写真・文/鈴木拓也

大阪府河内長野市に、南北朝期に南朝の拠点として激動の歴史をつづった古寺が、観心寺である。今回は、楠木正成ゆかりの寺としても知られる、このお寺を紹介したい。

観心寺の近くにある楠木正成像

観心寺の草創は、修験道の開祖として知られる役小角が、道場として雲心寺を開いた大宝元年(701)にさかのぼる。その約100年後、弘法大師が如意輪観世音菩薩像を自刻して本尊とし、寺号を観心寺に改めた。弘法大師は、根本道場の高野山と京都の布教の拠点たる東寺との道中にあったこの寺を往還の中宿とし、河内一帯における真言宗の拠点とした。

9世紀に入って、観心寺への朝廷の尊信はますます深まり、七堂伽藍に広大な寺領荘園を有する一大寺院へと成長した。

南北朝時代に入ると、この寺も戦乱の歴史に翻弄される。南朝の武将の要となった楠木正成は、少年期はここの中院で仏道修行に励んだとされるが、やがて後醍醐天皇の側に付き従い、鎌倉幕府打倒の第一の功労者となる。しかし正成は、謀叛した足利氏との合戦で討ち取られてしまう。

1359年、一度は奪回した京都を追われた後村上天皇は、観心寺に遷幸し、ここを拠点として政務に励んだ。そして、再度京都の地を踏むことなく崩御され、この寺に葬られた。

戦国時代に入って、織田信長に寺領を没収されるという受難に見舞われるが、豊臣秀吉は伽藍を修復するなど保護に努めた。江戸時代に入ると、有力な檀家の力添えもあって、さらなる復興が進んだ。最盛期に数十を数えた塔頭は、大きく数を減らしたものの、今は高野山真言宗遺跡(ゆいせき)本山の寺格をもった道場として健在である。

*  *  *

観心寺は、大阪府内では屈指の仏教文化財の宝庫としてつとに知られる。国宝の金堂にくわえ、20を超える国宝・重文の仏像を拝観することができるが、今回はその一部を取り上げたい。

金堂(国宝)

観心寺の「金堂」は、府内で最も古い国宝建築物のひとつであり、戦乱で破壊されることもなく、建武の新政期に再建された外陣など、往時の構造をよく保っている。

本尊として金堂の奥に祀られているのが、同じく国宝の「如意輪観音菩薩像」。883年の『縁起資財帳』(国宝)に「彩色如意輪菩薩一躯高さ三尺余木造」と記されているとおり、本尊としては小ぶりであり、外陣からは見えづらいが、4月17~18日にかけて開帳され、その優美なたたずまいを鑑賞することができる。

建掛塔

建武の新政の際、楠木正成が新政の無事を祈願し、この寺に三重塔を建立しようとした。しかし、湊川の戦で戦没したため、建設は初重で止まった。

これが今に残る「建掛塔」(重要文化財)で、中に宝生如来・弥勒如来・釈迦如来・薬師如来を祀り、後世に残すことが決められた。今も当時の姿をとどめているが、これら四仏は境内の霊宝館に展示されており、代わりに大日如来を安置している。

試作 如意輪観音菩薩像

平安時代の前期に彫られた「試作 如意輪観音菩薩像」(重文)は、本尊の試作と伝えられるとおり、本尊とよく似た姿形の像。おそらく本尊の前立仏として祀られていたと考えられる。

藍韋威肩赤腹巻(重文)

楠木正成が所用し、当寺に奉納したと伝えられる「藍韋威(あいかわおどし)肩赤腹巻」(重文)。軽装の鎧で、着脱によって伸縮することを考慮しても、現代人の身体の基準から見れば非常に小さなサイズであることに驚かされる。

楠木正成は大男であったという言い伝えがあるが、この鎧を見る限り、案外小柄であったのだろう。

*  *  *

以上、楠木正成ゆかりの名刹「観心寺」の見どころをご紹介した。上で紹介した仏像と鎧は、いずれも観心寺境内の霊宝館に展示されている。当館には、ほかに地蔵菩薩立像(重文)、宝生如来坐像(重文)、木造厨子入聖僧坐像(重文)、後醍醐天皇の綸旨など、数々の寺宝が収蔵され、拝観することができる(撮影は不可)。

とくに南北朝時代に興味がある人には訪ねていただきたい、河内長野の名刹である。

【観心寺】
■住所:大阪府河内長野市寺元475
■拝観時間:9:00~17:00
■入山料:高校生以上は300円、小中学生は100円(30人以上で団体割引)
(4月17~18日は10:00~16:00まで本尊御開帳日となり、特別拝観料は700円)
■公式サイト:http://www.kanshinji.com/
■アクセス:南海高野線・近鉄長野線「河内長野駅」から南海バスの小深線「金剛山ロープウェイ前行」、「石見川行」、小吹台団地線「小吹台行」に乗車し、「観心寺」バス停で下車

取材協力/観心寺

写真・文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

 

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