満開の中、佐世保行きの列車がやってきた。駅が最も華やぐ季節だ。戦時中は造船所に隣接し、一帯は工業地帯だったという。写真/佐々倉実

日本最西端の鉄道で出会う極上のソメイヨシノの並木
浦ノ崎駅|佐賀県・松浦鉄道

全長91kmにもおよぶ松浦鉄道は、九州西端の北松浦半島の町々を結ぶ長大な第三セクター鉄道だ。桜の季節になると1両のワンマン列車が満員の花見客を乗せて向かう駅がある。佐賀・長崎の県境に近い海辺の停車場、浦ノ崎駅だ。待合室だけの無人駅だが、ここは線路の両側からソメイヨシノが枝を伸ばし、桜花がホームや列車ごと包む沿線でも屈指の桜名所となる。

住民の力で桜の病気を克服

昭和5年(1930)、前身の国鉄により浦ノ崎駅が開業したときに植えられた約80本のソメイヨシノが残っている。しかし平成の中頃に病原菌が原因のテングス病で、ほとんどの木が花をつけなくなった。

そこで地元の有志が「浦ノ崎駅桜保存会」を結成し、樹木医と桜の回復に取りかかった。テングス病の防除には患部の枝をまめに剪定することしか対策がない。さらに下草刈りや肥料を施すなど、数年にわたる努力が実り見事に樹勢が回復。見応えのある駅の桜が復活した。開花時期の日曜日には「桜の駅まつり」が開催され、浦ノ崎駅そのものがイベント会場になる。

ホームの待合室から、約100mにわたる桜並木を眺める。列車は佐世保・伊万里方面共に1時間に1本程度の運転。写真/中井精也

ホームを挟むように桜の並木があり、満開になると駅が桜のトンネルのようになる。近隣に商店はなく国道204号線沿いにコンビニがある。

案内人
杉崎行恭(すぎざきゆきやす)さん
(駅旅ライター・69歳)

昭和29年、兵庫県生まれ。写真家、フリーライター。旅行雑誌を中心に活躍。鉄道全般に造詣が深く、駅と駅舎の専門家としても知られる。著書に『百駅停車』(新潮社)、『あの駅の姿には、わけがある』(交通新聞社)など多数。
※杉崎のさきはただしくは「たつさき」。

※この記事は『サライ』2023年4月号より転載しました。

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