文/鈴木拓也

政府による最近の調査では、80代前半の約4割が、認知症かMCI(軽度認知障害)に罹っているという。

もう少し若い70代後半をみても、4人に1人はそうした病を患っている。

そのため75歳以上の人は、車の免許更新時に認知機能検査を受けることが義務づけられている。

この検査で「認知症のおそれがある」と判定されると、医師の診断が求められ、その結果「認知症である」となった場合は、免許の取り消し・停止となる。

この制度は2022年5月に改正され、やや複雑な面もあるため、更新を控えている人は不安を覚えているかもしれない。

先般、そうした方々に向けたガイドブック『知っておきたい75歳からの免許更新』(浦上克哉監修/JAFメディアワークス https://www.jafmw.co.jp/news/20240920-01/)が刊行された。

本書は、安心して免許更新にのぞめるよう、必要な知識が盛り込まれた決定版。今回は、その一部を紹介しよう。

検査で問われるのは今の記憶力

認知機能検査の通知書が届くのは、免許証の更新期間満了日からさかのぼる約半年前。高齢者講習の案内もセットになっている。

高齢者講習は、検査や医師の診断の結果、認知症のおそれがないとされたときに受ける。その中身は、講義、運転適性検査、実車指導となっている。これを受講して、晴れて免許証は更新される。

検査も講習も、こちらから連絡して実施の日取りを予約する。混んでいて予約が取りづらいことがあるので、早めに連絡するのがおすすめだという。

会場に行くと検査についての説明があり、用紙に名前と生年月日を記入して検査がスタート。これは、ちょっとした記憶力のテストで、それほど時間はかからない。例えば、1回につき4点のイラストを見せられ、1分かけて記憶するよう求められる。これがさらに3回繰り返される。つまり、以下のような全部で16点の異なるイラストを見ることになる。

検査で見せられるイラストのグループの例(本書10pより)

それが終わったら、見たイラストとは全然関係のない課題が出される(介入課題と呼ぶ)。それは、たくさんの数字の中から、指示された数字だけに斜線を引いていくというもの。介入課題の目的は、イラストを記憶してから回答させるまでに一定の時間を空けるためのもので、この課題自体は採点されない。

介入課題が終わったら、16点のイラストのうち覚えているものを回答用紙に記入していく。回答用紙は2枚あり、1枚目はノーヒントで記入し、2枚目はヒント(乗り物、楽器など)が各回答欄に添えてある。

ヒントありの回答用紙(本書18pより)

最後に、「今年は何年ですか?」といった質問に回答を記入する。これは「時間の見当識」を調べる検査で、全部で5問ある。

イラストの記憶検査は、ノーヒントは正答1つにつき2点、ヒントありは1点。時間の見当識は質問によって配点が異なるが、全問正解で15点満点となる。それぞれの得点に掛け率で加算した上で得点を合わせて36点以上であれば、認知症のおそれはないと判定され、(他人に知られないよう)封書などに入れられた状態で書面にて通知される。

認知症と診断されたらどうなる?

もしも「認知症のおそれがある」と判定されたら何が起きるのだろうか?

この場合も通知書という形で知らされ、医師の診断書提出命令書、再受検の案内、免許の自主返納、安全運転相談に関する案内も同封されてくる。

実は認知機能検査は、更新期間満了日をタイムリミットとして、何度でも受けることができる。受検時にたまたま体調がすぐれず、それでうまく回答できなかったということもあるからだ。再受検も同額の費用(1050円)はかかるが、免許を更新したいのであれば、どんどんチャレンジしたい。

診断書提出命令書については、かかりつけ医(主治医)か認知症専門医の診察を自ら申し込み、診断書を作成してもらうかたちで対応する。受診時は、問診があり、神経心理学的検査や血液検査といった基本的な検査があり、必要に応じて髄液検査や脳波検査などもある。

診断の結果が認知症でなければ、免許は更新できる。認知症と診断されてしまうと、免許は取り消し・停止となる。MCIの場合は、原則として6か月後に再検査を受ける。

認知症と診断されたら、運転はここまでと諦め、自主返納などの手続きを行う。そして、「すぐに」認知症の治療を始めることが、きわめて重要となる。詳細は本書に譲るが、認知症を完治させる薬は現時点ではないものの、進行を遅らせるものは何種類かある。こうした薬の処方とともに、いくつかの療法に取り組むことがQOLの維持につながる。さらに本書には、MCIと診断された場合、認知症への進行を予防するためのアドバイスも載っている。高齢になっても運転を楽しみたいなら、本書を一読されることをおすすめしたい。

【今日の健康に役立つ1冊】
『知っておきたい75歳からの免許更新』

浦上克哉監修
定価1870円
JAFメディアワークス

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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