文・写真/東リカ(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)

ラスベガスの蒸溜所「ロストスピリッツ(Lost Spirits)」は、別名「大人のディズニーランド」とも呼ばれる遊び心溢れた場所。

その館内で密かに提供される、ジュール・ベルヌの長編小説『海底二万里(20,000 Leagues Under the Sea)』をテーマにした不思議な食体験を紹介する。

「マッドサイエンティスト」が興した奇想天外な蒸留所

魔法のように短期間で「熟成」されたラム酒(写真提供: Lost Spirits)

「ロストスピリッツ(Lost Spirits)」は、熟成された蒸留酒の風味を短期間で再現する方法を発明したブライアン・デイビス(Bryan Davis)氏が、ジョアン・ハルタ(Joanne Haruta)氏と共にロサンゼルスで創業した蒸溜所。

樽で寝かせる20年間を吹っ飛ばし、たった1週間足らずで樽熟成したお酒を生み出す魔法のようなデイビス氏の技術は、米国をはじめ、日本や中国でも特許を取得している。

眉唾ものだと思われるかもしれないが、この手法で製造されたウイスキーは、世界で最も影響のあると言われるウイスキー評論家ジム・マーレーの「ウイスキーバイブル(Jim Murray’s Whisky Bible)」で「リキッドゴールド」に認定されている。また、ラム酒も国際的なラム酒イベント「マイアミ・ルネッサンス・ラム・フェスティバル」で部門賞(Best In Class)を受賞するなど、その味はお墨付きなのだ。

これだけでも注目に値する蒸溜所なのだが、さらにユニークなのは、アートスクールの講師や遊園地の乗り物デザイナーという経歴も持つデイビス氏が、蒸溜所にその独特の美意識とエンタメ要素を導入したこと。

2021年夏、ロサンゼルスからラスベガスに移転オープンした蒸溜所は、帆船時代をインスピレーションに「ビクトリア朝文学の怪しげな裏道」への没入体験を提供する。

蒸溜所で出会った蛇と戯れる女性

薄暗い異空間で時を超えて完成するお酒を味わう来場者たちが、創業者のデイビス氏を、マッドサイエンティスト、はたまた映画でジョニー・デップも演じたロアルド・ダールの児童小説「チャーリーとチョコレート工場」のエキセントリックな工場長、ウィリー・ウォンカに例えるのも納得である。

「海底二万里」をテーマにしたダイニング

窓の外には人面魚が通り過ぎていく「潜水艦」内

2022年1月末、そんな不思議な蒸溜所内で週末の晩、ジュール・ベルヌの長編小説『海底二万里(20,000 Leagues Under the Sea)』をテーマにした16品コースとカクテルペアリングを提供するサービスが始まった。

受付を済ませると、ホストが「人面魚」の泳ぐ海の中を進む「潜水艦」へと案内してくれる。ここで、ウェルカムカクテルを楽しみながら、待つことしばし。予約客が全員揃うと、ホストが2名ずつ名前を呼び上げ、ダイニングルームへと誘っていく。

最大16名の予約客全員が1つの大テーブルに着席。シェフとバーテンダーが歓迎の挨拶をし、提供される1品1品を説明。ゲスト一人一人にサーバーが付き、全員同時に食事やカクテルが提供されていく。

さまざまな演出が凝らされた品々

『海底二万里』は、潜水艦、ノーチラス号での海洋冒険譚だが、その潜水艦を操るニモ船長役を務めるのがテイラー・パーシュ(Taylor Persh)シェフ。メニューは「水中の森」、「陸上での数日」など4つのパートに分かれていて、物語に登場するようなどこか奇妙な品々が次々と目の前に出現する。例えば、「パンとバター」は、バターがキャンドルになっており、それに火をつけて溶かしていく、「ウニ・キス」は口の皿にのったウニに口付けて食べるといった具合だ。そんなサプライズが16品も続く。もちろん演出の妙だけでなく、例えば食材や調理法も吟味されており、食べるたびに幸せな気分になる。

海苔やイクラが使われたラムのオールドファッション

ペアリングされる蒸溜所のラムを使ったカクテルも、飲んだことのないものばかりだ。

お酒が入ることもあって、同じ体験を共有するゲストとも会話が盛り上がる。最後のデザートを食べる頃には、テーブルのみんなはすっかり打ち解けていた。

「大人のディズニーランド」と言われる蒸溜所ツアー

食事とセットで体験をおすすめしたい蒸溜所ツアーは、試飲用グラスとスタンプカードを手にビクトリア朝文学の怪しげな裏道」を自由に歩き回り、「チャペル」や広場などの試飲カウンターを探し、好きなタイミングでラムを味わうというものだ。

蒸溜所のあちこちで目にするスリリングなステージ

この裏道で来場者は、蛇遣いや踊り子、マジシャン、ピエロ、ミュージシャンなどに出くわすことになる。息を飲むようなアクロバティックなダンスや曲芸が、ほんの数メートルしか離れていない、目の前で繰り広げられる。これを「ウン年もの」のような口当たりの良いラムを片手に楽しむなんて、かなりの贅沢ではないだろうか。

2023年の3月には、さらに新たなショーもオープンするという。ラスベガスを訪れるなら、ぜひとも足を運んで、夢と現実の間のような不思議な時間を過ごしてみては。

ロストスピリッツの受付

Lost Spirits Distillery
https://www.lostspirits.net/
https://www.twentythousandleagues.com/
住所:3202 W Desert Inn Road
Las Vegas, NV 89102(AREA 15内)

文・写真/東リカ
米国オレゴン州ポートランド在住。2014年12月に家族でブラジル・サンパウロから移住。現在はフリーランスとして、日本のメディアへの執筆やマーケティングリサーチを行なっている。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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