文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)
カリフォルニアの州都はロサンゼルスでもサンフランシスコでもない。人口約50万人の中小都市、サクラメントである。州上下両院会議場と州知事の執務室がここにある。
このような例はアメリカの他州でも多く見られる。たとえば、ニューヨークの州都はニューヨーク市ではなくオルバニー市であるし、イリノイの州都はシカゴ市ではなくスプリングフィールド市である。
州都がその州最大の都市であるケースの方がむしろ少ない(ハワイ州ホノルル市など)。国全体の首都であるワシントンDCの人口も約70万人に届かず、全米で23番目の都市に過ぎないのだ。東京、ロンドン、パリといった他国の首都とは成り立ちが異なる。
その理由としてよく挙げられるのは、歴史的な経緯と政治経済のパワーバランスである。州都は地理的に州の中央近くに位置する場所が選ばれることが多い。交通機関が現在ほど発達していなかった頃に州内のどこからでも行き来しやすくした名残である。さらには、経済的に発展した地域に政治権力までもが集中することを防ぐため、あえて大都市を州都にしないという配慮が働くらしい。
サクラメントが州都として成立した経緯も上の条件にあてはまる。南北に長いカリフォルニア州のやや北寄りではあるが、東西ではほぼ中央の位置にある。地元にこれといった大きな産業はなく、交通や物流の拠点として発展した都市である。カリフォルニアがゴールドラッシュで湧いていた1854年に州都として制定された。
1869年に開通した北米大陸横断鉄道はこのサクラメントが西側の起点となった。
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現在でもサクラメントの交通は非常に便利だ。国際空港は市中心部から近く、バスに乗れば30分ほどで到着する。市内には鉄道とバスの大きなターミナルがあり、主要道路には市電が走っている。
それでなくても、サクラメントは都市としての規模が小さい。健脚な人なら、市内の主要な観光スポットはすべて歩いて回ることも十分に可能だ。アメリカとしては珍しい、街歩きに適した都市でもある。
碁盤の目状に整備された道路は、南北を数字、東西をアルファベットで表されているので、土地勘が無くても方角や距離を把握することは容易だ。
市の中心にあるカリフォルニア州会議事堂は1874年に完成した。現役の政庁でもあり、同時に博物館でもある。週末や祝日を除いた平日は建物内の見学ツアーが行われているからだ。
議事堂の周囲は公園「Capitol Park」になっている。あるいは公園の1画に議事堂があると言うべきかもしれない。青々とした芝生と大きな樹木に囲まれた歩道を歩くと、所々で州の歴史にまつわる史跡や銅像を見ることができる。
議事堂正面から東へ向かう大通り「Capitol Mall」を1kmほど歩くと、サクラメント川にかかる可動橋「Tower Bridge」が見えてくる。
サクラメントはかつて水運でも栄えた。市内を流れるサクラメント川はカリフォルニア州最長河川であり、市の外れでもうひとつの大河アメリカン川と合流し、遠くサンフランシスコ湾へ続いている。
現在、市内のサクラメント川沿いには歴史的な建物を保存した一角(オールド・サクラメント)があり、多くの訪問客で賑わっている。外輪船を改装したホテル、鉄道博物館、そしてゴールドラッシュ時代を偲ばせる建物などが立ち並び、一種のテーマパークのような趣がある。対岸にはリバー・ウォークと名付けられた美しい散歩道がある。
このように、街歩き観光におすすめしたいサクラメントだが、夏の数か月間は避けた方がよいだろう。日本に比べると湿度は低いが、最高気温が40℃を越える日が続くこともあるからだ。屋外を歩くには厳しい。
冬はさほど寒くはならないが、雨の日が多い。やはり観光のベストシーズンは春と秋だ。快適な天候の下で史跡や観光地巡りを楽しむことができるだろう。
サクラメント市公式ウェブサイト観光案内ページ:https://www.cityofsacramento.org/visitors
文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。