インタビュー・構成・文/柿川鮎子
楽しいお散歩にアウトドア、美味しいごはん、飼い主さんと愛犬にとって、一年でもっとも快適で楽しい季節を迎えました。快適だからこそ、気が緩んでうっかり事故や病気につながる行為をしてしまうことも。そんな秋のヘルスケアについて、ながつたペットクリニックbyアニホックの濱田宇広先生に聞いてみました。
ペットの秋のヘルスケア全般について
――濱田先生は地域の飼い主さんの頼りになるホームドクターとして活躍中ですが、秋のこの時期にはどんな病気やケガが増えますか?
濱田先生 膀胱炎などの尿の病気が増える傾向にあります。気温が下がってきたせいなのか、私どもの病院では泌尿器系の患者さんが増える傾向にあります。
ポイントその1)トイレの様子をチェック
特に飲水量が変わると泌尿器系の病気は増えると考えられていて、尿結石症や膀胱炎はこの時期増えています。男の子に関しては、結晶性の膀胱炎だと結石が尿道に詰まってしまうこともあるので、放置すると怖い病気のひとつです。
飼い主さんには排尿の様子などがおかしいと感じたら、早めに受診していただきたいです。
「頻尿」は飼い主さんが気づきやすい膀胱炎の症状のひとつです。たくさん水を飲んでたくさんおしっこをする「多飲多尿」となる場合もありますが、頻尿はおしっこを我慢できる時間が短くなることで排尿の回数がいつもより増える症状です。尿意が急におとずれることもあり、トイレまで移動できずにいろんなところで排尿してしまうこともあります。
なので、飼い主さんによっては「これまでトイレで失敗したことがなかったのに、最近、いきなりトイレではない場所でしてしまった」と驚いて来院される方もいらっしゃいます。
排尿の病気は見過ごして放ったままにしておくと、最悪の場合は急性腎不全という怖い病気になる場合もあるので、気を付けてあげてほしいと思います。
特に秋だからというわけではありませんが、季節の植物、この時期だとブタクサやススキなどによると思われるアレルギー症状が出る子が時々います。痒みなどの症状に季節性があるかどうかに気を付けることで適切な対策ができることもあります。
熱中症対策とバーベキューの誤食に注意
ポイントその2)引き続き熱中症対策を
濱田先生 意外な盲点というか、熱中症対策は秋も引き続き気を付けてほしいことのひとつです。皆さん、真夏にあれほど気を付けていた熱中症対策ですが、秋になって急に涼しくなり、外気温が下がっていると安心して、ついうっかり愛犬を車内に放置したままにしてしまい、熱中症になってしまった子をみたことがあります。
真夏は絶対に車内でお留守番はさせないものですが、春や秋は油断してしまうのでしょう。外気温が高くなくても秋の日差しがあれば、車内の温度は50度以上になる場合もあるので、要注意です。
ペット保険の会社が行っている請求報告では、真夏ほど多くはないものの9~10月でも熱中症による治療費請求はあるようです。まだまだ暑い日が時々あるので、秋とはいえ日差しによる室温の変化には注意が必要な時期ですね。
ポイントその3)キャンプやバーベキューなどアウトドアの事故に注意
バーベキューなど外で食事を楽しむのにうってつけの季節ではありますが、一緒に連れて行った愛犬が、地面に落とした人間の食べ物をうっかり誤食するという事故も、この季節よく経験します。焼き鳥を串ごとのみ込んでしまったという事故もありました。玉ねぎも、自宅では気を付けているのに、うっかり地面に落としてしまいそれを食べてしまったという事故もありました。バーベキュー場やキャンプ場では前日までのお客さんが残していったゴミなどにも注意が必要です。
ポイントその4)秋の今こそダイエットのチャンス
――飼い主さんにとっても秋は美味しいものがたくさん! うっかり食べ過ぎてしまいますが、愛犬もつい肥満気味になりがちです。
濱田先生 コロコロしていて可愛いという飼い主さんもいらっしゃいますが、肥満による病気を予防できるのに、その対策をしないというのは、厳しく言えば「命を犠牲にする」ということです。一分一秒でも長く一緒に暮らしたいペットの命を犠牲にするというのは、飼い主さんにとってもちょっとありえないことだと、私は思います。そういうことを理解していないから、太めが可愛いと感じてしまうのです。
肥満がダメな理由は、糖尿病や膵炎といった命にかかわる怖い病気などの原因にもなるからです。おいしいご飯をたくさん食べている姿を見たいという気持ちはわかりますが、与え過ぎることによって失うものも大きいのです。
人間の肥満は自分の責任ですが、愛犬・愛猫は飼い主さんが決定権を持って、ご飯を与えているわけです。つまり、ペットの場合は命の全責任を負っているのです。愛犬・猫の命の管理責任者であると考えれば、おのずとコントロールしていこうと思うようになるのではないかと、私は思います。
ちょっと厳しいことを言ってしまいましたが、実はペットを適正な体重まで痩せさせるのは、意外と難しくないのです。私の経験では、継続して相談に来ていただけている方の多くが、動物の減量に成功されています。やり方は簡単で、当たり前ではありますが「食べ物の量をコントロールするだけ」です。
幸い、これから冬を迎える秋の今は、ダイエットを始めるスタートとして、とても良い時期です。気温が下がると、体温を維持するためのカロリー消費が増えて体重を減らしやすく、ダイエットの結果が出やすい、お勧めの時期と言えます。
やれば成功するペットのダイエット
濱田先生 食べる量を調整するというと、何だか可哀そうだと思われてしまうかもしれません。私は飼い主さんによく、「体重を減らそうと思ったら、ごはんの量をどれぐらい減らしたら良いかと思いますか?」と聞きます。すると飼い主さんは「半分ぐらい?」とか「4分の3ぐらい?」と目で見てわかるレベルの量を減らすべきだと考えているようです。そんなに一度にたくさん減らしたら、急にお腹が空いてしまうし、動物も飼い主さんもストレスを感じて、食事管理を続けることもできません。
また、減量指導では「まずおやつをやめてください」というのをよく聞きます。しかし、おやつというのは動物とのコミュニケーションツールとしてはとても重要で、それはそれで与える意味はありますし、ここを我慢するのもやはりお互いにストレスが大きいので、経験的にはそれがダイエットを続けられない理由になっていることが多いと思います。続かなければそれはすなわち失敗ということになります。
なので、私がおすすめする減量の方法では、
・はじめは「おやつ」については基本的に今まで通りにしてもらい、与える回数を変えることを禁止。(減らすことも)
・メインのフードの量をわからないレベルで減らす。具体的には5%ずつ。
ということをやってもらっています。
また、2週間から1か月ごとに体重のチェックと相談に来院していただくようにしていて、その都度状態をみながら微調整や方法を検討していますが、おおむねこの方針で続けることでうまく減量できています。
継続すれば無理せずに痩せる
減量を考えるうえでのポイントは次の通りです。
・減量をしなくてはと負い目に思っている飼い主さんが考えがちなのは、食事の量をかなり減らさないといけないと思っていること。これが減量のはじめの一歩を踏めないでいる原因の一つであることが多い。
・実際に「太っている」と感じているケースの多くが適正体重のおよそ5~15%増しの体重であることが多い(人間で60kgが適正の場合、63~69kgになってダイエットを考えているのと同等)。
・経験的には食事を減らした割合分くらい、体重も減少する場合が多い。
・一気に(あるいは急に)減量をすると負担が大きいので、少しずつ減量したほうが良い。具体的には5%程度ずつがおすすめ。適正体重に到達するのは1年後くらいをイメージする。今与えているフードの量を5%減らすことから始めればよい。
実際に計算してみるとわかりますが、5kgくらいの子でドライフードを100g/日(50g/回を1日2回)与えていたとすると、5%の調整というのは1回あたりで2.5gということになります。2.5gのドライフードと言えばおそらく数粒。それだけ減らしたとしても飼い主さんも動物もおそらく気づくことができない量と思います。その変化量で体重は5%、5kgの子であれば250gくらいは変化する可能性があり、4.75kgくらいになる可能性があります。これは人間でいえば60kgくらいの人の3kgにあたり、50kgだと2.5kg、45kgだと2.1kgくらいの体重に相当します。
どうでしょう、このくらいであればなんか無理なく続けられそうじゃありませんか?
また、おやつに対して指示することがあるとすれば、「与える回数、チャンスは絶対に変えない」です。もし、万が一変えるとしたら、「1回に与える量」は少なくしても良いです。
おやつに対して動物が期待していることは「おなかがすいていることに対して、どれだけ満たされたか」ではなく、「もらえたかもらえなかったか」「何回もらえたか」という点であるからです(後述しますが、当然、与える内容については注意が必要です)。
ポイントその5)人間の体重と動物の体重を考慮すること
――なるほど、それが無理せず継続できる方法なのですね! ぜひやってみます。ところで秋は芋や栗など、秋のご馳走が増えますが、愛犬が食べても大丈夫ですか?
濱田先生 飼い主さんからもそんな質問をよく受けます。基本的な答えは「動物にヒトの食べ物は与えない」です。そのほうが安全ですし、たとえ芋や栗が食べても良いものだとしても、芋や栗は食物繊維を多く含むので、与えすぎると胃拡張や胃捻転の原因となり、危険な食べ物になる可能性もあります。
それから、与える量そのものも問題です。人と愛犬の身体の大きさの比較から考えてみてください。体重50㎏の人と、5㎏の愛犬だったら、その体重差は10倍です。つまり、少々雑な計算ではありますが、人間が食べる量のおよそ10分の1で十分ということになります。
飼い主さんから、「ヨーグルトをスプーン1杯だけしか与えていないのよ」と伺うことはあるのですが、それって50kgの人がもらうとしたら、スプーン10杯分、小さいカップのヨーグルトだったら、軽く2個位になってしまいます。おやつやご褒美、トッピングとしては多いと思います。そういう“ペットと人との体重割合”という感覚は、常に持ち合わせて判断することも重要だと私は思います。
また、秋の食べ物に限らず、「人が食べても大丈夫だから」と与える人がいますが、動物には大丈夫ではない食べ物がたくさんあるのはすでに皆さんご存じでしょう。犬の場合はねぎ類やチョコレート、ブドウやキシリトールなどは危険な食べ物だと、すでによく知っているかたも多いはず。「何を食べてはいけないか」よりも「うちの子は何が食べられるか」を、かかりつけの先生と相談しながら探してみてください。
車中ではペットは必ずケージかキャリーへ
――最後に濱田先生の病院でおきた、秋の事故事例があれば教えてください。
濱田先生 窓を開けて山道を走行中、車内で自由にしていた愛犬が窓から飛び出して地面に落ちてけがをした事例がありました。まずもって動物を車内で自由にさせることが危険なのですが、加えて季節柄窓を全開にしていたことが追加要因となり、大きなケガにつながったケースかと思います。
秋なので窓を開けていたことが要因とは言いましたが、この事故のそもそもの原因は「窓を開けていたこと」ではなく「車内を自由に動ける状態にしていたこと」です。
車内でペットが自由に動ける状態にしておくのは、とても危険です。愛犬のケガだけでなく、歩行者や他の車を巻き込んだ重大事故につながることもあるので、必ずケージやキャリーに入れて固定した状態で運転してください。かわいい愛犬がブレーキペダルの下にもぐりこんだ時に、思いっきりブレーキ踏めますか?
――それは怖いですね! 確かにその通りです。ありがとうございました。
「ペットのダイエットは必ず成功できる」という濱田先生のアドバイスは、「持続可能な方法に落とし込むこと」。ペットのアドバイスだけでなく、仕事やプライベートにも応用できそうです。
ながつたペットクリニックbyアニホック
濱田宇広 先生
インタビュー・構成・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。