
腰痛で病院に行っても「骨に異常なし」と診断され、湿布・痛み止めといった対症療法、あるいは「年齢のせい」といった対応をされる。この痛みを抱えたまま何年も過ごすしかないと、慢性腰痛に悩まされる多くの人が諦めてしまっているのではないでしょうか。
理学療法士で「痛み改善」のスペシャリスト・松田圭太さんによると、その考えは古いといいます。日々進化する医学によって、腰痛の原因の研究も進み、治療法もアップデートされています。
松田さんの著書『腰痛は医者には治せない:2人に1人が「筋肉」「関節」が原因!理学療法士の神ワザ治療』(小学館)では、病院(画像診断)では見つけられない腰痛の本質的な原因と、本気で完治を目指すための具体的なメソッドを提示。理学療法士として医療現場の最前線で患者と向き合い続けてきた松田さんの経験と、最新の医学的エビデンスに裏付けられた完治を目指す治療法が紹介されています。
そこで、今回は『腰痛は医者には治せない』から、世界的にも効果が認められている「認知行動療法」についてご紹介します。実はその痛みは思い込みかもしれないという衝撃の事実。成功体験を重ねることで、痛みを軽減できるかもしれません。
指導/松田圭太
認知行動療法とは、痛みの感じ方を変える心理療法
日本ではまだまだ認知が進んでいませんが、「認知行動療法」は「運動療法」同様、世界的に効果が認められている「痛み」に対する治療法です。定義には「人の考え方(認知)と行動のパターンが感情や症状に大きく影響するという前提に基づき、歪んだ思考や不適切な行動習慣を修正し、より適応的な思考・行動へと導く心理療法」とあります。(※1)
要するに、物事のマイナスなとらえ方や間違った考え方を改善し、ストレスや鬱、不安を解消して体の痛みの感じ方を変えること。特に慢性痛に悩む人には認知行動療法が必要です。痛みを抱える不安が続くことによって、日常の活動量が低下する→心身の機能が低下する、睡眠が悪化→さらに痛みを感じるようになる、といった悪循環に陥るからです。
「認知行動療法」をより身近に理解してもらうために、私は「脳内の鳴り止まない火災報知機(サイレン)を止める作業」にたとえて説明することが多いです。
私たちの体には、異常を知らせるための「火災報知機」が頭に備わっています。骨折や怪我をしたときは、体の中で「火事(怪我)」が起きている状態。サイレン(痛み)が鳴るのは正常な反応です。しかし、「火(怪我)は消えているのに、サイレン(痛み)だけが鳴り止まない」としたら?
これが長引く痛みを抱える人(慢性痛に悩まされている人)の頭のなかです。体の傷は治っているのに、脳が「また火事になるかもしれない」と怖がって、スイッチを押し続けている。あるいは、火災報知機(痛みの感知器)が故障して、少し触っただけで「火事だ!」と誤作動を起こしてしまっている状態です。
※1)Beck AT. Cognitive Therapy and the Emotional Disorders. International Universities Press, 1976.
痛みの定義が変わりつつある! まさに病は「気」から
痛みの世界的権威である国際疼痛学会も、2020年に痛みの定義を41年ぶりに変更しました。その中で「痛みは体の傷だけでなく、個人の体験や感情によって変わる」と明記されています。(※2)
つまり「火(怪我)がなくても、脳の状態でサイレン(痛み)は鳴る」「人それぞれの体験や受け止め方によって、感じ方が変わる」ということが世界的に認められたということ。
痛みを感じるのは「脳」です。痛みをきちんと治すためには、体の治療だけではなく、心の治療も必要だということが現在の痛みに対する認識となっています。
(※2)Raja SN, et al. The revised IASP definition of pain. Pain, 2020.
臨床体験から得た【体の傷×脳の思い込み】に効く治療

脳で感じる痛みの原因には、破局的思考(もう治らない、最悪だ、と考えてしまうクセ)、いわゆるマイナス思考が関係しているといった研究があります。(※3)
私自身患者さんと接することで、「痛みのとらえ方」が大きく影響していることは臨床的にも感じています。患者さんの中には、ちょっとした刺激でも「痛いっ」となる方がいます。本人にとっては真実の痛みです。そんな患者さんの思考をどう変えていくのか? 私の経験をふり返ってみます。
ある患者さんは、体の組織はきれいなのに、頭だけが異常に反応していました。率直に言えば、どんどんネガティブな思考に陥っていたのです。その背景には、診療時に医師から「歳だろうね」と片付けられて、まったく痛みを理解してもらえなかったというストレスや、話を聞いてもらえなかった怒りがありました。
「仕事を辞めるしかないね」や「この痛みは一生付き合っていくしかない」といった言葉もネガティブ思考に拍車を
かけたようです。人間は「なにかわからない痛み」や「いつ起きるかわからない痛み」と向き合っているだけで、痛みを何倍も感じやすくなるものです。
こんな患者さんに対しては、私はまずひたすらに相手の話を聞きます。そしてお互いに腹を割ってこれからの治療法をとことん話し合う。そこで涙が出ることもあります。翌日には、痛みが消えていることもありました。嘘みたいな話ですが、これも認知行動療法の一部です。
もう一例挙げてみましょう。患者さんに「腰を反ったら痛くなる」と思い込んでいる方がいました。過去に腰を痛めた時期があったのは事実ですが、すっかり組織も正常に治っているのに「私はもう腰を反ることができない」と思い込んでいます。
そこで、私が見守りながら患者さんに促してみると、腰を反ることができたんです。患者さんは「あ、自分にはできるんだ」という小さな成功体験を得たことになりますが、それと同時に痛みも感じなくなっていきます。そしてこの体験から「少しぐらい体に痛みがあっても、動いて大丈夫なんだ」と感じることができれば、以前のように活動できます。
こうした成功体験を積み上げていくことも、認知行動療法の一部です。
痛み治療の最終目的は、その人が痛みを抱える前の体の状態に戻してあげることです。認知行動療法で「怖くない」「動いても大丈夫」という考え方が整っても、実際に体を動かして成功体験を積まないと、脳は本当の意味で安心できません。また痛みがぶり返してしまう可能性もあります。運動療法はその“答え合わせ”になります。
少しずつ動ける範囲を広げることで、痛みへの過敏さが落ち、筋力や血流も回復し、再発への不安も消えていきます。だからこそ運動療法と認知行動療法をセットで治療することが効果的。世界的にもエビデンスのある慢性痛の治療法として評価が高まっています。(※4)
(※3)Quartana PJ, Campbell CM, Edwards RR. Pain catastrophizing: a critical review. Expert Rev Neurother,2009.
(※4)Ehde DM, Dillworth TM, Turner JA. Cognitive-Behavioral Therapy for Individuals With ChronicPain:Evidence, Innovations, and Directions for Research. American Psychologist, 2014.
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『腰痛は医者には治せない:2人に1人が「筋肉」「関節」が原因!理学療法士の神ワザ治療』
著者/松田圭太
小学館 1760円(税込)

松田圭太(まつだ・けいた)
理学療法士、整痛院ふっか総院長、慢性疼痛徒手技術「MSMメソッド(R)」指導者。
理学療法士として医療現場に長年携わった経験から、慢性腰痛・肩の痛みなど“3年以上続く痛み”に特化、運動療法と認知行動療法を組み合わせた「整痛院ふっか」を立ち上げる。医療機関や整体に通っても改善しなかった人が国内外から来院、のべ5万人を施術。さらに全国の医師・理学療法士・柔道整復師・整体師などの治療家が学ぶ慢性疼痛に特化した治療技術「MSMメソッド(R)」をのべ6万人に指導。科学的根拠(エビデンス)に基づいた運動療法と徒手療法を統合した独自アプローチは、整形外科クリニックのリハビリにも導入されている。自身が校長を務める、日本最大級の疼痛治療家コミュニティ「疼痛治療カレッジ」には4000名以上のプロの整体師・マッサージ師などが参加。治療家の間では「先生の先生」と呼ばれる。その医療福祉分野での活動が評価され、2025年「東久邇宮文化褒賞」を受賞。今春、初の著書『腰痛は医者には治せない』を上梓。株式会社Medical Book Japan代表。「MSMメソッド」は株式会社Medical Book Japanの登録商標です。











