最近、パソコンやスマートフォンの普及により、自ら字を書く機会はめっきり減少してきました。その影響からか「読める、けれども、いざ書こうとすると書けない漢字」が増えていませんか? 以前はすらすらと書けていたのに、と書く力が衰えたと実感することもあります。
記事を読みながら漢字の読み書きをすることで、脳のトレーニングとなります。また、この記事を通じて、読むこと・書くこと・漢字の意味を深く知り、漢字の能力を高く保つことにお役立てください。
「脳トレ漢字」第170回は、「剃刀」をご紹介します。日用品としてよく使われている「剃刀」。「刀で剃る」という漢字の構成を見ると、読み方を類推できるかもしれません。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「剃刀」とは何とよむ?
「剃刀」の読み方をご存知でしょうか? 「ていとう」ではなく……
正解は……
「かみそり」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「頭髪・ひげなどをそるのに用いる刃物」「物事の処理が早く、巧みなさまや人のたとえ」と説明されています。髭やムダ毛処理のためによく使われている、「剃刀」。仏教の伝来とともに、中国からもたらされたもので、当時は僧侶が剃髪するために使用していました。
室町時代まで、男性は毛抜きで髪型を整えるのが一般的で、僧侶以外で剃髪する者も、髭を剃る者もいなかったそうです。剃刀が一般人の間でも使われるようになったのは、三英傑が活躍した天正年間(1573~1592)以後のことで、このあたりから「一銭剃(いっせんぞり)」と呼ばれる、現在の理髪師にあたる職業も広まっていきました。
明治時代中期になると、ドイツから西洋剃刀が伝来し、1903年にアメリカの実業家、キング・ジレットが、替刃式の安全剃刀を考案したことで、世界中で使用されるようになります。その後、ホルダーや替刃に改良が加えられ、現在使用されている剃刀が出来上がったのです。
「剃刀」の漢字の由来は?
毎日使用しているという人も少なくない、「剃刀」。語源については諸説ありますが、一説では「髪剃り」という言葉に由来していると言われています。先述の通り、剃刀は元々、僧侶の剃髪のために使用されていた道具です。そのため、広く一般に普及してからは、漢字を「髪剃り」から「剃刀」に改めたのかもしれません。
「オッカムの剃刀」について
皆さまは、「オッカムの剃刀」についてご存知でしょうか? 「オッカムの剃刀」とは、14世紀の哲学者・オッカムが提唱した哲学の原理で、「ある事柄を説明するために、必要以上に仮定を用いるべきではない」とする指針のことを言います。
当時のヨーロッパは、カトリック教会の権威が絶大でした。「神が雲を出して、雨を降らせる。」「上から物を手放すと、神の力によって落下する。」などのように、全ての事象は神と聖書によって説明されていたのです。
オッカムは、そのような定説に異議を唱え、説明に不要な存在は省略するべきだと考えました。上記の例文から「神」を省略して、「雲が出れば、雨が降る。」「上から物を手放すと、落下する。」と改めると、より簡潔な説明になりますね。
剃刀で剃り落とすように、不要な仮説や存在を省いていることから、この原理は「オッカムの剃刀」と呼ばれるようになりました。神が存在するか否かは別として、「神」という存在を抜きにしても、事象を説明することができるというオッカムの考え方は、現在の「シンプル・イズ・ベスト」の原点であると言えるでしょう。
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いかがでしたか? 今回の「剃刀」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 「剃刀」は、仏教の伝来とともに伝わったものであるということが分かりました。哲学の原理の名称にも使われている「剃刀」。
余計なものを切り捨てて、単純明快に考える姿勢が大切なのかもしれませんね。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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