
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』では、武田信玄(演・高嶋政伸)が餅をのどに詰まらせて亡くなり、松永久秀(演・竹中直人)も退場ということになりました。『豊臣兄弟!』第10回では、足利義昭(演・尾上右近)を擁して上洛を果たした織田信長(演・小栗旬)が、丹羽長秀(演・池田鉄洋)に命じて全国の諸将あてに書状を送るように命じ、その書状を受け取る諸将の姿が描かれました。書状を受け取ったのは、上杉謙信(演・工藤潤矢)、武田信玄、荒木村重(演・トータス松本)、朝倉義景(演・鶴見辰吾)、徳川家康(演・松下洸平)、松永久秀、長宗我部元親(演・磯部寛之)の7人なのですが、このうち3人がすでに退場したことになります。
編集者A(以下A):残る4人は荒木村重、上杉謙信、徳川家康、長宗我部元親なのですが、私たちは長宗我部元親の登場に注目しているわけです。演じるのは、ロックバンド[Alexandros](アレキサンドロス)の磯部寛之さんです。長宗我部元親は土佐から身を興し、後に四国をほぼ統一した戦国武将。一部の歴史愛好家からは熱烈に支持される存在です。土佐高知は、観光面でいえば「坂本龍馬一択」の状況ですが、その状況にくさびを打てるとしたら長宗我部元親ともいわれる存在です。とはいえ、前述の有名な戦国武将と比べたら知名度不足は否めないのですが……。
I:その知る人ぞ知る戦国武将の長宗我部元親が、謙信、信玄、北条氏康などと「同格扱い」で登場したことに期待の声があがっているようです。
A:ストレートにいいますと、本能寺の変の有力な動機のひとつに「信長の四国政策変更説」というのがあります。当初、信長は「四国は切り取り次第」と長宗我部元親にお墨付きを与えていたといいます。信長と長宗我部の取次役を務めていたのが明智光秀なのですが、信長はその約束を反故にします。面子を潰された光秀が信長を討つ動機のひとつになったといわれる問題です。
長宗我部元親が登場した大河ドラマ
I:四国土佐を本拠とする長宗我部元親は、大河ドラマの歴史の中で2作品に登場した過去があります。1978年の『黄金の日日』では、主人公の助左衛門(演・市川染五郎、現二代目松本白鸚)が、ルソンから取り寄せた雑器の壺をひとつ五千貫で売りたいと千利休(演・鶴田浩二)に懇請。利休が秀吉(演・緒形拳)に掛け合って大名らを集めて売り立ての場を設けました。島津義久(演・中村靖之介)、安国寺恵瓊(演・神山繁)らとともにその席にいたのが長宗我部元親(演・庄司永健)でした。『黄金の日日』では、1596年、サン・フェリペ号が長宗我部領の浦戸に座礁した際には、海岸で視察する元親の姿も描かれました。
A:長宗我部元親二度目の大河ドラマ登場は、2014年の『軍師官兵衛』です。羽柴秀吉(演・竹中直人)が四国平定の軍を進めているという説明の後で、「四国攻めが始まった。先鋒となった黒田軍は破竹の勢いで進撃。四国の覇者長宗我部元親(演・ダイヤモンド勝田)はついに降伏。「わずか二月あまりで戦いが終わった」というナレーションにかぶせて、官兵衛らに平伏する長宗我部元親が映し出されたのです。
I:長い大河ドラマの歴史の中で、それだけの「出演歴」しかない長宗我部元親が敢えてキャスティングされたということは、「本能寺の変 四国説」が採用されるのではないかと期待されているということですね。
A:そうした声を後押ししているのが、『豊臣兄弟!』での足利義昭と明智光秀(演・要潤)の関係が、光秀が主人公だった『麒麟がくる』は別格として、過去最高レベルのクオリティだったこと。これで期待しないわけにはいかないと思います。
I:「四国説」は今まで大河ドラマでは言及されていないのでしょうか?
A:実は複数の作品で台詞の中だけでありますが「四国説」に言及されています。『春日局』(1989年)、『利家とまつ~加賀百万石物語』(2002年)です。光秀が四国との取次ぎをしていたことに触れた『江 姫たちの戦国』を併せて3作品になります。詳細については後日改めてまとめる予定ですが、わざわざ長宗我部元親をキャスティングして、「四国説」に触れないわけはないだろうとにらんでいるわけです。
I:なるほど。でもひとつ問題が……。武田信玄が一話限りの「餅死」。松永久秀もさしたる見せ場もなく「退場」となりました。それだけに、あまり長宗我部元親に期待するのもどうなんでしょう。
A:まあまあ、それでも私たちは期待して待つのですよ。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











