスムーズ。

玄関にも大きな下足入れとコートかけを設置。家族3人分の靴や、防災用品、日用品のストックなども収まった。ご主人の通勤用バッグもここに置くようにしたため、家の中が散らからなくなった。

動線に合った場所に収納スペースをたっぷりと設けたことで、以前のように、夫がダイニングで着替えをすることもなくなり、ハンガーラックも撤去できた。

1階にクローゼットを設けたことで、もうひとついいことがあった。

「以前は、洗濯物を取り込んでも『あとで片づけよう』と居間に山積みしていましたが、今は、取り込んでからしまうまでの動線が短くなったので、一連の流れで、自然に片づけてしまうようになりました」と奥様。

奥様は、リフォームによって意識が高まり、これまで苦手だった「収納」に興味がわいてきて、自分でどんどん工夫するのが楽しくなってきたという。どうしたら家族にとってもっと使いやすいか、見た目がスッキリするかを考えながら、日々アップデートを続けている。

■開放感ある居心地のいい家に変身

リフォームによって、すっかり間取りも変わった小松邸。

和室をなくし、ダイニングとひと続きの広々としたリビングに。ダイニングの奥には、奥様の憧れだったオープンの対面式キッチンがある。

リビングとダイニングは、引き戸で仕切って使うこともできる。

将来、階段の上り下りが負担になるときが来たら、このリビングにベッドを入れて、寝室として使う予定。

奥様の希望で、壁は温かみがあって音も吸収してくれる珪藻土に。床はナラ無垢材のオイル仕上げ、天井は珪藻土壁紙にした。

寒さの原因になっていた中廊下をなくし、窓にペアガラスを設置。床下には高性能の断熱材を入れ、LDKには床暖房を入れた。

リフォーム前の洗面所。洗面台が狭く、収納スペースは少なかった。

洗面台はお手入れがラクな人造大理石。背面に大容量の収納スペースがあるので、カウンター上には物がなくスッキリ。

お客様が来た時に使っていただける、手洗い場つきのパウダールーム。タイル壁は光が当たると陰影が出て美しい。

気になっていたプライバシーの問題も、大きく改善した。

以前は遮るものが何もなかったエントランスに、目隠し用の枕木を立てた。また、駐車スペースとの間に塀と門扉を設けたため、さらに外からの視線をガードできるように。昼間はリビング・ダイニングのシェードを開けて、開放的にくつろぐことができ、庭を眺めることもできるようになった。

リフォーム前の外観。エントランスに視線を遮るものがないため、外から丸見えになっていた。

駐車スペースとエントランスの間に塀を立てて、プライバシーを守れる家に。

リビング横に設けた、奥様の家事コーナー。ルーバーで緩く仕切って、落ち着くスペースに。

カーテンを閉め切って過ごしていた日々がウソのように、今は外の視線を気にせず、明るいリビングやダイニングでのんびりと過ごすことができる。奥様はガーデニングも楽しめるようになった。ご主人も、休みの日に家にいることが、楽しみに変わったと言う。

設計を担当した水越さんは言う。

「小松さんのご主人は、2階の寝室にクローゼットがあったのですが、帰宅していちいち2階に上がるのはめんどうだし、冬は寒いので、1階で着替えをされるのが習慣でした。そしていつのまにか、和室がスーツやカバンの置き場所になってしまっていました。リフォームによって、動線に合った場所にクローゼットを設けたことで、ご主人も奥様も、生活が快適になったようです」

数年後には、ご主人が仕事をリタイアする日が来る。息子も近い将来、巣立つことだろう。しかし小松さん夫婦の心は穏やかだ。

「リフォームの際に、家具や食器など大量の物を処分するのは、想像よりはるかに大変な作業でした。体力のある50代のうちにやっておいて本当によかったと思います」

「片づける」という家事の負担がぐんと軽くなり、寒さやプライバシーといった問題からも解放された今、これから先の夫婦二人の生活に不安はない。50代で決断したリフォームは正解だったと感じている。

【このリフォーム事例についてのお問い合わせ】
一級建築士事務所アトリエサラ
電話:03-5933-2734
http://www.a-sala.com/

取材・文/臼井美伸
編集・ライター。ペンギン企画室代表。カタログハウスにて『通販生活』のライター、ベネッセコーポレーションにて生活情報誌『サンキュ!』の副編集長などを経て、独立。水越美枝子さんをはじめ、小室淑恵さん(ワークライフバランス代表)、カリスマブロガー中山あいこさんの著書など、インテリアや女性の生き方、子育てなどのライフスタイルに関わる本の編集・執筆やプロデュースを手掛ける。

取材協力・監修/水越美枝子
一級建築士。キッチンスペシャリスト。日本女子大学住居学科卒業後、 清水建設に入社。
商業施設、マンション等の設計に携わる。1998年一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計からインテリアコーディネイト・収納計画まで、トータルでの住まい作りを提案している。手がけた物件は200件以上。日本女子大学非常勤講師、NHK文化センター講師。著書に『40代からの住まいリセット術―人生が変わる家、3つの法則』(NHK新書)『いつまでも美しく暮らす住まいのルール 動線・インテリア・収納』(エクスナレッジ)がある。

撮影/永野佳世

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