新国立劇場『ウェルテル』2016年公演より 撮影:寺司正彦

オペラは何語で歌われるの? ――16世紀後半にイタリアで生まれたオペラはヨーロッパ各地で発展し、世界中へと広まりました。それとともに各国の言語で歌われるオペラが生まれましたが、“名作オペラ”として長く愛されている作品で用いられている言語は、歴史の長さもあって、イタリア語、ドイツ語、フランス語が多く、そこに英語やロシア語が加わります。新国立劇場では、そんな多彩な言語に対応して舞台の左右に日本語と英語の字幕が表示されます。

珠玉のフランス・オペラ。その美しき舞台に脇園彩さんがヒロインとして登場

終盤戦を迎えた【新国立劇場オペラ2025/2026シーズン】(※)に5月24日から登場するのは、今シーズン唯一のフランス語によるオペラ『ウェルテル』。作曲はフランスのジュール・マスネ(1842〜1912年)。原作はドイツの文豪として知られるゲーテが25歳で書きあげた書簡体のベストセラー小説『若きウェルテルの悩み』で、実らぬ愛に苦悩する男女の心の襞を描いて“ウェルテル効果”と呼ばれる社会現象を引き起こすほど読者を熱狂させました。そんな物語をマスネは、彼ならではの叙情的で甘美な音楽で見事に舞台化します。1892年の初演以来、フランス・オペラを代表する名作のひとつとして世界中のオペラ劇場で上演されてきました。

※新国立劇場のオペラは9月から翌年7月までを1シーズンとして10演目ほどのオペラ作品が上演されます。

新国立劇場『ウェルテル』2016年公演より 撮影:寺司正彦

新国立劇場で『ウェルテル』が上演されるのは10年ぶりということで、期待に胸を膨らませるオペラ・ファンも多いはず。しかも、今回のキャストには、名だたる世界の歌劇場を席巻中のメゾソプラノ脇園彩さんの名前が。昨年5月にサライ.jpのインタビュー(https://serai.jp/premium/1227719)に答えてくださった脇園さんが、主人公ウェルテルが恋焦がれるヒロイン、シャルロットを演じます。ロッシーニやモーツァルトなどを歌ってきた彼女が挑むフランス・オペラ。期待しかありません。

舞台を満喫するためにあらかじめ知っておきたいストーリー展開と聴きどころ 

さて、『ウェルテル』はフランス語による上演。字幕を追うので精一杯にならないためにも、あらかじめ、あらすじや見どころ聴きどころを知っておきましょう。

新国立劇場『ウェルテル』2016年公演より 撮影:寺司正彦

【あらすじ】

若き詩人ウェルテルは、貞淑なシャルロットに恋心を抱くものの、彼女には婚約者がいることを知り絶望。それでも想いを断ち切れないウェルテルは、結婚して幸せに暮らすシャルロットに再び愛を告白。結果、街を去るよう強く言われてしまいます。時は流れクリスマス・イブの夜。シャルロットは恋心を抑えきれずにいるウェルテルからの手紙を受け取り、心を乱します。すると、街を去ったはずのウェルテルが目の前に現れ、激しく求愛。その情熱に応えそうになったシャルロットはなんとか思い留まり、抱擁を逃れて永遠の別れを告げます。不吉な予感に駆られたシャルロットはウェルテルの元へ駆けつけるが、そこには拳銃で自ら命を絶とうとした瀕死のウェルテルの姿がありました。

【見どころ聴きどころ】

全4幕に優美で色彩豊かな恋の歌がちりばめられていますが、いちばんの見どころ聴きどころは第3幕。シャルロットがウェルテルからの手紙を読み返すうちに感情が高まり涙しながら歌うアリアが「手紙の歌」。一方、観客の心を強く掴むウェルテルのアリアが「オシアンの詩」。「春風よ、なぜ目を覚まさせるのか」と詩を朗読しながら切々と愛を訴えます。そして、ここから旋律が展開して、迫るウェルテルと拒むシャルロットが共に歌い上げていく。ふたりから目が離せなくなる場面です。

話題のスター歌手の共演とウェルテルの心情に寄り添う美しく写実的な美術が素晴らしい。原作との読み比べもおすすめ!

青年ウェルテルを演じるのは、同世代で最も優れたリリック・テノール(テノールの中でも最も軽い声質)と評価されているチャールズ・カストロノーヴォ。メトロポリタン歌劇場など世界の名門劇場で観客を魅了するスターが本公演で待望の新国立劇場デビューを果たします。そして、ヒロインのシャルロットが前述した脇園彩さん。イタリアを拠点に活動を続け、近年の成熟ぶりが世界から注目されているメゾソプラノです。

脇園さんは、ドイツ語の原作をフランス語でオペラ化した本作について、原作よりオペラ『ウェルテル』の方がシャルロットの人物像がより深く描かれていると感じた、として次のように興味深い発言をしています。

「ウェルテルとアルベール(シャルロットの婚約者)。シャルロットはふたつのジレンマの中で揺れる人物ですが、その中で生まれる感情のグラデーションが、とても繊細で官能的な美しさを持っているのは、(フランス人作曲家マスネが持つ)ドイツ人には出せなかったラテン系のロマンティシズムなのではと思います」
●新国立劇場情報誌『ジ・アトレ』2026年3月号インタビューより

チャールズ・カストロノーヴォ
脇園彩

フランス・オペラの重鎮による演出は文学、美術に興味のある方にとっても魅力的

演出を担うのは数多くのフランス・オペラを手がけてきた巨匠ニコラ・ジョエル。ジョエル演出版は【新国立劇場オペラ2015/2016シーズン】に注目の新制作のオペラとして2016年4月に登場しましたが、美術のエマニエル・ファーブルとタッグを組み、ゲーテが描くロマン主義的な世界を具現化したような美しい舞台を生み出して評判になりました。

新国立劇場『ウェルテル』2016年公演より 撮影:寺司正彦

序曲が終わり幕が開くと緑燃ゆる田舎町。冒頭シーンでは18世紀ドイツ・ヴェツラーの町の禁欲的な建築の狭間に大樹を投影。重厚な建物と輝かしい新緑の対比の美しさ、繊細な木漏れ日に劇場全体が包まれるような照明の効果が観客をあっと驚かせました。幕が進むにつれ、装置は、季節の移ろいを描写すると共に徐々に閉塞的になり、苦悩するシャルロットの息詰まるような部屋から、最終幕の天井まで及ぶ書棚に覆われたウェルテルの書斎へと流れていきます。

今回の上演は10年を経ての待望の再演。美術に興味のある方にもぜひ観ていただきたい舞台です。

ところで、死にゆくウェルテルを抱きかかえたシャルロットが愛を告白するオペラ『ウェルテル』の結末は、ゲーテの原作とは大きく異なっています。そうした原作との読み比べも、オペラならではの楽しみのひとつ。原作を、観る前に読むか後から読むか、それはあなた次第です。

新国立劇場『ウェルテル』2016年公演より 撮影:寺司正彦

新国立劇場 2025/2026 シーズンオペラ
『ウェルテル』
[全4幕/フランス語上演/日本語及び英語字幕付]
公演日程 2026年5月24日(日)〜5月30日(土)
予定上演時間 約3時間10分(休憩含む)

■新国立劇場オペラサイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/werther/

■問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

取材・文/ 堀けいこ

 

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