文・写真/ハントシンガー典子(アメリカ在住ライター)
日本人にはなじみの薄いノースカロライナですが、かわいらしいアーティストの街、アシュビルを中心とする旅は、歴史や芸術が好きな日本人女性におすすめの穴場。新鋭ホテルも続々進出し、旅専門誌『Travel + Leisure』による世界各都市を網羅した「2023年の旅行先」にランキング入りするなど、注目度も抜群です。
豪華アンティークの調度品に囲まれ、タイムスリップ気分を味わう
アメリカの鉄道王、ヴァンダービルト家により造られたビルトモア・ハウスは、19世紀当時の第一線の建築家と造園家の技術の結晶。全250室と、まさに「お城」と呼ぶにふさわしい規模です。
設計したリチャード・モリス・ハントは、自由の女神像の台座、メトロポリタン美術館のファサード中央部を担当したことで知られる建築家。1895年に完成し、クリスマスイブの一族の集まりで初披露となりました。この豪邸には、第二次世界大戦中の1942年、なんと戦災から美術品を守るために、ワシントンDCのナショナル・ギャラリー・オブ・アートから貴重なコレクションが運び込まれたことも。1963年には国の歴史遺産に登録されています。
ツアーに参加して、印象派の画家、モネやルノワールの絵画をさりげなく飾れる本物のお金持ちの家をのぞいてみましょう。9万2000点以上のコレクションは、イタリア・ルネッサンス期の大理石でできた噴水口から、もともとベネチアのピサーニ宮殿にあった18世紀のイタリア人画家、ジョバンニ・アントニオ・ペレグリーニの天井画まで含まれ、名だたる美術館も顔負けです。
コレクションの中には、19世紀当時、西洋人コレクターの間で人気を博していた日本の「根付」のほか、刀剣、木彫の仁王像、長崎の風景写真も。その理由は、当主のジョージ・ヴァンダービルトが1892年に天皇誕生祝賀会に招待され、日本を訪れていたから。日本旅行の土産にと購入し、船で送った美術品・装飾物は32箱にも及んだそうです。まさに今で言う「爆買い」ですね。
花いっぱいのロマンチックな庭園はウエディングにも人気
見どころは邸宅だけではありません。8000エーカーを誇る広大な敷地内を回ってみましょう。まずは庭園から。家中を巡って気になっていたのは、エントランスはもちろん、部屋という部屋、廊下という廊下に花瓶や植木鉢が置かれていたこと。階下の膨大な作業部屋群には、家に飾る花木の手入れに使われていたとおぼしき専用スペースもありました。
そうした花木のほとんどが、この庭園で育てられたもの。設計をしたのは、アメリカを代表する造園家、フレデリック・ロー・オルムステッドです。ニューヨークのセントラル・パーク、ワシントンDCの議事堂周辺を始め、ナイアガラの滝など全米各地でランドスケープ・デザインを手掛けています。イギリス、フランス、イタリアなどヨーロッパの庭園美を取り入れた独自の設計は、アシュビルの自然を遠景に、ビルトモア・ハウスを美しく引き立てます。
花が咲き乱れる春夏、紅葉に色づく秋も良いですが、年間を通じて人々を魅了するのは巨大温室。当時も、ここから摘まれたエキゾチックな花々がアメリカの一大イベント、クリスマスのシーズンに屋敷を彩ったことでしょう。特に色とりどりの胡蝶蘭は見ごたえがあります。
1985年にはワイナリーもオープン。2000年代からホテル、コテージと宿泊施設も続々と整い、各方面で高い評価を得ています。一般に開放された買い物や食事が楽しめるオープン・スペースもあり、もはやテーマパークさながらです。
大自然の中を走るブルーリッジパークウェイは映えスポットの宝庫
アシュビルの街に繰り出して、名物のクラフトビール、アートに親しむのもお忘れなく。ノースカロライナ州特有の酸味強めなバーベキューもぜひお試しを。アシュビルには日本からの直行便はなく、アトランタやダラス、ワシントンDCなどを経由してアクセスします。
レンタカーを利用するならアパラチア山脈の一部、ブルーリッジパークウェイへのドライブもおすすめ。米国屈指の風光明媚なロードトリップのルートとして有名で、総距離は469マイル(約755キロメートル)。ワシントンDC近くのシャーロッツビルからアシュビルまでを結びます。特に紅葉の絶景で知られており、この秋に旅行を計画するなら、ぜひ旅程に組み込みたいもの。
北のシェナンドー国立公園、南のグレート・スモーキー山脈国立公園をつなぐ道の途中には、ハイキング・コースや展望スポットが点在。多くのアメリカ人が余暇に訪れ、大自然の中でのグランピングやキャビン滞在を満喫しています。夕日に照らされた峡谷や尾根の雄大な景色には、誰もが感動すること間違いなし!
ブルーリッジパークウェイへは、車がなくてもアシュビル発着の日帰りツアーが各旅行会社から出ています。アシュビルは、同じ東海岸でも、ニューヨークやボストンとは全く違う文化背景を持ち、日本人に知られていない魅力がたくさん。今度のアメリカ東海岸の旅に、ぜひ加えてみてください。
アメリカのオフィシャルトラベルサイト「Go USA」:https://www.gousa.jp/experience/asheville-north-carolina-small-mountain-town-big-city-appeal
アシュビル観光ガイド「ExploreAsheville.com」(英語):https://www.exploreasheville.com
文・写真/ハントシンガー典子(アメリカ在住ライター)
東京での出版・広告会社勤務を経て、アメリカ・シアトルに移住。現地の日系タウン誌編集長職を10年以上務めるほか、「サライ.jp」「@DIME」などにアメリカのライフスタイルや旅の記事を寄稿する。米企業のローカライズにも従事。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。