取材・文/柿川鮎子
愛犬との暮らしで欠かせないのが毎日の掃除。面倒でも手を抜くとあっという間に毛だらけになるし、汚れたままだとアレルギーや喘息の原因になりかねません。できるだけ清潔に保ちつつ、愛犬にとって安心・安全な掃除方法について、ひびき動物病院院長・岡田響先生に聞いてみました。
ポイント1:愛犬に優しい掃除を
ひびき動物病院の建物は昭和の集合住宅なのですが、湿気の多い時期にはジメジメした重い空気が気になってしまうので、どこかに汚物が放置されていないか? など、いつも気にしています。犬はヒトの数千倍から一億倍も嗅覚が良く、病院に来てくれる子にはなおさら不快な思いをさせたくないです。
最近は、新型コロナウイルス対策としても、風通しをよくするために、短い時間でも窓はこまめに開けるようにしています。
夏が終わり、涼しい風が吹くと、愛犬たちの換毛期に突入します。それを考えるとやはり部屋の掃除で一番困るのは、愛犬たちの抜け毛ではないでしょうか?
これからの季節は抜け毛対策をしっかりと
プードルとかマルチーズなど抜け毛の少ない犬種もいますが、それでもヒトよりも毛が多いのは見ての通り。ペットフード会社の資料によると、小型犬の全身には100~150万本の毛があり、犬猫の毛は1本当たり1日に0.3ミリも伸びるとか。全身の量から1本の長さに換算すると、1日数百メートルくらい毛が伸びていることになるのだそうです。
それだけの毛が抜けるとなれば、物理的に除去するしかありません。部屋に落ちている毛はやっぱり掃除機が一番!です。
私が自宅で使用している掃除機は吸い込んだゴミを毎回捨てるタイプ。まめに掃除していても、毎回ある程度の量の毛が吸われているのがわかります。診療中に飼い主さんから、「もう毎日どれだけ掃除をがんばっても、すごい毛が取れるんです!」という声を聞くことも少なくありません。
ロボット掃除機も、私の家ではだいぶ役に立っています。毎回、その日のうちに掃除機内のごみを捨てていますが、そこそこの量の毛が溜まっています。ロボット掃除機も性能に差があるとは思いますが、毛の集塵力はヒトの手で動かす掃除機のほうが多くとれるような印象です。
絨毯や衣服についている毛に対しては、コロコロで除去しています。比較的どこのご家庭でも、コロコロが大活躍しているようですね。
排水溝もチェック!
散歩のあとは、いつも足やお腹周りを洗って、タオルドライをして部屋に戻しています。普段の散歩コースに土の上を歩くコースが少なくないので、洗面所と浴室を使って、ぬるま湯で流しています。愛犬専用のタオルを決めてあるのでそれで拭いて、汚れた床は流したり拭いたりしますが、このときも細かい毛が流れているのがわかります。
最近、愛犬の足を洗った後、ちょっとお風呂場の排水口の流れが良くないなと感じていました。排水口についたゴミや毛はまめに捨ててはいましたが、排水溝の中の詰まり具合は外から見えません。たまたま100円ショップでパイプ用の掃除グッズを見つけました。先が少し棘(とげ)状で、見た目は薄くて細長いプラスチックです。効果はあるのか? と思いつつ、試してみると、ビックリ。毛の絡んだ汚いものがたくさん釣れてきました。愛犬の毛が大いに関係しているのが明らかな、排水溝の汚れでした。
流れにくくなると、強力なパイプ用洗剤を使う飼い主さんも多いと思いますが、その前に、ちょっと意識して、まずは薬品に頼らないでもできる掃除をお薦めします。薬剤についてはポイント2で紹介しますが、排水溝などの毛が流れることが多い場所では、物理的に掻き出すやり方を、まずは試してみてください。
ポイント2:危険な洗剤を知っておく
お風呂場の掃除に関連した学術情報が、つい最近の獣医の学会誌に掲載されていました。お風呂の強力なカビ取りスプレーで掃除をしていた際に、近くにいた愛犬が肺や気管などの呼吸器の広範囲な化学的やけどを負い、心不全と中毒症状になった、という報告です。
記事では、普通にお風呂掃除をしていて、愛犬はたまたま近くにいただけのようでした。飼い主さんが近くにいるせいか、愛犬はそこから動かず、そのまま掃除を進めてしまったようなのです。
愛犬は数時間後から具合が悪くなり、命の危険にさらされながら、おおよそ2週間の入院となったようです。怖いですね。お風呂掃除のやりかたによっては、ヒトも同じような健康被害を受けていたとしても、不思議ではないでしょう。
塩素系の洗剤には要注意
夏と秋の高温多湿が続いて、お風呂場や台所の汚れが広がっているかもしれません。塩素系の消毒液を使う場合は、必ず愛犬を現場から離れた場所に避難させてください。浴室の風下に待機させないほうが安全です。そしてヒトにも影響を出さないように窓を開けるなど、臭いがこもらないようにしながら掃除をしましょう。
浴室や衣類の漂白剤の他、パイプつまり用などの強力洗浄剤や、コロナで布用のアルコール除菌スプレーを大量に使って愛犬の健康被害が出たという報告もありました。また、洗剤などには、愛犬が中毒を起こす原料が含まれていることがあるので、注意してほしいですね。
とはいえ、掃除は毎日必須なので、できるだけ愛犬が近づかず、なめたりできない場所に保管しておきましょう。シンク下の扉が付いている場所や、絶対に愛犬が届かない高い戸棚などにしまって、万が一でもこぼれて舐めたりできないようなところに保管してください。お風呂掃除の際には、壁などに洗剤や消毒を散布した場合には戸締りをして、愛犬が自由に中に入れないようにしてあげましょう。
ポイント3:洗剤を残さないようにしておく
ほかにも、愛犬の食器を消毒や漂泊した後は、よくすすいで水につけておくなど、洗剤を残さない工夫も必要です。飼い主さんから食器用の洗剤について聞かれることがありますが、普段は普通に人間の使う食器用中性洗剤を利用しています。使うスポンジは、愛犬用とヒト用は分けています。
愛犬が粗相をしてしまったり、嘔吐してしまったなど、汚れを始末したいときにはやはり基本的に中性洗剤を利用しています。
家具やカーペット、布団周囲のことも相談されますが、中性洗剤は色落ちや変性によるダメージが一番少ないと私は思っています。
まだ利用したことはありませんが、家具や寝具の丸ごと洗いサービスなどもあり、必要な場合は利用するのもいいでしょう。
匂いのきつい洗剤は愛犬に使わない
犬用と記載があっても、また、人間にとっては良い匂いであっても、愛犬にとっては完全に安全という確証がない限りは注意しておくに越したことがありません。特に強い匂いがしたり、ヒトにとっても刺激がありそうな洗剤などは、使わないでおいたほうが安心・安全です。
匂いつながりでいうと、飼い主さんがタバコを吸う環境では愛犬のがんの発生率があがる、という報告があります。タバコの煙も気を付けましょう。
愛犬と暮らす環境を清潔に保つことは、人間にとって快適な空間づくりになるだけでなく、愛犬の健康のためにも重要なポイントです。普段から清潔にしておけば、汚れが出たときにすぐにわかるのもメリットのひとつです。もし掃除で愛犬に関して何か心配事があればぜひかかりつけのホームドクターに相談してみてください。
取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
ひびき動物病院
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/
取材・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。