文・写真／角谷剛（海外書き人クラブ／米国在住ライター）
私が住むカリフォルニア州では春になるとカリフォルニア・ポピー（学術名：Eschscholzia californica）という野生の花がシーズンを迎えます。鮮やかなオレンジ色の花で、日本名では花菱草（ハナビシソウ）と呼ばれています。
カリフォルニアの大部分は地中海性気候に属していて、年間を通して気温は高く、雨が少なく、そして乾燥しています。普段は枯草が砂地や岩石を覆っているようにしか見えない土地が広がっています。
それでも冬にはある程度まとまった雨が降り、春になってカリフォルニア・ポピーが咲く時期だけは、所々の丘陵がまるで一面の花畑のように姿を変えることがあります。
今年は冬の間の雨量が例年より多かったこともあり、カリフォルニア・ポピーを含む野生の花が、何年か、あるいは何十年に一度の当たり年になったと言われています。
カリフォルニア・ポピーが州花に認定されたわけ
カリフォルニア・ポピーが公式に州花であると州議会で認定されたのは1903年、今からちょうど120年前のことです。カリフォルニアを急激に発展させたゴールドラッシュはその頃すでに終わっていましたが、金色に見えなくもない色の花が「ゴールデンステート」（カリフォルニア州の愛称）に相応しいと考えられたのでしょう。
それから半世紀後の1952年に発表された『エデンの東』（後にジェームス・ディーン主演で映画化）はカリフォルニア州北部のサリナスが舞台となった長編小説ですが、そのなかで著者のジョン・スタインベックはカリフォルニア・ポピーを以下のように描写しています。
雨が多かった年の春は信じられなかった。谷底も丘もすべてがルピンとポピーのじゅうたんでおおわれるのだ。（～中略～）オレンジではない、金色でもない。しかし、もし純粋な金が液体で、それからクリームを作ることができれば、その金でできたクリームはポピーの色をしているに違いない。（筆者訳）
その優美な外見からは想像できないほど、カリフォルニア・ポピーは力強い花でもあります。砂漠のような過酷な環境でも自然に花を咲かせる、その逞しい生命力もカリフォルニア州を象徴するものと考えられたのかもしれません。
見どころと時期
カリフォルニア・ポピーは野生の花ですので、見どころや時期は年によって微妙に異なります。一般的には３月後半から５月中旬までがピークとされています。
ほぼカリフォルニア全域で見ることができますが、暖かい南カリフォルニアは北部よりその時期がやや早くなるようです。
ちなみにカリフォルニア州政府は毎年４月８日を「カリフォルニア・ポピーの日」としています。
南カリフォルニアではアンテロープ・バレー・カリフォルニア・ポピー州立保護地区（https://www.parks.ca.gov/?page_id=627 ）が最も有名な見どころです。ダイヤモンド・バレー・レイク（https://www.dvmarina.com/ ）というダム湖周辺もシーズン中は多くの人がカリフォルニア・ポピーを目当てに訪れます。
もっとも、日本の桜がそうであるように、カリフォルニア・ポピーはシーズン内であれば州内のありとあらゆる場所で見ることができますので、とくに有名な観光スポットを選ばなくてもよい、と個人的には考えています。
何より、カリフォルニア・ポピーは何でもない道路脇や住宅地でもよく見かける花なのです。実はとくに手入れをしているわけでもない私の家の庭にも勝手に咲いているくらいです。花一面に覆いつくされた丘陵を遠くから眺めても、一輪を近くから見ても、それぞれに異なった魅力を持つ美しい花です。
カリフォルニア・ポピーは夜になると花を閉じ、また朝になると広がります。早朝、日中、そして夕暮れ時と時間をかけて観察すると、それぞれ違う姿を見ることができるでしょう。
カリフォルニア州政府公式ウェブサイト州花ページ：https://wildlife.ca.gov/Conservation/Plants/California-Poppy
文・角谷剛
日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」（https://www.kaigaikakibito.com/）会員。
