相続が発生した際、相続財産が基礎控除を超えていると、相続税の申告書を税務署に提出しなければなりません。申告書の作成を税理士に依頼すると報酬がかかってしまうため、節約をしようと自分で作成できないか、検討される方もいらっしゃるかと思います。申告の手続きを自分でするのか、税理士などの専門家に依頼するのか、その判断材料がわかれば検討がしやすくなるでしょう。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、相続申告手続きの流れや手続きに必要な書類などについてご説明いたします。

目次
相続の手続きとは?
相続の手続きを自分でやっても良い場合は?
相続の手続きを専門家に依頼した方が良い場合は?
相続の手続きに必要な書類とは?
まとめ

相続の手続きとは?

相続が発生した場合の全体的な手続きは、下記の手順で進めていくことになります。

1.遺言書の有無の確認
2.被相続人及び相続人の戸籍謄本の取得、相続人の確定
3.相続財産及び債務の特定 
4.遺産分割の協議 
5.相続財産の評価、相続税額を計算 
6.相続税申告書類の提出及び納税 

相続では、亡くなられた人(被相続人)の意思が書かれた遺言書が優先されるため、まずは遺言書があるかどうかの確認を行います。また、被相続人と被相続人の財産を引き継ぐ人(相続人)の本籍地から、戸籍謄本を取り寄せて相続人を確定。次に相続の対象となる財産や債務を調べて、その目録や一覧表を作っておきます。

財産債務の洗い出しを行った後、遺言書がない場合には、相続人全員で遺産の分割について協議をします。分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成。そして、遺産分割と並行して、相続税法と財産評価基本通達に基づいて、相続する財産を評価します。

相続財産の評価をして、相続税を計算したら相続税の申告書を作成。最後に申告書の作成が完了したら、申告書と申告に必要な書類を添えて、被相続人の住所地を管轄する税務署に相続開始を知った日(通常、被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内に提出をして、相続税の納税も行います。

相続の手続きを自分でやっても良い場合は?

相続申告の計算や手続きは煩雑で、また、専門的な知識を必要とすることが多いため、基本的には税理士に相談することをお勧めします。ただし、相続人が1人の場合など、簡単な手続きで終わる場合には、ご自身で作成をしていただいても良いかもしれません。

(1)法定相続人が1人の場合

法定相続人が1人であれば遺産分割協議書を作成する必要もなく、遺された遺産について分割方法や分割割合等について、相続人同士で争う可能性もありません。また、もし相続人が配偶者及び一親等の直系血族以外でしたら、相続税は2割加算されます。しかし、配偶者や実子の場合、そういったことを考える必要もありません。

(2)相続の手続きに手間も時間もかけられる場合

相続の手続きには、多くの資料、証明書が必要で計画的に取り寄せることが必要です。書類収集に時間がかけられる方であれば、税務署に問い合わせをするなどして、進めていただいても良いでしょう。

相続の手続きを専門家に依頼した方が良い場合は?

計算間違いなどにより、過少申告をすると追徴税額などのペナルティも大きくなり、逆に過大申告すると相続税を多く納税することになってしまいます。そのため、過少申告や過大申告が生じやすい事項がある場合は、税理士に依頼する方が良いでしょう。

以下の場合が過大申告又は、過少申告が生じるリスクのある事項です。

(1)相続財産の中に土地が含まれている

土地の評価は、所在地によって「路線価方式」と「倍率方式」で計算方法が異なります。貸借が行われている宅地、貸家が建てられている宅地、更に土地の形状(形がいびつ、間口が狭い等)によって評価額が異なってくるため、土地は評価に誤りが生じやすい財産と言えるでしょう。

(2)相続財産の中に非上場株式が含まれている

非上場株式は、発行会社の規模などに応じて評価方法が異なり、また、1株当たりの純資産価額を相続税評価額により、評価することが必要です。そして一定の要件を満たす場合は、特定の評価を行う必要があるなど、評価を誤りやすい財産になります。

(3)生前贈与がある場合

被相続人が亡くなった日以前に贈与された財産があるとき、相続時精算課税制度を利用していた場合は、贈与された財産を相続財産として加算する必要があります。

(4)各種控除や特例を適用する場合

例えば、土地には「小規模宅地等の特例」、被相続人の配偶者に適用される「配偶者の税額の軽減」があります。しかし、いずれも適用するためには、相続税申告が必要なうえ、一定の要件を満たさなければ適用することはできません。

相続の手続きに必要な書類とは?

相続税の申告手続きをする場合には、主に下記の書類を提出する必要があります。

1.相続税の申告書
2.本人確認書類
3.被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍謄本(法定相続情報一覧図でも可)
4.遺言書の写し又は遺産分割協議書の写し
5.相続人全員の印鑑証明書
6.相続財産や債務の関係書類

相続税の申告書は第1表から第15表まであります。全てを添付するのではなく、相続の状況に応じて必要なものだけを提出しなければなりません。

申告する本人かどうかの本人確認書類として、マイナンバーカードなどの写しを添付します。その際、税務署の窓口で申告書を提出する方は、本人確認書類の写しの添付に代えて、本人確認書類を提示していただいても構いません。被相続人の全ての相続人を、明らかにするための書類として戸籍謄本等を添付します。

もし、遺言があれば遺言書を、遺言書がなければ遺産分割協議書が必要です。また、遺産分割協議書を提出する際、相続人全員の印鑑証明書も添付しましょう。

相続財産の関係書類も添付が必要です。例えば、株式の場合は、その証書や残高証明書、銀行口座の場合は、残高証明書を添付します。生命保険に加入していた場合は、生命保険金支払通知書等を添付が必要です。また、債務として、税金や公共料金、入院費などの未払い金があれば請求書などを、お通夜、葬儀などにかかった費用の領収証等を添付します。

まとめ

相続の手続きを自分で行うことで、税理士等の報酬を削減することが可能です。しかし、過大申告により相続税を多く支払ってしまうなどのリスクもあります。また、計算ミスや条件を満たさない特例により、誤って税額を軽減させ過少申告をしたことで、延滞税や過少申告加算税等の追徴課税を受けるリスクも生まれるでしょう。

申告内容に不備が見つかった場合、追徴課税や修正申告を税理士に依頼することで報酬を支払うことになれば、結局、多くの費用を支出することに。メリットとデメリットのバランスをよく考え、自分で手続きをするのか、税理士などの専門家に依頼をするのかを決めましょう。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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