藤戸石を運ぶ。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第12回。前週に将軍足利義昭(演・尾上右近)が居留する本国寺が三好三人衆らに襲われるという非常事態がありました。そのため、本国寺では将軍を守れないということで、信長(演・小栗旬)は新たな将軍御座所の建設を始めます。

編集者A(以下A):後に二条御所と称される将軍御所を建築することになりました。この二条城建設にはさまざまなエピソードが伝えられています。そのうちのひとつが「藤戸石」でしょう。信長が藤戸石を運ぶ木橇(きぞり)に乗って、自ら鼓舞しながら二条城に運んでいました。

I:『信長公記』には、「信長公御自身御越しなされ、彼の名石を綾錦を以てつつませ、色々花を以てかざり、大綱余多(あまた)付けさせられ、笛・太鼓、つづみを以て囃し立て、信長御下知なされ、即時に庭上へ御引付け候」と記されています。

A:藤戸石を綾錦で包み、花を飾り、大綱もつけて運んだというんですね。笛や太鼓、鼓の音曲でにぎわいを演出したということで、劇中では小一郎(演・仲野太賀)が太鼓を叩いていました。ほぼ『信長公記』の通りの演出になっていますので、原文を読んで比較するのも面白いかと思います。さらに、この件に関しては、公家の山科言継(やましな・ときつぐ)も日記『言継卿記』に、細川右馬家の庭にあった藤戸石を信長が3000~4000人の人数で、笛鼓で囃したてながら運搬したことを記していますから京都の関心事だったことは間違いないです。現在「銀閣」と呼ばれる慈照寺からも「九山八海(くせんはっかい)」という名石を運んできたのもこの時です。

I:あ、慈照寺から運ばれた石のことは覚えています。2020年の『麒麟がくる』では、建設現場に運び込まれた石について信長(演・染谷将太)が問うて、「慈照寺から運ばれた石」という場面がありました!

A:信長にとっては、わずか3か月でこれだけの城を築く財力、動員力、技術力を誇示し、自らの威光を誇示するパフォーマンスです。竹中半兵衛(演・菅田将暉)がルイス・フロイス(演・フェルナンデス直行)に説明していましたが、藤戸石は、源平合戦に由来する「天下人の石」。前週に登場した茶器(茶入れ)の「九十九茄子(つくもなす)」が、足利義満、足利義政らの足利将軍に伝来された末に、松永久秀から信長に献上された名器であったのと同様に、持ち主が変遷した歴史が伝承され、「天下人が持つ石」として珍重されたといいます。

I:「藤戸石の物語」の源流は、古典『平家物語』巻十「藤戸」に記述されている源平合戦ですね。一の谷の合戦後に、現在の岡山県児島で対陣した源氏と平氏。両者の間には海があったといいます。源氏軍の佐々木盛綱は、騎馬で海を渡れぬかと地元の漁師に聞き込みをし、ある場所が特定の日にち、時間帯には浅瀬になることを教えてもらいました。このとき、佐々木盛綱は、この情報を独占して手柄を立てたいと思い、漁師を殺してしまったそうです。藤戸石は、この時に目印となった「浮州石」を京に運んだという伝承ですね。

A:現地にはまだ行ったことがないのですが「浮州石」があったとされる場所が岡山県倉敷市藤戸町。その場所が陸地になっているのは、広大な干拓のなせる業ということです。

I:世阿弥作の謡曲『藤戸』は、佐々木盛綱によって殺された漁師の母が盛綱を糾弾するという物語ですね。藤戸石は足利将軍家に伝来されて、劇中の頃には細川典厩家にあったといわれます。信長は細川家から二条御所に運搬したということになるんですね。

藤戸石のエピソードと同時には描けなかった「ブラック信長」

竹中半兵衛(右/演・菅田将暉)がルイス・フロイス(左/演・フェルナンデス直行)の案内役。
(C)NHK

I:ルイス・フロイスが登場しました。前述のように案内役が竹中半兵衛という「贅沢な仕様」です。

A:二条城の建設現場でルイス・フロイスが信長に面会したことが彼の著書『日本史』に記載されています。ここで、フロイスは、信長が女性をからかった兵士の首を斬った場面を目撃したというのです。信長の残酷な側面をあらわすエピソードとしてよく知られた話です。1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では、ルイス・フロイスとの最初の面会が、二条城の工事現場に設定されていました。現場で自ら工事の監督をする信長(演・緒形直人)が、市女(いちめ)笠を被った女性をからかって笠の中の顔をみようとしていた男を斬り捨てるというフロイスの『日本史』に準拠する場面が描かれていました。一刀両断で男の首が宙に舞い、首の無くなった男が一秒ほど直立した後に、倒れるというショッキングなシーンでした。

I:この話は、フロイスの『日本史』だけに記されているエピソードなんですよね。いずれにしても、藤戸石の移動を自ら鼓舞する「陽」のシーンと同じ回に「陰」のこのシーンを描くのは難しいですよね。

A:「陰」と「陽」の揺れ幅が激しいのが、信長という男の真骨頂ですけどね。ところで、ルイス・フロイスといえば、『信長 KING OF ZIPANGU』では「語り」がフロイスという設定で、毎回のラストに「アテブレーベ・オブリガード」というポルトガル語による挨拶で締められました。「また近いうちに。ありがとうございました」という意味らしいのですが、今、こうやってルイス・フロイスが登場すると、「アテブレーベ・オブリガード」が欲しかったりします(笑)。

秀吉の京都奉行

京都奉行として公家たちともうまくやろうと頑張る秀吉(右/演・池松壮亮)と、秀吉をさりげなく助ける明智光秀(左/演・要潤)。(C)NHK

I:さて、秀吉(演・池松壮亮)が「京都奉行」に抜擢されました。いったいどんな仕事なのかということを竹中半兵衛が「京の街を治め、民の訴えを裁き、商いの是非を定め 公家との談判、寺社の取り締まり……」と説明しました。藤戸石の解説といい、軍師ならぬ「名解説者」になった感じです。

A:秀吉の京都奉行職ですが、何よりも格式を気にする公家たちの世界です。織田家中の中で、ひときわ出自が低く京都の礼法作法にもっとも通じていないと思われる秀吉をなぜ抜擢したのか――というのは、1996年の『秀吉』でも言及されていましたが、謎ですよね。公家衆との和歌の会に出席して、蹴鞠の場にも顔を出す。精力的に「京都奉行」の職掌を担っていました。なんという健気な秀吉……。

I:公家衆と交わりながら、和歌を詠み、蹴鞠に励む姿に胸を打たれました。羽子板遊びでつけられるように、負けると顔に墨で落書きをされて顔が真っ黒になっても頑張っている姿が伝わってきます。女郎屋でうつつを抜かしてはいましたが、まるで昭和のモーレツ社員を見ているようでした。

A:昭和のモーレツ社員? 「永禄の織田家中出世頭」の姿をみて昭和を連想しましたか。ところで、昨年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では、江戸の吉原が舞台のひとつになりましたが、吉原と並び称される京都の遊郭が「島原」。もともと京都の遊郭は、足利義満時代に公認されたそうですが、『豊臣兄弟!』劇中の時代は、今の京都駅の北側辺りにあったようです。いわゆる「島原遊郭」ができるのは、もう少し後の時代になります。

秀吉一族のもっとも幸せだった一日

秀吉、小一郎(演・仲野太賀)と家族の一家団欒。(C)NHK

I:さて、信長の命で小一郎が妻を娶ることになりました。安藤守就(演・田中哲史)の娘という設定です。竹中半兵衛も安藤守就の女婿といわれますから、半兵衛と小一郎は「相婿」という設定になるのでしょうか。慶(ちか/演・吉岡里帆)という名前だそうです。演者の吉岡さんの大河ドラマデビューということですが、快活な直(演・白石聖)と異なり、何やら暗い影を感じる登場でした。いったい秀吉一族にどのような影響を与えることになるのでしょうか。京都務めから秀吉と小一郎が岐阜に戻ってくると、一族が勢揃いしていました。

A:寧々(演・浜辺美波)の妹のやや(演・増井湖々)とその夫長吉(後の長政/演・大地伸永)までいましたね。浅野長政といえば、広島藩浅野家の祖です。赤穂事件(忠臣蔵)でおなじみの浅野内匠頭長矩の祖でもありますね。ややは『おんな太閤記』(1981年)では浅茅陽子さんが演じていて、秀吉が自分の出世のために無茶をするから、家臣が大変だという姿勢だったのが印象的でした。『豊臣兄弟!』では、どんなふうになるのでしょうか。

I:私は、一族が勢ぞろいして和気あいあい食事をしている風景をみて、秀吉一族がもっとも幸せだった一日だったのではないかなと思いました。寧々と秀吉もうまくまとまりましたし。この後、出世を果たしますが、一族がどうなったかを思うと……。

A:そういえば、『鎌倉殿の13人』(2022年)でも、そんな場面がありましたよね。第21回です(https://serai.jp/hobby/1075619)。当時の当欄記事を引用します。

I:喜びの中に、「やがて来る悲しみの種がまかれる」という胸に迫りくるシーンでしたよね。この後の歴史を知っている人にも、あまり詳しくない人にも、今後見続けることで印象に残るシーンとして設定された感があります。

A:時政、りく、全成、大姫、畠山重忠、そして稲毛重成(演・村上誠基)、さらには、生まれたばかりの時政の息子に畠山重忠の身ごもったばかりの子供……。満面の笑みの中にいる彼らの今後の運命を思うと、あまりに切ない……。

I:ほんとうに、なんだか切なくなりますね……。

小一郎に嫁ぐことになった慶(ちか/演・吉岡里帆)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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