東京・青山の根津美術館で、離れ離れになってしまった帝釈天立像と梵天立像が112年ぶりに再会する画期的な展覧会が開かれています。
根津美術館所蔵の帝釈天立像は、もともとは奈良の興福寺東金堂で梵天立像と対になっていた仏像です。明治初年、神仏分離令が出され、神仏習合の考え方が許されなくなり、廃仏毀釈運動が起こったときに、興福寺も少なからぬ影響を受けました。寺の領地は縮小され、多くの文化財が焼かれ、売られました。
そんな惨状を嘆き、興福寺のために資金的な援助をしたのが、茶人で実業家の益田鈍翁です。帝釈天立像は、その返礼として明治38(1905)年に益田に贈られました。当時の写真を見ると顔や右肩以下が大破しており、益田が所蔵していた時に、現在の形に復元されたと考えられています。その後、根津美術館創設者で、そのコレクションの基礎を築いた根津嘉一郎の手に渡り、現在に至ります。
帝釈天立像、梵天立像は、ともに、像内に記された書付から、鎌倉時代に定慶という仏師によって作られたことがわかっています。定慶とは、いったいどのような仏師なのでしょうか。興福寺国宝館、金子啓明館長は次のように説明します。
「じつは、定慶の来歴はよくわかっておりませんが、運慶の父康慶の弟子であった可能性が高く、運慶の非常に近くにいた仏師であることは、ほぼ間違いないと考えられます。その作品は非常に少ないのですが、国宝に指定されている、興福寺東金堂の維摩居士像が残っています。鎌倉時代を代表するリアルな人物表現で非常に有名な仏像です。この像と一対をなす、文殊菩薩像も、定慶に近いところで作られた可能性が高く、おそらく東金堂全体を定慶という人が中心になって、制作活動を行ったのだと思います」
運慶と同じ、慶派の仏師の手による迫真の造形美を、是非ご自身の目でお確かめください。
【特別展示「再会―興福寺の梵天・帝釈天」について】
■会期/2017年1月7日(土)~3月31日(金)
■会場/根津美術館 http://www.nezu-muse.or.jp/
■住所/東京都港区南青山6-5-1
■電話番号/03・3400・2536
■料金/「染付誕生400年」展、「高麗仏画-香りたつ装飾美」展の入館料に準じる
■開館時間/10時から17時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日、2月20日~3月3日
*ただし月曜日が祝日の場合、翌火曜日
■アクセス/地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅下車 A5出口(階段)より徒歩8分/B4出口(階段とエスカレータ)より徒歩10分/B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩約10分、都バス渋88 渋谷~新橋駅前行南青山6丁目駅下車 徒歩約5分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』