冬の味覚の筆頭に挙がる、河豚。河豚の本場といえば山口県下関市です。河豚集積地として、日本で水揚げされる天然のトラフグなどの8割ほどが集まります。
温泉と河豚の取り合わせを楽しみたいならば、下関の北に位置する川棚温泉がおすすめです。下関の奥座敷といわれる長閑な温泉地は、じつは多くの文人墨客に愛された地でもあります。
800余年前に開湯した川棚温泉は、なめらかなラジウム泉で、長門長府藩第三代藩主・毛利綱元が病気治癒のために滞在し、回復したことで一躍知られるようになったといいます。
その後も漂泊の俳人・種田山頭火(たねださんとうか)が川棚温泉を気に入り、100日ほど滞在しました。また、フランスのピアニスト、アルフレッド・コルトーも、宿泊したホテルの窓から眺めた響灘と厚島(あづしま)の美しい景色に魅せられ、厚島を譲ってほしいと当時の市長に懇願したほどでした。
今も穏やかな景色は変わらずに旅人を癒してくれます。また、川棚温泉は、熱した瓦の上に茶そばなどを乗せていただく瓦そば発祥の地ともいわれています。豊かな味覚に舌鼓を打ちたいものです(写真は川棚グランドホテルの露天風呂)。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。