三日坊主という言葉が示すように、新しい習慣を身に着けるのに苦労している人は多いのではないでしょうか。自分は意志が弱いと落ち込んだり、続けられる人は特別だと思ったり。

じつはそれ、思い込みです。私たちの脳は「現状維持を好む」性質があり、新しい行動を始めるのが億劫だったり、続かなくなるのは脳の初期設定。そう教えてくれるのは70冊以上の著書を持つ言語学者の堀田秀吾先生。習慣は「原理とコツさえつかめれば、驚くほどスムーズに」身に着けることができるのだそうです。

堀田先生の最新著書『科学的に証明された すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)には、ハーバード、スタンフォード、オックスフォード……などの研究機関において証明された112個のテクニックが紹介されています。

今回はその本の中から、最大限の結果を得るために役立つ習慣を2つご紹介します。現状を打開するために、ぜひ試してみてください。

文/堀田秀吾

性格にあった貯蓄法を選ぶ

ビッグファイブ性格特性に合わせた貯蓄戦略を選ぶほど貯まりやすい

ビッグファイブ性格特性に合わせた貯蓄戦略とは?

コロンビア大学ビジネススクールのマッツらが行った、イギリスの2400人以上を対象に行われた研究では、貯蓄の目標が、その人のビッグファイブ性格特性(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症的傾向)と一致している人ほど、貯蓄額が多いことが報告されています。

この結果は、個人の性格に合った貯蓄目標を設定することで、その人の貯蓄への意欲や成功率を高めることができる可能性を示唆しています。

同様に、低所得者向けの非営利フィンテックアプリを使った実験でも、性格に合わせた貯蓄目標を設定することで、目標達成の確率が高まったという結果が得られました。つまり、自分の性格に合わせた貯蓄方法をすることがポイントというわけです。その性格(ビッグファイブ)が以下の5つです。

(1)開放性
特徴:好奇心が強く、創造的で新しい体験を好むタイプ
貯蓄戦略:旅行や新しい体験のために貯めるなど、「わくわくする目的」を設定すること。ゲーム感覚で貯金できるアプリや、ユニークな貯金チャレンジにとり組むと、楽しみながら続けられる

(2)誠実性
特徴:計画的で責任感があり、きちんとしているタイプ
貯蓄戦略:自動振替や詳細な家計管理アプリを使って、定期的な貯金を習慣にするのが効果的。「毎月○○円
貯める」など、明確で測定可能な目標を立てると、モチベーションを保ちやすくなる

(3)外向性
特徴:社交的で、人との交流が好きなタイプ
貯蓄戦略:共通の趣味をもつ友人と一緒に貯金にチャレンジするなど、人とのつながりを活かして貯金をしてみる

(4)協調性
特徴:やさしく思いやりがあり、他人に配慮するタイプ
貯蓄戦略:寄付や地域活動のための貯金など、「誰かのためになる目標」を立てることでやる気を生み出し、貯蓄をうながす

(5)神経症的傾向
特徴:不安を感じやすく、ストレスを抱えやすいタイプ
貯蓄戦略:「買いもののたびにおつりを自動で貯金する」など、ストレスが少ないシンプルな方法がおすすめ。安心感を与えるような明確で実現可能な目標を設定することで、不安が減り、継続しやすくなる

このように、自分の性格に合った貯蓄方法を用意することで、お金を貯めやすくなるとマッツは述べています。なんとなく貯金を心がけるのではなく、「自分の性格を理解する」ことが、効果的で続けやすい貯蓄方法となる。自分が上記5つのどれに属するかを把握したうえでとり組むようにしてください。

自分がビッグファイブ性格特性のどの性格かを知り、その性格に合った貯蓄方法を選んでみる

選択肢は必ず3つ用意しておく

なかなか動かない脳に行動をうながす仕掛け

人間は自分の選択を正当化する理由を考えながら決断している

人間はやらないことに対して、言い訳をする天才です。

著名な行動経済学者であるプリストン大学のシャフィールの研究チームは、人間は何かを選ぶときに「自分の選んだ理由が納得できるかどうか」を重視している。つまり、単に一番得をする選択をするのではなく、選んだことを自分自身に説明できる理由を探すことが大切だということです。

つまり、自分の選択を正当化する理由を考えながら決断をしているのです。たとえば、選択肢があって「どっちを買うか迷っているとき」に、どちらか一方を選んだとき、その選び方に納得できる理由が欲しいわけです。

たとえば、休日に何もせずにゴロゴロしてしまう―という選択は、「ゴロゴロしたほうが体を休めることができる」といった自らを正当化できる理由を見つけ、当人はその判断を下したと考えるというのです。

人間は現状維持を選択しやすくできている

シャフィールらは意思決定に関するさまざまな実験を行っています。たとえば、消費者がリピート(同じ選択を続けること)とスイッチング(新しい選択肢に切り替えること)をする際、「後悔」をどのように経験するかを調べたところ、スイッチングはネガティブな結果が生じたときこそ、その後悔が強くなることがわかりました。そのため、人間は「現状維持」を好み、よほどの理由がないかぎり、新しい選択肢を選ばないのです。

シャフィールらは、強い理由がある場合と理由が乏しい場合における意思決定も比較しているのですが、強い理由がある場合はリピートが後悔を引き起こすことは少ない―すなわち、自分を正当化できる理由がある以上、現状維持を選択するという意思決定は、鉄のように固いこともわかりました。

選択肢は3つ用意する。2つでは現状維持に陥りやすい

裏を返せば、人間は自分を正当化できるか否かで、「選ぶ」と「除外する」を選んでいるとも言えます。自分を正当化できる理由を選んでしまうわけですから、2つの選択肢だけでは、なかなか自分の行動を変えることが難しいとも言えます。シャフィールらも、選択肢は3つあることが望ましいと述べています。

なんの予定もない休日を過ごすとき、「ゴロゴロする」か「どこかに出かけるか」という選択だけなら、意思決定は過去の経験上、正当化できるものにあらかじめ決まっています。

その選択に、「ちょっとだけ離れた行ったことのないお店まで散歩する」といった選択肢を加えることで、あなたの行動はどんどん広がっていくはずです。

人間は自分を正当化する理由をつけて、現状維持を選択しやすい。行動をうながすなら選択肢を3つに増やしてみること

*  *  *

『科学的に証明された すごい習慣大百科』
著者/堀田秀吾
SBクリエイティブ 1760円(税込)

堀田秀吾
言語学者(法言語学、心理言語学)。明治大学教授。1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D. in Linguistics、言語学博士)。2000年、立命館大学法学部助教授。2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、2008年同博士課程単位取得退学。2008年、明治大学法学部准教授。2010年、明治大学法学部教授。
司法分野におけるコミュニケーションに関して、社会言語学、心理言語学、脳科学などのさまざまな学術分野の知見を融合した多角的な研究を国内外で展開している。また、研究以外の活動も積極的に行っており、企業の顧問や芸能事務所の監修、ワイドショーのレギュラー・コメンテーターなども務める。著書に『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』(クロスメディア・パブリッシング/共著)、『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)、『図解ストレス解消大全』(SBクリエイティブ)など多数。

 

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