取材・文/坂口鈴香

写真はイメージです。

津田美千代さん(仮名・62)の夫の両親は、90代。義母が認知症だったが、義父がホーム入居もヘルパー利用も拒否。二人暮らしを続けていたが、ともに体調が悪化し入院してしまった。津田さんの夫と義兄は二人を施設に入れた方がいいだろうと考えていた。

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力尽きた義父

津田さんから話を聞いて1年、その後の義父母の様子を聞こうと連絡した。

「義父母は退院して自宅に帰りました。義父がどうしても自宅に戻りたい、義母の面倒も自分が看ると言って聞かなかったのです」

そのかわり、ヘルパーを利用するということでなんとか妥協したのだという。

しかし、綱渡りのような二人暮らしは長くは続かなかった。ある日、義母がトイレから立ち上がろうとしたが、力が入らない。義父が助けようとしたが、どうにもならず救急車を呼んだ。そのまま義母は入院することになった。

「このころ、コロナ感染者が増えていて夫や義兄もあまり様子を見に行けなかったんです。そのせいもあって、義父ももういっぱいいっぱいだったんだと思います」

義母が入院して一人になったとたん、気力も体力もなくなったのだろう。義父も一気に体調が悪化した。義母の体調が安定し、病院の系列の老健(介護老人保健施設)に移ったのと入れ替わるように、義父が入院することになった。

そして、義父は入院して1か月もしないうちに亡くなった。妻との暮らしを守るため、義父は老いと戦い、刀折れ、矢尽きた――。95歳、弁慶の立ち往生を思わせる最期だった。

老健で安定している義母には義父の死は知らせなかった。伝えたとしても、認知症の義母がどこまで理解できるかも怪しかった。

多死社会を実感。火葬を待っている間に義母も

義父が亡くなり、葬儀の準備を進めていた津田さん夫婦は、火葬場が2週間先までいっぱいだと聞いて驚いた。最近よく耳にする「多死時代」という言葉が、実感とともに迫ってきたという。

「義父の住んでいる市には火葬場がなく、近隣の3市町合同の火葬場しかないのも原因のひとつなのでしょう。それにしても2週間も待たされるとは思いませんでした。コロナの影響というわけでもなく、普通にお亡くなりになる方がとにかく多いと葬儀社の方は言っていました。超高齢化社会の実態を見たような気がします」

その間、遺体は冷蔵庫に保管される。1泊、1万5千円……馬鹿にならない金額だがどうすることもできない。ため息をつく津田さん夫婦だったが、この2週間の火葬待ちが意外な結果を生むことになった。

火葬場の順番を待っている間に、義母が亡くなったのだ。

「老健の方からは、義母は元気で食事もとれていると聞いていたのですが、その夜になって突然『お母さまの呼吸が弱くなっている』と連絡があったんです。慌てて夫と家を出ようとしているところに『呼吸が止まりました』と。夕食まで普通にとっていたのに……」

まるで、義父が「一緒に行こう」と連れていったかのようだった。

葬儀の手続きは「仕切り直し」だ。改めて2人分の火葬場を予約し、2人一緒に見送ることになった。

「2週間待ちましたが、結果オーライでした。葬儀場では2人が枕を並べ、火葬場にも並んで入って行く……その光景は壮観でさえありました。義父のがんばりがこういう形で結実したんだな、と感慨無量でした」

そのがんばりは、認知症の義母にとって良いことだったのかどうかはわからない――と言ったら、身も蓋もないか。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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