
日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)

加工食品より「伝統食」を重んじる
私たち人間のDNA構造は、人類がこの世に誕生した時代から、ほとんど変わっていません。つまり、私たちにとって、遠い祖先と同じように暮らしていくのがDNA構造上は最も自然な姿でしょう。
とはいえ私は、人類のテクノロジーを否定するつもりは毛頭ありません。快適な住まいや便利な交通手段、世界と繫がれるネット環境など、祖先の時代にはなかった素晴らしい発明品を、私たちは次々と手にしています。もうすぐ、空飛ぶ自動車(しかも自動運転)も実現することでしょう。
私は、そうした進化を積極的に暮らしに取り入れる「新しいもの好き」ですが、こと食事に関しては慎重です。できるだけ、遠い祖先のようにありたいと思っています。
食習慣について、現代人が遠い祖先と違っている点は、大きく2つあります。
1つは、炭水化物や砂糖などの糖質を大量に摂るようになったこと。
もう1つが、加工食品を口にするようになったことです。
それゆえ私は、その2つの要素の逆をやっています。すなわち、糖質摂取は極力控え、なるべく加工していないものを食べるようにしています。
加工食品は、添加物が心配なだけでなく、総じて柔らかく、私たちに本来備わっている嚙む力も弱らせます。
2010年に翻訳出版された『食生活と身体の退化』の著者である、アメリカの歯科医師W・Aプライス博士は、1930年代から、ペルーやスイスなど世界14か国に足を運び、食生活と健康の関わりについて調査を行いました。
噛む力が弱くなるという負のスパイラル
そこでは、地域の伝統食を食べている人々と、同じ民族でありながら砂糖や加工食品などを取り入れた近代的食生活に移行した人々が比較されました。
その結果、伝統食を食べている人たちは共通して、完璧に近い健康体ときれいな歯並びを持っていたそうです。
一方、近代的な食生活に移行した人たちは、歯の不正咬合が多く、顔の形まで変化しているケースが多く見られたと聞きます。
日本においても現代人は、顎が小さく歯並びが悪くなっています。
歯並びが悪ければ、うまく嚙めないために柔らかいものを好むようになるし、柔らかいものを食べていれば、嚙む力が弱くなるという負のスパイラルに陥ります。
しかし、食べることは生きる原点。そして、食べることは嚙むという行為なくして成り立ちません。「食べやすい」という理由で加工食品に頼っているのは、食に関する負け組の振る舞いなのです。
「疲労回復しよう」と新発売のエナジードリンクに飛びつくのは、新しい行動かもしれませんが、賢い行動ではありません。
もっと、生き物本来の力を鍛えましょう。
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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。

牧田善二/著 四六判208ページ 小学館刊 1650円(税込)
