文/鈴木拓也

写真はイメージです。

ここ10年あまりで一気に普及した「スマホ」。

ほとんどの人にとって必要不可欠な機器となっているが、同時にその弊害がさまざま取りざたされている。

例えば、中毒的に1日何時間も使う、記憶力が低下する、うつ状態になる等々……。

「スマホ脳」「スマホ認知症」なる言葉も生まれ、「本当に使い続けて大丈夫なのか?」と不安に駆られている人は少なくない。

そうした世間のネガティブな空気に対し、「スマホにはポジティブな面がたくさんある」と強調するのは、星友啓さん。スタンフォード大学のオンラインハイスクール校長を務め、デジタル教育にあかるい人物として知られている。

その星さんが先般上梓したのが、『脳を活かすスマホ術――スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』(朝日新聞出版)だ。

スマホで集中力は下がるのか

本書のなかで星さんは、ネガティブキャンペーンとも受け取れるスマホへの風当たりは、誤解にもとづくものが多いと指摘する。

その一例として、「スマホ使用1時間ごとに7%ずつ集中力が下がる」という研究結果を挙げる。この結果自体に誤りはないのだが、実は2歳までの幼児に限定して行われた、数の認知に関する研究であった。それが、あたかも全年代について集中力が下がるかのような印象が与えられたというのが真相だという。

くわえて星さんは、次のように記している。

そして、実際には他の研究などで、違う年代ではスマホの使用方法を変えると集中力が増し、成績も上がるなどの報告がなされています。(本書54pより)

こうした例は枚挙にいとまがなく、共通するのは、「極端なケースのみで全体が悪いような印象にされている」という事実。もちろん、日がな一日スマホばかりいじっていては、仕事や健康に問題が生じるは当然だが、通常の使い方をしているぶんには、スマホは「悪」ではないのである。

学びの最強ツールとしてのスマホ

一方で星さんは、スマホの明るい面についても述べている。

まず、スマホはインプット(学び)の「最強ツール」だという。

その理由は、スマホが「見る」「聞く」「読む」の組み合わさったマルチメディアだという点。人間は、脳の特性上、見るだけ、聞くだけ、読むだけによっては、とり入れることができる情報には制限が大きい。しかし、この3つがブレンドされることで、インプットの効率性や理解度が格段に上がるという。この点について星さんは、以下のように説明をくわえる。

例えば、YouTubeの動画は、「聞く」に加えて「見る」、さらに「読む」機能もついている。話し手の表情や音声にプラスして、補足的な画像やコメントも表示されるので、どこが大事なポイントなのかも非常にわかりやすい。

そうしたマルチメディアの環境の中では、私たちの理解度が格段に違ってきます。記憶力や理解力は、マルチメディアからポジティブな影響を受けることが実証されており、スマホはその最善のツールだと言えます。(本書88~89pより)

星さんは、スマホによるこうした学習を、より効果的にするコツにも言及している。その1つが、動画を視聴する前に、「目次やまとめを出力してざっと内容を理解しておくこと」。ChatGPTを使って要約を出す、あるいは見出しの一覧を出して、最初にこれをざっと見てから視聴に入る。これを心がけるだけでも、理解度は向上するという。

もう1つのやり方は、視聴しながら「10分ごとにメモする」。具体的には、10分見るたびに動画を止め、5分ほどかけて自分の記憶だけを頼りに、内容のメモを取るというもの。メモの際に記憶の中身を思い返すことを「リトリーバル」と呼ぶが、記憶の固定化や応用力のアップに役立つそうだ。

利他的マインドのある発信で幸福感を高める

スマホの活用法としてSNSは欠かせないものとなっているが、星さんはその効用についても論じている。

結論から言えば、SNSは使う人のメンタルに良い影響をもたらすとしている。

もっとも、これは条件付きの話。例えば、ネガティブな内容ばかりを発信していれば、マイナスの影響を身に受けることになると明言する。

ネガティブな発信はネガティブな反応を生みやすい。何かに対する批判を思慮なくしてしまえば、それに対して思慮のないネガティブな反応が返ってきて、自分のネガティブにつながりかねません。
また、自分の悩みや悲しみの発信にも気をつけなくてはいけません。
悲しい出来事を発信しようとする時、その出来事やネガティブな感情を心に巡らせることになる。そしてその悲しみのせいで、またさらにくよくよしてしまう。まさに、ネガティブ思考の悪循環が起きてしまうのです。(本書150~151pより)

そのため発信は、「ポジティブなものを心がける」よう、星さんはアドバイスする。

また、見知らぬ不特定多数の人へ発信するよりも、すでにつながっている人たちに向けて発信した方がメンタルにいいとも。そうした間柄であれば、ちょっと自慢をしたり、少々間違ったことを言ってしまっても、猛烈な批判を受ける可能性は少ないし、詐欺のような犯罪リスクも避けられるなど、心理的な負担感は少ないからだ。

さらに、幸福感や自己肯定感を高める発信もすすめられている。そのコツは「利他的マインドのある発信」。人の取り組みを褒めるとか、読んで役に立つ情報を提供するなど、読み手がポジティブな気持ちになれる中身を心がける。このような他者への親切は、自分の幸福感にもつながることは心理学的に立証されている。こうしたポイントに留意しながら日々SNSと向き合うのは、スマホから得られる大きな恩恵といえる。

このように、昨今ネガティブに言われがちなスマホには、肯定的な側面が多々ある。興味のわいた方は本書を一読してほしい。人生に、ちょっとした実りをもたらすはずである。

【今日の健康に良い1冊】
『脳を活かすスマホ術――スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』

星友啓著
891円
朝日新聞出版

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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