九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。
安南区海中街に立つ朝皇宮。極彩色に塗られた伝説の動物や聖人が屋根から睥睨(へいげい)し、廟内には魔除けの赤い円柱が林立する。主神は、命や健康に関わる保生大帝だ。1878年に創建された廟(さまざまな霊的存在を祀る施設)の前で、栄誉主任委員を務める呉進池さんが出迎えてくれた。線香の匂いが訪問者を異境へと誘う。
「福建省の閩南(びんなん)地方から、風土病が蔓延する未開地へ渡ってきた移民たちは、新天地の安寧を祈願し多くの神様を同伴してきました。保生大帝や王爺(疫病から守る神)のように帝や爺の字がついている神様はもともと人間だったことを表しています」
民衆に尊敬された名医が、保生大帝という神様になったということらしい。朝皇宮のそばにある飛虎将軍廟も、自身を犠牲にして台南の村を救った日本海軍の若き軍人、杉浦茂峰が神様となって祀られている。道教では現世の人間と神様が近しい関係にあるようだ。
朝皇宮
住所:安南区海中街101巷10号
電話:06・2561020
開館時間:5時30分~21時30分
文化を発信する廟の役割
台湾では、信仰ばかりでなく教育、文化、地域の絆作りを廟が担う。呉さんがこの20年、尽力してきたのは、“一村一廟一学堂”運動である。安南区にある27の廟のうち16か所に教室を開き、健康、音楽、漢詩、太極拳、絵画などすべての講座に一流の講師を招いた。地域おこしに共鳴し謝礼をお布施にする講師陣も多いと聞く。朝皇宮にも50の講座があり、延べ1200名が学ぶ。200名編成のオーケストラまであるとは驚きだ。台南の文化は、廟と深い関わりがあるといえるだろう。
「信仰と文化が一体となっているから、住民たちが地域の発展に自発的に関わろうとする。そこが、行政が主導する他の街との違いかもしれません」
こう話す間も、神様がご覧になっているとでも言いたげに、呉さんは祭壇の方を見やった。
呉進池さん(朝皇宮栄誉主任委員)
●1元(NT$)は約5.2円(両替時・2023年11月20日現在)
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号別冊付録より転載しました。
【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する