取材・文/柿川鮎子

コロナ・ワクチンが注目されていますが、ペットのワクチンの予約は済みましたか? 犬の飼い主さんは法律で定められた義務である狂犬病予防接種と、各種混合ワクチンの接種に、フィラリア予防の計画を立てる時期になりました。

ワクチン接種は愛犬・愛猫を死に至らしめる病気から守る、大切な手段のひとつです。病院からSNSやハガキで接種のお知らせが届いて、習慣的に接種されてはいませんか?

もういちど基本に戻って「ペットのための本当に知りたいワクチンのこと」を獣医さんに教えていただきました。ながつたペットクリニック by アニホック院長・萩原祐太郎先生、よろしくお願いします!

ワクチンは「コア」「ノンコア」の二種類

――そもそもペットのワクチンとはどんな病気を予防するのでしょうか? 病院では3種混合や6種混合などいろいろあり、先生に勧められるまま接種していますが、本当はどれを選んだらよいのか、教えてください。

萩原先生 感染すると死に至らしめる病気から愛犬を守るために、予防接種を行います。2種混合から10種まで予防する病気によっていろいろ異なりますが、基本的に犬と猫のワクチンには「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」と呼ばれる二種類があります。

すべての犬猫に接種すべきと考えられているものです。

【コアワクチン】
犬:犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、犬パルボウイルス2型
猫:猫汎白血球減少主ウイルス、猫カリシウイルス、猫ヘルペスウイルス

感染の危険性のある個体に接種すべきものです。

【ノンコアワクチン】
犬:レプトスピラ、パラインフルエンザ
猫:猫白血病ウイルス、クラミジア

コアワクチンにノンコアワクチンを加えて接種するのが一般的で、1・3・5・6・7・8・11種などがあります。何種にするかは、基本的にかかりつけの先生がおすすめするものを接種する方法が最適だと、私は思います。

感染症の流行状態に配慮したワクチンを

萩原先生 私たちの病院のある神奈川県では、相模川沿いの地域からレプトスピラという感染力の強い人獣共通の細菌(スピロヘータ)の感染症が発生してしまいました。治療が遅れれば、死に至ることもある危険な感染症です。そこで、飼い主さんにもこれまでのワクチンに加えて、レプトスピラを予防するワクチンの接種を勧めています。

かかりつけの獣医さんはこうした病気の流行に配慮して、どんなワクチンが必要で、最適かを飼い主さんと一緒に考えながら接種されていると思うので、まずは先生と相談して、納得した上で接種されるのが良いでしょう。

アウトドアが大好きで飼い主さんと一緒に山へキャンプによく出かけるワンちゃんだったら、ノンコアワクチンはおすすめしたいですし、高齢の子やアレルギー体質の子はまた別のアプローチをする場合もあります。なるべくその子に合ったものを接種するために、かかりつけの先生とよく相談されて、一番合った方法を選択してほしいですね。

抗体があるかどうかを調べるのも一つの方法

――病気の流行やライフスタイルによって防ぎたい病気が違うのですね! 一年に一回の接種で大丈夫なのでしょうか?

萩原先生 基本的に一年に一回で大丈夫ですが、アレルギー体質の子や高齢の子は、抗体を調べた上で接種することを私は勧めています。ワクチンは病気と闘う抗体を作るためのものです。すでに抗体があれば、改めてワクチンを接種する必要はありません。

現在の研究では、抗体はその子によって1年で切れる場合もあれば、3年で切れる子、一生抗体を保ち続ける子など、個体によって差があることがわかっています。

抗体をもっているかどうかは、血液検査でわかります。うちの病院ですと、1週間ぐらいで検査の結果が出ます。料金もワクチンとほぼ同じ金額なので、抗体を調べてからワクチンを接種される飼い主さんもいらっしゃいます。

――ワクチンを接種して副作用が出てしまうのではないかと心配です。

萩原先生 ワクチンを接種しないで病気にかかるリスクと、ワクチンの副作用によるリスクの両方を考えた時、どういう判断をされるかは、飼い主さんの考え方次第です。一番良い方法を、かかりつけの先生と相談して、納得した上で接種してください。

犬のワクチン接種で副反応が出る割合は、麻布獣医学会の「犬混合ワクチン接種後副反応に関する疫学調査」によると、0.6%となっています。

確かに副反応が出る確率はゼロではありませんから、飼い主さんが心配されるのもよくわかります。でも、ワクチンを接種しないで病気にかかる危険を考えたら、副反応の危険はあっても、ワクチンを勧める獣医さんが、ほとんどでしょう。

抗体検査をしてからワクチンを接種する飼い主さんもいると荻原先生

効果的なワクチン接種にするためのポイント

――できれば愛犬のために上手な接種をしたいのですが、どうしたらよいでしょうか。

萩原先生 では細かく見て行きましょう。

1)体調不良の日は接種しない

まずワクチン接種前の健康状態を観察して、いつも通りに元気に遊んでいるようでしたら、問題ないと思います。ワクチン接種の予約については、動物病院により対応は様々なので、あらかじめ電話をいれて、問い合わせると良いと思います。

2)他のワクチンと間隔をあける

すでに狂犬病ワクチンを接種されていたら、1週間以上おいてから、ワクチンの接種を行ってください。逆に混合ワクチンの接種が先の場合は、1か月以上おいてから狂犬病ワクチンを接種します。

3)午前中、家族がいる日に接種

接種する日ですが、できれば午前中を勧めます。副反応は72時間以内に発症すると考えられており、それ以上経って何の症状も出なければ副反応の心配はありません。急に下痢や嘔吐などの異常を感じたら、すぐに接種した動物病院に問い合わせて診察を受けてほしいので、病院が開いている午前中に接種して、急変に備えます。できれば見守る家族が、誰かしら自宅にいてくれる日を選んで、接種すると良いでしょう。

4)接種当日はなるべく安静に

接種した日はできるだけ安静にして、トリミングやドッグランでの遊びを避けてください。本当は散歩もダメと言いたいのですが、外でトイレをする習慣の子もいるので、トイレが終わったらすぐに家で安静にしてほしいですね。

5)接種した部分を気にしないこと

よく飼い主さんが接種した部分を揉んだ方が良いかと聞かれますが、そのまま触らずにいてください。気になって触ったり、毛を掻きわけて見たりすると、犬や猫が気にしてしまうので、注意を向けないようにする方が良いでしょう。多頭飼育では、他の子が接種した部分を舐めてしまわないように、注意してあげてください。

6)以前のワクチン証明書や今服用している薬を持参

かかりつけの動物病院で接種する場合は、その子の病歴などが記録に残されているので、多くの獣医さんは接種を希望している子がどんな薬を飲んでいるかなどは把握されているでしょう。でも、できれば現在服用している薬や、以前接種した時にもらったワクチンの証明書などを持参していくと安心です。よく発作を起こす子や免疫疾患の子などはワクチンで異常が出ることが多いので、先生と飼い主さんが副反応について確認した上で、接種されると安心です。

――料金はいくらぐらいでしょうか? ワクチンの抗体検査の料金も教えてください。

萩原先生 病院によっても異なりますが、基本的に6種で6000~8000円、8種で8000円~1万円です。検査代はワクチンの料金とほぼ同じぐらいです。

――多頭飼育の場合は、ワクチンを一度に済ませた方が良いのでしょうか?

萩原先生 多頭飼育で一度に接種すると、接種後に異変が気づきにくいことがあるので、できれば一頭ずつの方が良いかと思いますが、飼い主さんが何度も足を運ぶのは大変でしょう。ワクチンだけ往診という手もありますが、飼い主さんが接種後にきちんと見守ってあげられるのであれば、飼い主さんの都合に合わせて良いと、私は思います。

――ありがとうございました。萩原先生のアドバイスに則って、今年はワクチンを安心して接種できるような気がします。

ながつたペットクリニック by アニホック 萩原祐太郎

2017年に酪農学園大学卒業後、神戸市の地域中核動物病院や都内の1.5次動物病院に勤務し、獣医師として犬猫などを中心とした小動物診療に従事。2022年より、株式会社TYLが運営するアニホックグループのひとつ、「ながつたペットクリニック by アニホック」の院長に就任。

取材・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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