
編集者A(以下A):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第28回では、佐野政言(演・矢本悠馬)が、若年寄田沼意知(演・宮沢氷魚)に斬りかかるという重大事件が描かれました。
ライターI(以下I):「江戸城パート」の大きな山場なわけですね。
A:当欄では連載を開始した2020年から折に触れて、「大河ドラマとは壮大なるエンターテインメントである」という指摘をしてきのですが、『べらぼう』の田沼意知刃傷事件に至る描写は、文字通り壮大なるエンターテインメントに仕上がっていて、なおかつその解釈が、田沼政治から松平定信政治へと移行する歴史の解像度を大幅にアップさせたといっていいと思います。そのキーマンが「丈右衛門だった男」(演・矢野聖人)でしょう。このキャラの存在が、この事件の内幕をくっきりと浮彫りにしてくれました。
I:「丈右衛門だった男」が、「丈右衛門」として登場したのは『べらぼう』第16回になります。平賀源内(演・安田顕)を殺人者として陥れた男です。
A:この「丈右衛門だった男」の表情、所作、台詞回し……、よくよく見れば、「養成された忍びの佇まい」ということに気がつかされます。
I:いわれてみれば、重要な役どころですよね。
A:いったい、そんな重要な役どころを演じているのはどんな方なのだろうか、と思ったら、5年前の大河ドラマ『麒麟がくる』で土岐頼純を演じた矢野聖人さんでした。『麒麟がくる』第2回の「道三の罠」に登場しています。
I:覚えています。信長(演・染谷将太)の正室として知られる帰蝶(演・川口春奈)が信長に嫁ぐ前の夫でした。それにもかかわらず、土岐頼純は、織田信秀(演・高橋克典)と談合して、斎藤道三(演・本木雅弘)を倒そうとしたというストーリーでした。
A:織田信秀と斎藤道三が争った「加納口の戦い」の背景に、土岐頼純がいたという流れですね。この場面、川口春奈演じる帰蝶が立膝で登場し、夫である土岐頼純を難詰することから始まります。
I:土岐頼純は言い訳しながらも、道三のことを「まむし」と口走ってしまいます。それを聞いた本木雅弘さん演じる斎藤道三が、まるで爬虫類のごとく、舌なめずりするという印象に残る場面でした。
A:短慮で、行きあたりばったりに行動した土岐頼純という「バカ殿」を絶妙に演じていたのが、矢野聖人さんです。この後、斎藤道三が点てた茶を喫した直後に、急に苦しみだして悶絶しながら亡くなる場面まで描かれました。当欄は当時こんなふうに書いていました。
I:第2話で、土岐頼純と対峙するシーンの迫力たるや……。あのシーンもリアルな戦国の表現だと思いますし、「本木道三」が伝説になると予感させられるシーンでした……。
「リアルな戦国」を描写する『麒麟がくる』 やがてくる「本能寺の変」への伏線【麒麟がくる 満喫リポート】(https://serai.jp/hobby/386719)
A:いま、5年前のことを振り返ってみて気がついたのですが、『麒麟がくる』第2回の演出を担当していたのが、『べらぼう』でチーフ演出を担当している大原拓さんなのですよ。
I:え、そうだったんですか? これは、なんだか1本の糸がつながった感がありますね。きっと『麒麟がくる』での矢野さんの怪演が印象に残っていた大原さんが、『べらぼう』のストーリー上のキーマンに起用したという流れでしょうか。
A:そうなのかもしれません。そして、その期待に見事応えたということになるのでしょう。
I:いまから振り返れば、『麒麟がくる』第2回は名場面でしたね。川口春奈さんの帰蝶もすごかったなあ。
A:当欄では2020年3月21日に「早くも歴代No.1の声も飛び出す 川口春奈演じる 信長正室・帰蝶(濃姫)への期待」という記事をアップしていますね。せっかくですから、当時のやり取りをどうぞ。
A:凛とした佇まい、時おりちらっと見せる幼げな表情や可憐な瞳……。もともと表現豊かな俳優さんだと思っていましたが、干しダコを食べる際のなんともいえない表情にやられましたね。ツボにはまったということでしょうか……(苦笑)。
早くも歴代No.1の声も飛び出す 川口春奈演じる 信長正室・帰蝶(濃姫)への期待【麒麟がくる 満喫リポート】(https://serai.jp/hobby/389687)
I:おじさん編集者をコロリとさせたというわけですが、『麒麟がくる』の帰蝶は、光秀とはいとこの設定です。信長に嫁いだあとも、おそらく最終盤まで登場してくると思われます。
A:(真剣に)いや、本当に楽しみです。おそらく歴代帰蝶(濃姫)役ナンバー1の声がかかるのではないかとも思います。もともと従来の信長のイメージとは異なる信長像を描くというドラマですから、その信長をどう支えていくのか、注目し続けたいと思います。
I:今をときめく川口春奈さんが上昇気流に乗っているころに演じた帰蝶。「丈右衛門だった男」から帰蝶にたどり着くとは、いやはや、やはり大河ドラマはおもしろいですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
