ライターI(以下I):『光る君へ』第37回冒頭では、赤染衛門(演・凰稀かなめ)が藤式部(まひろ/演・吉高由里子)に対して「左大臣さまとあなたはどういうお仲なの?」と質問をぶつけてきました。あまりの直球に返事ができない藤式部に対して、衛門は「そういうこともわからないでもないけれど、お方様(源倫子のこと)だけは傷つけないでくださいね」とやんわり忠告します。
編集者A(以下A):赤染衛門もさまざまな経験を積んで源倫子(演・黒木華)のもとに出仕し、その流れで中宮彰子(演・見上愛)の藤壺でも働く才能溢れる人物。多妻制の時代なんだから、そんなに気にしていないのでは? と思われがちですが、『蜻蛉日記』の筆者で藤原道綱(演・上地雄輔)の母(演・財前直見)は、「夫」である藤原兼家(演・段田安則)の女性関係にやきもきする感情を赤裸々に綴っていたことからわかるように、けっこう気にしていて、時には傷ついていたのではないかと思うのです。
I:赤染衛門は、「道長との関係は責めないが、正妻にはばれないようにね」と優しい心遣いのような気もしています。
A:ということで、今週のトピックスは、『紫式部日記』に記録されたエピソードが数多く描かれているということ。ざっとあげても「『源氏物語』冊子作り」「実家への里帰り」「寛弘5年大晦日の引き剥ぎ事件」「源氏物語朗読会」などです。
I:『紫式部日記』の記述を、当代きっての脚本家がどのようにアレンジするのか――。「一億総演出」といったらおおげさですが、いろんな角度から、今回の演出が考察されたら楽しいですよね。
A:「一億総演出」? 視聴者がそれぞれ演出家になった気分で感想を述べあうということですか? そのくらい大河ドラマが盛り上がってくれたらいいですよね……。私は『紫式部日記』の記述を巧みな技でドラマに昇華させる様を見て、例えば織田信長の生涯を限界ギリギリまで『信長公記』をトレースした大河ドラマを見てみたいと思ったりしました。直近で信長を主人公にした1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』は意欲作ではありましたが、変化球がきつかったですから。
I:確かに数多くの大河ドラマに登場する信長ですが、単独で主人公になったのは1992年だけですものね。もし実現するとして限界ギリギリまで『信長公記』に頼る場合の課題は、秀吉パートの出典をどうするかですね。
【豪華版『源氏物語』の行方。次ページに続きます】