取材・文/坂口鈴香
交通費が大きな負担
親の介護にかかるお金にはさまざまなものがある。介護サービスにかかる費用は介護保険が使えるので、それらはおそらく親が払っているだろう。他方で、子どもが親のもとに通い、買い物をしたり、ヘルパーには頼めない家事をしたりするときにかかるお金も決して少なくはない。さらに、近距離の移動ならともかく、遠距離を頻繁に通うとなると、交通費が重くのしかかってくる。きょうだいが複数いると、誰か一人にしわ寄せが行った場合には不満がつのることもあるだろう。
かなり前だが、朝の情報番組で博多華丸大吉の大吉さんが、この費用負担について言及していた。彼らの故郷は言わずと知れた福岡だ。必然的に親の介護(介護と表現したかは不明だが、様子を見に行ったり、通院に付き添ったりなども含んでいると思われる)は地元にいるきょうだいが担当せざるを得なくなる。物理的にそれが難しい大吉さんは、きょうだいにやってもらっている分「お金を渡している」と言っていた。金額までは言わなかったが、テレビで公言するくらいだから、日ごろの負担を補って、あまりあるほどの金額なのだろうと想像した。さすがだ。売れっ子だし。
映画監督の信友直子さん(認知症になった母親と、母親を支える父親の姿を追った映画『ぼけますから、よろしくお願いします』の監督だ)は、ある配信プログラムのなかで、母親の介護がはじまってから、東京と実家のある広島県呉市を行き来する交通費が大きな負担になっていたと振り返った。その間、仕事も中断するしかなかったのだろう。先行きに不安を抱いていたところ、折よく、テレビのドキュメンタリー番組の仕事として母親の介護を撮影することになり、介護と仕事が金銭的にも両立するようになって助かったと明かしていた。一人娘である信友さんは、現在104歳(!)と超高齢になられた父親を見守るために、介護が常時必要な状況ではないとはいえ、ほぼ呉で過ごされているようだ。
実は帰るたびに黒字!?
では、一般の人たちはどうやりくりしているのだろうか。
東京在住の後藤美智子さん(仮名・59)は、九州で暮らす90代の両親のもとにこの数年毎月のように帰省している。弟家族が実家近くに住んでいるので、日ごろの見守りや買い物はしてくれている。後藤さんが毎月のように帰って、1週間ほど滞在するのは、せめてその間は弟夫婦にゆっくり過ごしてほしいと考えてのことだ。
ただ、弟夫婦にお金は渡していないという。
「お金を渡しても、受け取らないと思います。ものを渡すと、お返しをしないといけないと気を遣わせてしまうでしょう。だから、両親のところに多めに食品を送って、半分は弟夫婦に持ち帰ってもらうようにしています」
後藤さんの口ぶりからはきょうだい関係が良好なのが伝わって来る。
一方で、九州までの交通費は高額だ。早めに帰省の予定を立てて、早割で予約するのでそれほど大変ではないという。
「早割の恩恵を被っているし、実は出張の多い夫のマイルがたまっていてそれを使っているので、それほど懐は痛んでいないんです」
さらに帰省するたびに、親からお小遣いまでもらっていると笑う。
「申し訳ないですが、ありがたくもらうのも親孝行だと思って甘えています。だから実は帰るたびに黒字なんです」
似たような話は島野葉子さん(仮名・57)からも聞いた。島野さん夫婦は北海道で二人暮らしをする夫の両親の様子を見に、夫婦あるいはどちらかが交代でたびたび帰省している。夫には兄がいるが、病気のため今は施設で暮らしているので、島野さん夫婦しか親の介護をする人はいない。島野さんの夫が義兄の成年後見人になっているので、数回に1度は義兄の事務手続きのためという名目で義兄の障がい年金から交通費をもらっているが、あとは自腹だ。
「LCCを使っているのでまだ安く帰っている方だと思います。それでも帰るたびに義父がお礼だと言って、交通費以上のお金を渡してくれます。帰るといろいろと雑用をしたり、通院の付き添いをしたりしているので、その手数料だという感じで渡してくれるので、遠慮なくいただいています」
ちなみに義父母はそれぞれすでに遺言書を作成していて、執行人は夫になっているという。「義父はいろんなことに神経質すぎるくらい」と評するが、それだけ親が賢明だということだろう。
親の介護にかかるお金、どうしていますか【2】につづく。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。