
ライターI(以下I):2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』放送開始まで1週間となりました。前週の当欄では、『豊臣兄弟!』は「推し」であることを明らかにしました。
弟を主人公にしただけで新鮮な物語に昇華。大河ドラマ『豊臣兄弟!』が視聴率20%超も夢ではない! という根拠【豊臣兄弟! 満喫リポート】ZERO
編集者A(以下A):繰り返しになりますが、豊臣秀吉と弟の秀長兄弟の物語は、日本の歴史上最大級のサクセスストーリーです。同時に、豊臣兄弟の「出世」は、織田信長のサクセスストーリーでもあります。彼らの「出世物語」は、日本を大転換するきっかけになりました。それこそ、武家が政権を握った鎌倉幕府の時代から、権力闘争や内部抗争に明け暮れて、戦国時代に至るまで続いた「戦乱の日々」を終わらせる原動力となったのです。
I:「織田が搗き、羽柴がこねし天下餅、座りしままに食ふは徳川」ともうたわれたように、最終的には徳川家康によって日本に「平和」がもたらされるのですが、その礎を築いたのは、間違いなく信長、秀吉、そして秀長。その「物語」は、日本人なら知っておくべき物語だということですよね。
A:前週は、織田信長役の小栗旬さんに言及しました。秀吉、秀長兄弟の物語は、本能寺の変で信長が明智光秀によって討たれるまでは信長中心の世界観の中で進んでいきます。ですから、まずは信長役の小栗旬さんに言及したわけです。
15年前の豊臣秀頼役
I:ということで、今週は、『豊臣兄弟!』主人公の秀長を演じる仲野太賀さんについて触れたいと思います。仲野さんは、1993年生まれの32歳。1991年の大河ドラマ『太平記』で主役の足利尊氏を演じた真田広之さんは31歳でしたから、まさに大河の主役を張るには適齢ともいえる、脂ののりきった俳優です。
A:30年前の『秀吉』では、秀吉役の竹中直人さんが40歳、秀長役の高嶋政伸さんが30歳でしたね。仲野太賀さんといえば、個人的には『今日から俺は!!』で演じたキャラクターが大好きですが、さまざまな役を自在に演じるユーティリティプレーヤーです。大河ドラマももう6作目の出演で、特に2011年の『江 姫たちの戦国』(以下『江』)では、豊臣秀頼を演じています。
I:秀頼といえば、父は秀吉で、秀長の甥にあたる人物ですね。
A:『江』は15年も前の作品になります。当時の仲野太賀さんは姓のない「太賀」という名で活動していて、初々しい10代でした。第39回「運命の対面」では、徳川家康(演・北大路欣也)の上洛要請に応じて、二条城で対面する場面が描かれました。それまでは、実母淀の方(演・宮沢りえ)に遠慮して、あまり言葉を発していなかった秀頼が「主張」し始める印象的な回でした。『江』はNHKオンデマンドで全話視聴可能ですが、『豊臣兄弟!』の前哨戦として視聴しても面白いと思いますし、『豊臣兄弟!』を全話視聴した後に、「豊臣家のその後」ということで視聴するのも一興かと思われます。
I:でも、その口ぶりだと、Aさん、もう『江』を再視聴しちゃったんですよね。
A:そうです。まさに「大河ドラマ・仲野太賀」を見た思いがしました。前哨戦として仲野さんの豊臣秀頼を見ると、ひとりの俳優がいかにアップグレードしたかを体感できると思います。それほどまでに『豊臣兄弟!』の仲野太賀さんの秀長は熱い。
I:もう、第1回の試写会を見てからずっと興奮してますよね。
竹中×高嶋コンビを超えられるか?
I:そして、秀吉役の池松壮亮さんです。池松さんといえば、2003年の『ラストサムライ』の少年飛源役で、強烈なインパクトを発した俳優です。その池松さんも35歳。これほどまでに秀吉役がはまる俳優になるとは思いもしませんでした。前述しましたが、30年前に『秀吉』で豊臣秀吉を演じた竹中直人さんは40歳でした。
A:確かに池松さんがこれほど藤吉郎役にフィットするとは驚きでした。世間では30年前の大河ドラマ『秀吉』の印象が強すぎて、どうも『豊臣兄弟!』には関心がわかないというオールドファンがいたりしますが、そういう方にこそ、『豊臣兄弟!』は見てほしいです。というのも実は私も『秀吉』の竹中直人さんと高嶋政伸さんのコンビを超えられるだろうかとちょっと不安に感じていたのです。ところが、『豊臣兄弟!』第1回の試写を見て、その考えが誤りであったことに気がつきました。前週も言及しましたが、弟の秀長を主人公にすることで、従来の「太閤記もの」では得ることのできない、新鮮な空気に身を包まれたのです。仲野太賀さんと池松壮亮さんのコンビぶりも絶妙でした。
I:それ、私も思いました。仲野太賀さんと池松壮亮さんのコンビが本当の兄弟のようにジャストフィットしているのがちょっと驚きだったんですよね。そう感じたのは私だけではなかったのですね。
A:この感覚をどのくらいの方々と共有できるのか、というのも私たちとしては重要なポイントですね。そもそも1981年の西田敏行さん(秀吉)と中村雅俊さん(秀長)も1996年の竹中直人さん(秀吉)と高嶋政伸さん(秀長)も兄弟感があまりない(笑)。もちろんこの2作では異父兄弟という設定ですから、あたりまえといえばあたりまえなのですが……。まあ、なにはともあれ、大人の人の中には「また秀吉?」「また三英傑?」と感じている人もいるかと思いますが、子どもたちにとっては、「初めての太閤記もの」「初めての三英傑」になるということに留意いただきたいと思います。脚本は『半沢直樹』の八津弘幸さん。子供たちにこそ熱気あふれる時代の空気を描く『豊臣兄弟!』をみてほしいなと思ったりしています。
I:オールドファンなので、つい1996年の『秀吉』との比較する視点が入ってしまいますが、お許しいただきたいと思います。
A:とかく自分の若いころに視聴していた過去作のことは美化しがちです。ということで、NHKオンデマンドで『秀吉』第1回を再視聴しました。
I:どうでした?
A:やっぱり面白かったです。さすが平均視聴率30%超! でも、『豊臣兄弟!』も『秀吉』と互角かそれ以上ですよ。何度もいいますが、秀長が主人公なので、いままでにない「太閤記もの」の風を感じると思います。
『豊臣兄弟!』と秀吉ファミリー
I:秀吉と秀長の兄弟が主人公といえば、「ファミリー」の出番も多くなると思います。こちらもけっこう重要ですよね。
A:はい。秀吉・秀長兄弟の母なかは、1981年の『おんな太閤記』では赤木春恵さんが、1996年の『秀吉』では市原悦子さんが演じましたが、市原さんの尾張弁は強烈で、グイっと引き込まれた記憶があります。
I:『豊臣兄弟!』では坂井真紀さんが演じる役ですね。私は坂井さんがどう演じるのか楽しみにしています。
A:これ、「オールドファンの錯覚」の領域なのですが、坂井真紀さんというと宮沢りえさんを初代とする「リハウスガール」の4代目ということで、赤木春恵さん、市原悦子さんが演じた頃と比べたらまだ若いのではないかと思うかもしれません。ところが、秀吉実母なかを演じた段階では、赤木春恵さん57歳、市原悦子さん60歳です。坂井真紀さんは2026年に56歳を迎えますから、そんなに変わらないですね。私は、強烈なインパクトだった「市原悦子さんのなか」を超えられるか、というところを注目ポイントに設定したいと思います。
I:オールドファンの視点だとどうしてもそうなるんですね。私が秀吉ファミリーで注目しているのは、宮澤エマさん演じる「秀吉と秀長の姉とも」です。
A:宮澤エマさんといえば、2022年の『鎌倉殿の13人』で北条政子の妹実衣役で爪痕を残したのは記憶に新しいところです。私は夫の阿野全成(演・新納慎也)といっしょに読経する場面がツボでした。秀吉の姉ともは、後には彼女の子どもたちまで「物語」に絡んでくるのですが、それがどこまで描かれるのか。宮澤エマさんは間違いなく物語のキーマンになりますので、こちらも要注目です。
I:そして、ファミリーの中でもっとも重要なのが妹あさひです。もともとの夫と離縁させられて、徳川家康に嫁ぐという悲劇の女性です。『豊臣兄弟!』であさひを演じるのは倉沢杏菜さん。2024年の『光る君へ』で道長の二女藤原妍子(けんし)を演じたばかりですので、ご記憶の方も多いかと思います。
A:妹のあさひについては、1981年の『おんな太閤記』では泉ピン子さん、1996年の『秀吉』では細川直美さん(役名さと)が演じました。あさひの夫も前者がせんだみつおさん、後者が元男闘呼組の岡本健一さんでしたから、なかなかイメージが湧かない感じではあるのですが、『豊臣兄弟!』では、気鋭の俳優前原瑞樹さんがあさひの夫を演じます。尾張の物語だけに中日ドラゴンズファンの俳優というところが肝です。
I:ドラゴンズの話が出たので、愛知県出身の私が敢えて言及しますが、大河ドラマで「太閤記もの」が放送される年や放送後の年にドラゴンズは強かったりします。『太閤記』の1965年は2位。翌年の1966年も2位です。『おんな太閤記』の1981年は5位でしたが、翌年の1982年に優勝しています。『秀吉』が放送された1996年は巨人の優勝で「メークドラマ」が話題になった年ですが、ドラゴンズは2位でした。そして、3年後の1999年に優勝を果たすのです。
A:ん? ということは、2026年のドラゴンズは、クライマックスシリーズに進出できるかもしれないということですね。『豊臣兄弟!』ともども盛り上がってほしいですね。そして、くどいですが、『豊臣兄弟!』は子供たちに視聴してほしい大河ドラマです。日本の歴史上最大級に時代が動いた熱気をドラマで感じ取ってほしいです。当欄では、次回1月4日の第1回から、子供と一緒に語り合える『豊臣兄弟!』ネタを可能な限り盛り込みながら展開していきたいと思います。

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











