道の駅九頭竜、恐竜の親子のモニュメント。

日本海に面した福井県は、豊かな水と寒冷な気候に恵まれた日本酒の銘醸地です。全国的な知名度を誇る「黒龍」をはじめ、海外でも高い評価を受ける「梵」、若き蔵元が革新を続ける「常山」など、個性豊かな酒蔵が揃っています。この記事では、福井の日本酒の魅力と代表的な銘柄をご紹介します。

文/山内祐治

福井の日本酒の傾向は、白山水系の軟水が生む繊細な味わい

福井県の日本酒の特徴は、白山水系に代表される良質な仕込水を活かした“綺麗な酒質”にあります。富山県などと同様に水に恵まれた北陸エリアならではの強みです。冬の厳しい寒さを利用した低温長期発酵、いわゆる「吟醸造り」によって、雑味の少ない繊細な味わいが生まれます。丁寧な原材料処理から生まれるピュアな酒質は、福井の日本酒に共通する品質の高さといえるでしょう。

また、福井は北前船の経路に位置し、古くから物流と発酵文化が発達した土地でもあります。かぶら寿司やへしこといった発酵食品の伝統が息づく地域だけに、日本酒造りの技術も洗練されてきました。醤油や味噌、酢などの調味料も有名で、総合的な醸造文化の厚みが感じられます。

興味深いのは、人口あたりの酒蔵数が比較的多い点です。近年は海外輸出も増加しており、国際的なコンクールでの受賞も相次いでいます。規模の大小はあれど、それぞれが質の高い酒を造っています。

福井の有名な日本酒を語るうえで名前が挙がるのは、「黒龍」「梵」「常山」

福井の有名な日本酒を語る上で外せないのが「黒龍」「」「常山」の3銘柄です。それぞれ異なる個性を持ちながら、いずれも全国的に高い評価を得ています。

黒龍」は福井を代表する吟醸酒のパイオニアで、全国的な知名度を誇ります。360度隙のない酒造りで、普通酒クラスから最高級酒まで幅広いラインナップを展開しています。

」を造る加藤吉平商店は、純米酒にこだわる酒蔵です。JALの機内酒にも採用される「日本の翼」もこの蔵の銘柄。海外での評価が特に高く、蔵元が和服姿で国際的な賞を受賞する姿が印象的です。磨き上げた米から生まれる、純米酒ならではの旨みと香りの調和が魅力です。

一方、「常山」は2022年に代替わりした若い蔵元が、伝統を守りながら革新的な酒造りに挑戦している注目株です。地元での評価が高く、爽やかなキレ味と北陸らしい品質の良さを兼ね備えた酒を生み出しています。このほかにも、女性が中心となって酒造りを行う「白龍」、個性的な酸味が特徴の「舞美人」など、福井には魅力的な酒蔵が点在しています。

福井の日本酒「黒龍」は吟醸酒のパイオニアとして全国区の知名度を誇る

“福井といえば「黒龍」”という声も多く、「黒龍」は、福井県を代表する銘柄として圧倒的な存在感を放っています。吟醸酒のパイオニアとして知られ、バナナやメロンを思わせる華やかな香りと、意図的に抑えられた酸による綺麗な味わいが特徴です。

黒龍」の強みは、蔵人の高い技術力と、より良い酒質を実現する最新鋭の醸造環境にあります。マイクロバブルを発展させた洗米・浸漬技術、ジュール加熱による低温殺菌など、酒質へのダメージを最小限に抑える工夫が随所に施されています。米の蒸し方にも細心の注意を払い、普通酒クラスから非常に高い酒質を実現しています。

特に注目したいのが、同蔵の高級酒ライン「二左衛門」「石田屋」、そして「無二」です(https://serai.jp/gourmet/1235267)。これらは日本の高級日本酒市場を牽引する存在で、熟成酒の分野でも高い評価を得ています。

一方、お燗酒用として展開される黒龍酒造の「九頭龍」も見逃せません。特に大吟醸は、吟醸酒でありながらお燗に向くという珍しい設計で、綺麗さとたおやかさを併せ持つ完成度の高さが光ります。ベルベットのような手触りのラベルも印象的です。

黒龍酒造はまた、オーベルジュを含んだ複合施設「ESHIKOTO(えしこと)」を開設し、飲食店の誘致や越前焼の販売など、蔵を起点とした地域観光にも積極的です。伝統を守りながら革新に挑戦し続ける総合力の高さが、この酒蔵の魅力といえるでしょう。

「黒龍 永(とこしえ)」(黒龍酒造)は、ふるさと納税ポータルサイトにて2026年3月31日まで90本のみ販売される限定品(予定数量に達し次第終了)。

福井の日本酒「梵」は純米規格にこだわり、国際的評価も高い

」を醸す加藤吉平商店の最大の特徴は、純米規格の酒しか造らないという徹底したこだわりです。「黒龍」がアルコール添加で綺麗さを追求する酒も手掛けるのに対し、「」は純米酒でありながら吟醸香を纏う、旨みと香りのバランスに優れた酒を目指しています。

よく磨かれた米から生まれる「」の酒は、米の旨みを感じさせながらも雑味がなく、繊細な吟醸香が広がります。この“純米なのに綺麗”というスタイルが国際的にも高く評価され、数々の栄誉に輝いています。

」のもう一つの魅力は、低温熟成酒のラインナップです。「超吟」に代表される熟成酒は、リンゴや梨を思わせる香りを持つ酵母を使いながら、低温で熟成させることで深い旨みを引き出しています。しかも、ぬる燗でも美味しく楽しめる懐の深さがあります。

また、「」は自社酵母の開発にも力を入れており、“KATO9号酵母”や“すももちゃん酵母”など、ユニークな名前の酵母を使った酒も展開しています。多彩なラインナップで攻める姿勢は、伝統に安住しない革新性の表れといえるでしょう。

福井の日本酒「常山」は若き蔵元が切れ味と品質の両立を追求

常山」は、若い蔵元が代替わりして注目を集めている酒蔵です。もともと地元での評価が高かった蔵ですが、新しい世代の感性により、さらに磨きがかかっています。

常山」の特徴は、「黒龍」や「」とは一線を画す“キレ味”への追求です。爽やかでキレのある味わいでありながら、北陸の酒らしい綺麗な米の旨みと品質の高さを兼ね備えています。丁寧な原材料処理から生まれる雑味のないピュアな酒質は、この酒蔵の技術力の高さを物語っています。

常山」は、「黒龍」や「」という二大巨頭に比べればニューカマー的存在ですが、伝統を尊重しながら挑戦を続ける姿勢が、多くの日本酒ファンの心を捉えています。今後の成長が最も期待される酒蔵の一つといえるでしょう。

まとめ。福井の日本酒は初心者から通まで楽しめる奥深さがある

福井県には、良質な水と寒冷な気候、そして北前船で培われた発酵文化という三拍子が揃った、日本酒造りの理想的な環境があります。人口あたりの酒蔵数が全国トップクラスという事実が、この土地に根付く醸造文化の深さを物語っています。

黒龍」の圧倒的な総合力、「」の純米酒へのこだわりと国際的評価、「常山」の若き感性による革新性。三者三様の個性が、福井の日本酒の豊かさを象徴しています。加えて若き女性杜氏の「白龍」や、「舞美人」といった個性派の存在も、この産地の多様性を示しています。

福井の日本酒は、日本酒に対する魅力に目覚めるきっかけにもなり、通をも唸らせる奥深さも持ち合わせています。ぜひ一度、福井の銘酒を手に取って、その洗練された味わいを体験してみてください。北陸が誇る日本酒文化の豊かさに、きっと驚かされるはずです。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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