ライターI(以下I):3週にわたって繰り広げられた三河一向一揆が終結しました。
編集者A(以下A):今週は、ラストから振り返りましょう。一向一揆が収まり、酒井忠次(演・大森南朋)らによるえびすくいが踊られました。初回から幾度となく登場するえびすくい。私は大好きです。一説には年末の紅白歌合戦への登場を目論んでいるとも伝えられていますが、まずは夏の盆踊りを席巻してほしいですね。
I:家康(演・松本潤)は、一向一揆側についた夏目広次(演・甲本雅裕)を許し、一向宗の軍師を務めていた設定の本多正信(演・松山ケンイチ)を追放することで決着しました。家康の人生で三河一向一揆は三方ヶ原合戦と伊賀越えと並ぶ三大危機といわれていますが感慨深い展開になりました。
A:自らに敵対した家臣を成敗することなく命は助けた。家康が寛容だったことが印象づけられました。家康を描いた小説といえば、山岡荘八さんの『徳川家康』全26巻が有名です。この小説が書かれたのは1950年から1967年。日本の高度成長期と重なります。1960年に首相となった池田勇人内閣の「寛容と忍耐」というスローガンを掲げましたが、当時の世情とも無縁ではないでしょう。
I:なるほど。山岡荘八さんの『徳川家康』が大河ドラマの原作となったのは1983年になります。奇しくも同年の朝ドラは『おしん』でした。
A:「おしん、家康、隆の里」というフレーズが飛び出すなど、1983年は「忍耐」が脚光を浴びた年になりましたが、時代はその後、「忍耐」とはかけ離れたバブルへと向かっていきます。これは歴史の皮肉なのでしょうか。
I:40年ぶりの家康主人公の大河を経て、日本はどうなっていくのか興味がありますね。
A:さて、脱線してしまいましたが、夏目広次や本多正信らの命まで奪わなかったのは、後年、島津や毛利を滅ぼさなかったことにも通じるのですかね? よくよく考えると家康ってほんとうに「寛容」ですね。
I:そうした「人間家康」を松本潤さんがどう演じるのか、私はすごく楽しみにしているのですよ。演出陣の方々には、そこんとこよろしく、って強く言っておきたいですね。
家康家臣団が熱い
A:今週特に印象深かったのは、本多正信が発した〈寺があった場所は、元の元は野っぱらなり〉という台詞でした。悪知恵炸裂という体ですし、後の大坂冬の陣では正信の息子の本多正純がお堀を埋める提案をしたというエピソードが頭に浮かびました。
I:大坂の陣の話はまだここで言及するのはちょっと早い気もしますが、後半の感動場面に向けた種がどんどん蒔かれていきますね。
A:そうなんですよ。夏目広次の場面を見ていると、雑に扱われているなと思いつつ、この先のことを考えてしまって、ちょっとウルっときます。同様に鳥居元忠(演・音尾琢真)が登場しても、ウルっときちゃうんですよね。家康を扱ったドラマでこれだけ家臣団が魅力的に扱われているドラマはないですから、今からめちゃくちゃ楽しみにしているのですよ。
I:もう後半は、ハンカチ必須の週が続きそうですよね。これらの場面は下手な変化球はいりませんから、直球勝負で感動させてほしいです。
A:そうですね。まだ第9回ですが、今後、武田信玄(演・阿部寛)との絡みや、三方ヶ原、そして信長(演・岡田准一)との絡みと本能寺の変、伊賀越えがあって、秀吉(演・ムロツヨシ)との暗闘があり、石田三成、関ケ原……。
I:お市の方(演・北川景子)とのほのかな恋も描かれましたから、浅井長政(演・大貫勇輔)との絡みも出てくるでしょうし、金ヶ崎の戦いも忘れてはいけません。石川数正(演・松重豊)の件も見逃せないですし、素材としては見どころ、泣きどころ満載のはず。家庭でつくるカレーのように不味くなりようがないと思います。
A:家庭のカレーって……。いわんとするところはわかります。変な小細工をせず王道のカレーを作ってほしいということですね。それだけで十分満足するはずだと。
厭離穢土欣求浄土
I:今週、私が印象に残ったのは、家康と本多正信とのやり取りです。〈殿は阿弥陀仏にすがる者たちの心をご存じない。毎日たらふく飯を食い、おのれの妻と子を助けるために戦をするようなお方には、日々の米一粒のために殺し合い、奪い合う者たちの気持ちはおわかりにならぬのでしょう〉という台詞はよかった。
A:家康も一向一揆での経験を経て、よりいっそう「厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど)」の考えを実行したいと決意したのではないでしょうか。そう思わせてくれる場面でした。
I:「松潤家康」もどんどん成長していますね。毎週目を細めながら見守っています。
【千代はやっぱり「望月千代女」だったか。次ページに続きます】