文・写真/ハントシンガー典子(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)
今年1月15日、デビット・リンチ監督が78歳でこの世を去ったことが、遺族によるフェイスブックへの投稿で明らかになった。日本でも知られるアメリカ発の人気テレビシリーズ「ツイン・ピークス」は、昨今のドラマ考察ブームの先駆けとも言える伝説のミステリー作品。その舞台となった町を旅してみよう。

山あいの小さな町、ツイン・ピークスはどこに?
後に映画版や続編も公開されたドラマは、アメリカ北西部の田舎町、ツイン・ピークスで起こった殺人事件を発端に、現実と異世界が交錯する不思議な物語が展開していく。ツイン・ピークスは架空の町だが、そのモデルとなったのは、監督自身ともゆかりのあるシアトル郊外のスノコルミーバレーだ。
この辺りはすっかり都会の趣のシアトル中心部とは違い、ドラマ同様に豊かな緑と水の風景に囲まれ、昔ながらののどかさが今も残る。撮影場所はかねてより隠れた観光地となっていたが、今回の訃報を受け、花を手向けに訪れるファンが急増している。
ツイン・ピークスの主なロケ地はノースベンド周辺に集まる。鉄道開通に伴い、19世紀末より発展した歴史を持ち、風光明媚なカスケード山脈への玄関口としてにぎわう町だ。登山やロッククライミング、スキーなどのアウトドア・アクティビティーが盛んで、この町への毎年の旅行者数は数千人とも言われる。
ノースベンドの公式サイトでは具体的なロケ地が紹介されており、インターネットで検索すれば簡単に位置情報を確認できるため、迷うことなくたどり着けるはずだ。

数々の名シーンを生んだダブルRダイナー

ツイン・ピークスのファンの聖地としてまず挙がるのは、作中でクーパー捜査官をはじめとする主要登場人物がちょくちょく立ち寄っていた「ダブルRダイナー」だろう。現在は「トゥイーズ・カフェ」という店名で、ノースベンドにて営業している。
創業は1941年。ノースベンドのランドマークとして愛されるチャーミングな建物と看板は、いかにも古き良きアメリカのダイナーといった佇まい。レストラン業界が打撃を受けたコロナ禍にはご多分に漏れず苦境に陥ったが、クーパー捜査官を演じた地元ワシントン州出身の俳優、カイル・マクラクラン氏らの呼びかけもあり、ファンやコミュニティーからの寄付に支えられた。
そして監督の死後、カフェの外壁は瞬時に、ファンのための「メモリアル・ウォール」と化した。たくさんの花束、キャンドル、そしてコーラやクッキー、ドーナツ、スナック菓子、タバコなど監督の好物が壁沿いにずらりと並ぶ。添えられたカードや手紙には、監督への感謝と敬意の言葉があふれる。
筆者が店を訪れたのは、監督の訃報が出て最初の週末だった。すでに何度か来ていたが、ここまでの混雑ぶりは見たことがない。この日の入店は「1時間待ち」と言われた。
最初のドラマ放映は90年代。ファンは50、60代前後が中心と思われた。しかし、どうやらそうでもないらしい。意外にも若者の姿が目立つ。新シリーズの放映や旧シリーズの高画質化、映画再上映の動きの影響もあり、ファン層が拡大しているのかもしれない。



ドラマのオープニング映像でおなじみ、滝の上のグレート・ノーザン・ホテル
カフェのほかにも忘れてはならないスポットがある。番組冒頭で繰り返し映し出されるスノコルミー滝と、その上流に立地する「グレート・ノーザン・ホテル」だ。実際のホテル名は、「セイリッシュ・ロッジ&スパ」。
1916年に小規模ロッジとしてオープンしたのが始まりで、先住民のスノコルミー族に所有権が戻された2019年の改装・拡張後は『トラベル+レジャー』の「2022年アメリカ西部ベスト・リゾート」に輝くなど、リゾート・ホテルとしてさらなる名声を得ている。スタイリッシュな客室や温泉気分が味わえるスパ設備はもとより、地元民からはスノコルミー滝を望むレストランでの朝食の評価も高い。最近はラウンジ内に新たなバーが追加され、2025年春には屋外テラス席も完成予定だ。
ホテル施設を利用しなくても、スノコルミー滝の展望台から下流までのハイキングを楽しむことが可能。巨木わんさかの原生林に、小さな子どもやシニアも安心して歩ける往復2.25キロメートルの手軽な初心者向けトレイルが整備されている。全身にマイナスイオンを浴びながらのハイキングは爽快そのもの。脳内に流れる音楽はもちろん、アンジェロ・バダラメンティ氏による「ツイン・ピークスのテーマ」である。
毎年2月に「ザ・リアル・ツイン・ピークス」という特別イベントも開催。2025年は2月21日から24日に実施され、ロケ地巡りのVIPバス・ツアーや上映会、パネル・ディスカッションなどが行われた。セイリッシュ・ロッジ&スパではイベント期間中、「ツイン・ピークス・デー」として特別ブランチ・メニューを提供。注文の特典に、クーパー捜査官が泊まったグレート・ノーザン・ホテル315号室のルームキーのタグを配るのが恒例となっている。
紹介した場所はシアトル市内からタクシーや配車アプリの利用で30分。日本語対応のドライバーガイドに案内してもらえるチャーターサービスも、HIS(https://tour.his-usa.com/city/sea/list.php)、ピュージェットサウンドコーチラインズ(https://pscoachlines.com/japanese)のウェブサイトから申し込める。いまだ冷めやらぬファンの熱い思いは、天国の監督にまで届いているだろうか。


【参考】
Visit North Bend: Twin Peaks Filming Locations
https://www.discovernorthbend.com/195/Twin-Peaks-Filming-Locations
Twede’s Cafe
https://www.twedescafe.com
Salish Lodge & Spa
https://www.salishlodge.com
Snoqualmie Falls
https://www.wta.org/go-hiking/hikes/snoqualmie-falls
The Real Twin Peaks
https://www.therealtwinpeaks.com
文・写真/ハントシンガー典子(アメリカ・シアトル在住ライター)
米シアトル在住。エディター歴20年以上。現地の日系タウン誌編集長職に10年以上。日米のメディアにライフスタイル、旅、育児など、さまざまな記事を寄稿する傍ら、米企業ウェブサイトの日本語ローカライズ・編集・コピーライティング業に従事。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。
