相続が発生した場合、遺言書が残っていると家族間での遺産分割が不要になるため、その後の手続きが非常にスムーズに進みます。
しかし、遺言書自体が大昔に作成されていた場合や、法的なルールを無視した遺言書が発見された場合に、どのような取り扱いになるのか疑問に感じる方もおられるのではないでしょうか。今回は、遺言書の有効期間や無効となってしまうケースについてお話ししたいと思います。
目次
遺言書の効力
遺言書の有効期間
遺言書が無効になるケース
有効になる遺言書の書き方
遺留分とは
相続財産を保証する遺留分減殺請求
まとめ
遺言書の効力
原則、遺言書には何を書いても問題はありませんが、法定遺言事項以外の遺言内容には法的効力がありません。すなわち、法定遺言事項以外の遺言は、遺言作成者の意思表示的な意味合いを持つだけのものということになります。
法定遺言事項以外の遺言事項は付言事項と呼ばれていて、例えば、「自分の墓に○○を埋めて欲しい」といった自分の希望や、「家族への感謝の気持ち」等の様々な内容があります。
法定されている遺言事項のうち主なものは以下の通りです。
(1)財産の承継方法、処分方法
(2)相続人の廃除と取消し
(3)婚外子の認知
(4)祭祀の承継者指定
遺言書の有効期間
自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、法的なルールに沿って作成された遺言書には時効や有効期間という概念はありません。ですから一度作成した遺言書はずっと効果が継続するので、作成に関しては慎重な判断が求められます。
遺言書が無効になるケース
遺言書は本人の意思を尊重するために遺される書類です。従って、どのような書式の遺言書でも、認知症等により本人の意思表示能力が欠けている場合や他人の意思表示が存在している遺言書は無効となります。また、15歳未満の者が遺言をしても、その遺言書は無効です。
遺言書の内容が必ずしも満足出来るものでないときは、裁判所に遺言書の無効を主張することが出来ます。
その手続きを遺言書の無効申し立てといいますが、裁判所に「遺言無効確認請求訴訟」を起こす必要があります。発見された遺言書がなぜ無効と主張できるのか、書類や事実関係を収集して争うことになります。
それぞれの遺言書のパターンも見ていきましょう。
自筆証書遺言が無効となる具体例
自筆で書き記す遺言書のため、紙とペン、印鑑さえあれば作成できる一方、要件を満たしていないものや書式に不備があるもの等は無効となってしまいます。
・パソコン等で書かれて手書きではない遺言書
・押印がない遺言書
・日付が記載されていない遺言書
・自筆ではなく日付印を用いた遺言書
・年月のみを記載して日付の記載がない場合等のように、日付が特定できない遺言書
・署名がない、又は、遺言者以外が署名した遺言書
・たとえ遺言者の指示を受けたとしても、遺言者以外が書いた遺言書
・録音で残してある遺言書
公正証書遺言が無効となる具体例
公正証書遺言は、公証人と証人が関わることで作成されるため、よほどのことがない限り無効になることはありません。しかし、以下条件で作成されたものは無効となります。
・証人になれない人(欠格者)が立ち会って作成した遺言書
・証人が2人以上いない状態で作成した遺言書
・遺言者が公証人に内容を伝える際、口述せずに身振り手振り等を用いて作成した遺言書
・公証人が作成した書類を、遺言者及び公証人に読み聞かせ、又は、閲覧させずに作成した遺言書
無効になった事例(判例)
実際に遺言が無効になった事例として、配偶者である妻に全財産を残す旨の自筆証書遺言が残っていたにもかかわらず、相続後に実妹に全財産を相続させる旨の公正証書遺言が発見されました。
しかし、公正証書遺言を作成した時、遺言者はうつ病と認知症に罹患していたため、判断能力が欠如した状態であることから、遺言能力があったとはいえないとして、後に作成された公正証書遺言が無効であると判断した事例などがあります。(判決日時:平成25年3月6日)
有効になる遺言書の書き方
有効になる遺言書の書き方を解説します。
法定の方式で行われた遺言であること
有効とされる遺言の方式は、法律で自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、特別証書遺言と定められています。これ以外の方法で行われた遺言に、法的な効力は認められません。署名押印に漏れはないか等、形式的な要件は必ず満たす必要があります。
遺言能力がある者が行った遺言であること
遺言を行うことができるのは、遺言時に満15歳以上で、かつ意思能力のある人となります。意思能力とは、法律でいう「事理を弁識する能力」のこと。遺言の内容が理解できることはもちろん、その遺言によってどのような結果が生じるかを正しく認識できる能力をいいます。
内容が有効な遺言であること
法的な効力が生じる遺言の内容とは、遺言書の効力のところで上述したとおり、相続財産の承継方法に関する内容や身分に関する内容(祭祀承継者など)で、葬儀の方法など相続や身分に直接関係のない希望や思いには、法的な効果はありません。
一人に相続したい場合は?
もし、特定の一人にのみ財産を残したいという内容で遺言書を作成した場合、法的に有効な書式やルールに従っていれば、その遺言書は有効なものとなります。しかし、その場合には「遺留分」に気をつけなければいけません。
遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人に対して認められる、遺産の最低限の取り分のことをいいます。例えば、複数の相続人がいる場合に、特定の相続人に全財産を相続させると、他の相続人の取り分が少なくなって不満が出るでしょう。
亡くなった方に近い家族の中でも最も血縁の近い一定の相続人には、それまでに親密な関係を築いているのだから、最低限の取り分を確保するべきだ、というのがこの「遺留分」の主旨になります。
相続財産を保証する遺留分減殺請求
自分の取り分が侵害された場合でも、何もしなければ遺留分を確保することはできません。自分の取り分である遺留分を侵害している者に対して「私の遺留分を返してください」という主張ができる権利のことを「遺留分減殺請求権」といいます。遺産を譲り受けた他の者に対して、この主張をすることで、初めて遺留分を確保することができます。
まとめ
残された方々の事を想い作成された遺言書が、ルールに従っていないために無効になってしまったり、遺留分を考慮しない内容のため、かえって争いを生んでしまうと、遺言者も遺族も報われないことでしょう。
遺言書を作成する場合には、正しい知識と遺留分の問題をクリアにした内容が求められます。もしもご自身で作成するのが不安であるならば、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
構成・編集/京都メディアライン 内藤知夏(http://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)