石田三成(右/演・松本怜生)、登場。(C)NHK

ライターI(以下I):さて、『豊臣兄弟!』第18回ですが、冒頭で衝撃的な説明がありました。なんと、信玄(演・高嶋政伸)亡き後の武田家を継いだ武田勝頼と織田信長(演・小栗旬)、徳川家康(演・松下洸平)連合軍との間で争われた長篠の合戦が、図上での説明で終わったことです。そればかりではありません。30年前の大河ドラマ『秀吉』で主人公の秀吉を演じた竹中直人さんが演じる松永久秀のナレーションは「退場告知」ですか?

編集者A(以下A):これは長篠の合戦や松永久秀の最期がどう描かれるのかと期待していた視聴者にとっては、驚愕の展開かと思われます。松永久秀に関しては、時系列的には、まだ登場すると思われますが、ちょっとびっくりしましたよね。まあ、でも主役が「豊臣兄弟」ということですから、兄弟周りをメインでやっていくということを改めて宣言したということでしょう。それにしても「なんでだ~」と叫んだ人は多かったのではないでしょうか。

I:そうした中で、木下藤吉郎秀吉から羽柴筑前守秀吉(演・池松壮亮)に変わりました。なぜ羽柴なのか? ということは敢えて説明されませんでしたね。

A:一般的には、信長重臣の丹羽長秀(演・池田鉄洋)の「羽」と柴田勝家(演・山口馬木也)の「柴」の字を合体させたという風にいわれていますが、両重臣におもねっている感じが否めませんから、敢えて説明を避けたということではないでしょうか。そして秀吉が築城したという長浜城が登場しました。もともと「今浜」という地名を「長浜」と変更したわけです。これももちろん信長の「長」の字を宛てたという風にいわれています。

I:羽柴といい長浜といい、人たらしの面目躍如というところですね。

A:ところで、秀吉に与えられた領地は浅井旧領ということになります。ですから最初は小谷城に入り、長浜城築城にあたって、小谷城の建材も使用したと伝えられます。前週の浅井長政(演・中島歩)の切腹の際に、小谷城が炎上していましたが、実際は焦土層がなかったということで、炎上無き落城だったことが知られています。

I:なるほど。

A:もともと近江国は、鎌倉時代に源頼朝挙兵に参じた佐々木一族に与えられました。鎌倉時代に北近江(江北)を京極佐々木氏、南近江(江南)を六角佐々木氏と分割統治し始めて、戦国時代に至るということです。浅井氏は江北の京極氏の被官出身といわれ、このころは京極氏を凌駕していたということになります。いずれにしても、秀吉が与えられた領地は浅井旧領。統治するのに苦労はあったのだと思います。

城持ち大名と秀吉家臣団

新しい反物に喜ぶ秀吉の姉妹、あさひ(左/演・倉沢杏菜)ととも(右/演・宮澤エマ)。(C)NHK

I:さて、秀吉が城持ち大名になったということで、衣装も豪華になりました。姉や妹も城持ち大名の家族になったことが、小一郎(演・仲野太賀)の正室慶(ちか/演・吉岡里帆)の嫌味な台詞も含めてコミカルに描かれました。

A:この長浜入場のくだりは30年前の『秀吉』の際にもコミカルに描かれた場面です。市原悦子さん演じる秀吉の母が、着つけぬ衣装をまとって家臣らに挨拶した場面が印象に残っていますから、そうした大河ドラマの「歴史」に準拠したといっていいでしょう。

I:そして、長浜城ですが、天守の存在がひときわ目を引きました。

A:実際に秀吉が築城した際には、天守があったようです。明智光秀(演・要潤)の坂本城も同様ですから、想像するだけで楽しいですね。ちなみに現在の長浜城の天守は復興天守になります。桜の咲く時期に登城したことがありますが、「日本さくら名所100選」に選定されるだけあって感動したのを覚えています。

I:桜とお城といえば、弘前城は別格として、高遠城や上越の高田城、松前城などが浮かびますね。

長浜城の天守にて。左から羽柴小一郎長秀(演・仲野太賀)、竹中半兵衛(演・菅田将暉)、秀吉(演・池松壮亮)。(C)NHK

石田佐吉少年の「三献茶」のエピソード

秀吉の新しい家臣として選ばれた片桐且元(左/演・長友郁真)、平野長泰(左から2人目/演・西山潤)、三成と、秀長に召された藤堂高虎(右/演・佳久創)。(C)NHK

I:さて、石田三成(演・松本怜生)が初登場しました。30年前の1996年の大河ドラマ『秀吉』で石田佐吉を演じたのは、小栗旬さんです。石田佐吉は、秀吉が鷹狩の際に立ち寄ったお寺の小僧で、3杯のお茶の淹れ方に非凡な才ありと認められて、家臣になったというエピソードが有名です。それが出てくるのではないかと期待されていた方もいたかもしれません。今回のドラマでは割と成長している姿で登場した三成ですが、有名な「三献茶」のエピソードは、まだ少年時代という設定で、年端もいかぬ子供なのに、狩りで疲れて喉がかわいているであろう秀吉に最初はぬるめのお茶を大服で出し、次に少し熱めのお茶を中くらいの大きさの碗で出し、3杯目は熱いお茶を小さな碗で少量出した、というものです。相手の状況を読み取って、臨機応変に心配りができる賢い子供として紹介されることが多いですよね。

A:このエピソードは『武将感状記』という江戸時代中期の正徳6年(1716)に戦国時代の武将たちのさまざまなエピソードをまとめた本が出典になります。小説やドラマでよく描かれる有名な場面ではあります。その『武将感状記』の該当箇所を引用したいと思います。かぎかっこはこちらで補足しています。

『秀吉石田三成を召し出さるる事』
石田三成はある寺の童子也。秀吉一日放鷹に出て喉乾く。
其の寺に到りて「誰かある、茶を點じて来れ」と所望あり。
石田大いなる茶碗に、七八分にぬるく立て持ちまゐる。
秀吉之を飲み舌を鳴らし、「氣味よし今一服」とあれば、又立て之を捧ぐ。
前よりは少し熱くして、茶碗半ばにたらず、秀吉之を飲み又試みに「今一服」とある時、
石田此の度は小茶碗に少し許りなる程熱く立て出す。
秀吉之を飲み其の氣の働きを感じ、住持にこひ近侍に之を使ふに、
才あり、次第に取り立て奉行職を授けられぬと云へり。

A:ご覧の通り、わずかこれだけの分量です。この石田佐吉のエピソード、現代ではほぼフィクションというふうにいわれています。前述の通り、『豊臣兄弟!』で織田信長を演じている小栗旬さんは、1996年の『秀吉』で石田佐吉を演じました。竹中直人さん演じる羽柴秀吉と沢口靖子さん演じるおねにお茶を出す場面が印象に残っています。おねがほんとうにおいしそうにお茶を喫したあとに「おいしいお茶」というと、佐吉少年が「今度のは熱く入れましてございまする。最初はのどがお渇きかと存じまして、熱い茶では飲みにくうございますゆえ、ぬるくたてました」と応じていました。

I:なるほど。原典の『武将感状記』の記述が、こんな感じでアレンジされた一例ということですね 。

A:ということで、石田佐吉の「三献茶」のエピソードを期待していた方には残念でしたが、江戸時代にまとめられた本のエピソードに頼らない姿勢は評価したいと思います。「家臣を選ぶための試験」という表現の是非はともかくとして、こういう斬新な描き方はおもしろいですね。どうせやるなら『絵本太閤記』由来のエピソードは完全カットなどに挑戦してほしかったりします。

I:さて、試験の結果、石田三成、片桐且元(演・長友郁真)、平野長泰(演・西山潤)が秀吉の家臣に、藤堂高虎(演・佳久創)が小一郎の家臣になるということになりました。既に前半に尾張出身で秀吉の身内である加藤虎之助(後の清正/演・伊藤絃)、福島正則(演・松崎優輝)が登場しましたので、秀吉家臣団の骨格が整ってきたということになります。「戦国版 坂の上の雲」を見ているようで清々しい気持ちになりました。

A:私は、家臣抜擢試験の場面をみて、ちょっとセンチメンタルな気分に襲われました。後世に名を残すのは生き残ってこそという戦国の冷酷な現実を見せつけられた思いがしたからです。

I:どういうことでしょう。

A:今回、若者たちが新たに秀吉家臣として加わったわけですが、宮田喜八郎光次、神子田(みこた)半左衛門正治など、秀吉の「天下」を見ることなく討ち死にしたり、途中で袂を分かった人物は描かれないのだな、と思ったわけです。このころから秀吉の家臣に名を連ね、立身していった人物のなかに後世あまり知られていない面々がいることを忘れてはならぬと感じた次第です。

I:そういえば、2006年の大河ドラマ『功名が辻』では主人公千代(演・仲間由紀恵)の夫として準主役だった山内一豊(演・上川隆也)もまだ登場していないですよね。

A:そうした人間模様も歴史ドラマの醍醐味のひとつですよね。今週亡くなった浅野長勝(演・宮川一朗太)も広島藩浅野家の祖ですし、赤穂浪士で有名な赤穂浅野家の祖でもあります。広島藩も浅野家の前は福島正則ですから、こうした人間模様に思いを馳せた時に感慨深い思いに襲われるのですよ。

I:人間模様といえば、秀吉が越前一向一揆の戦いに出張っていたことにも触れられましたね。

A:前週に、朝倉義景(演・鶴見辰吾)を裏切った朝倉景鏡(演・池内万作)ですが、土橋信鏡(つちはし・のぶあきら)と名を変えていました。信の字は信長の偏諱になります。心機一転、織田家に仕えてリスタートということだったのでしょうが、この越前一向一揆の戦いで討ち死にしてしまいます。これもまた人間模様ですね。

I:さて、今週は久しぶりに寧々(演・浜辺美波)が登場しました。すっかり大人の女性になっているという印象でした。今後の登場も楽しみです。一方で、茶々(演・増留優梨愛)も登場しました。

A:なぜ、茶々が秀吉の側室になったのか。今後、そんなところが深掘りされるのではないかという展開でした。いろいろな出来事が交差して、お市の方(演・宮崎あおい)、茶々と「二代」にわたって、「落城」を経験する「悲劇」のスタートですね。

I:浅井三姉妹は父長政から贈られた木彫りの「御守」を常に懐中に忍ばせているようでした。まるで毛利元就の「三本の矢」のようなエピソード。お市の方の「ゆくも地獄、戻るも地獄」というまるで一向宗門徒のような台詞も気になりました。

A:そうした人間ドラマは、コミカル抜きで展開してほしいですね。

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。

浅井三姉妹。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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