茶人千利休が茶会でよく用いたといわれる茶菓子のひとつ「ふのやき」。「麩の焼き」と書き、「麩」はグルテンをさします。元々は小麦を水で洗いながら捏ねた時に出てくるグルテンを焼き、味噌などを包んだ菓子だったと考えられているそうです。
「ふのやき」に関する記述はさまざまな書物に残されていますが、今回ご紹介するレシピは、江戸時代に書かれた菓子製法の専門書『古今名物御前菓子秘伝抄』を参考に再現しました。
この文献では、小麦粉を水に解き、油を敷いた鍋に薄く広げて焼き和風クレープのように仕上げています。
では、さっそく、「ふのやき」を作ってみましょう。
■「ふのやき」の作り方
■材料
小麦粉 80g
水 100cc
クルミ 30g
山椒味噌 30g
砂糖 少々
サラダ油 適量
クレープのように卵は入れず小麦粉だけで作った皮は素朴な味で、甘じょっぱい味噌にクルミの香ばしさとピリッとした山椒の風味が効いた餡に良く合います。煎茶と一緒にいただきましたが、濃い抹茶と合せるとより美味しさが引き立ちそうです。時間を置くと皮が硬くなり、とたんに味が落ちるので、作ったらすぐにいただきましょう。
なお、山椒味噌が手に入らない場合は、市販の田楽味噌に山椒粉を混ぜたもので代用できます。
■まだまだある?“利休好み”の料理
“利休好み”といわれる料理は数あれど、そのすべてが、利休が好んで食したり客人に出していたものだったかといえばそうではありません。
例えば、料理名に“利休”と冠する料理は、卵に胡麻を混ぜて蒸す「利休玉子」、煎り胡麻入りのタレを塗った「利休焼き」、胡麻を衣にして揚げる「利休揚げ」、胡麻を加えた煮物「利休煮」などが有名です。いずれも胡麻を使った料理ばかりですね。
“利休”の名が付けられたのは、利休が胡麻を好んだからという説、あるいは、信楽焼きや伊賀焼など利休好みの器の肌が胡麻のように粒々していていかにも利休が好みそうな料理だからという説があります。いずれにせよ、これらのほとんどは後世の人が考案したものだといわれています。
※分量や細かい作り方は原本に記載されていないため、筆者が作った方法でご紹介しています。
【参考文献】
※『江戸料理読本』(著者・松下幸子/ちくま学芸文庫)
※『教育社新書〈原本現代訳〉古今名物御前菓子秘伝抄』(作者・不詳/訳・鈴木晋一)
文/小野寺佑子
撮影/五十嵐美弥