創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、「未来の国宝」候補といえそうな作品をご紹介します。
葛飾北斎『冨嶽三十六景 凱風快晴』
奇知に富んだ構成力を駆使して描き出される北斎絵画の真骨頂
「いつか国宝になる名画6選」の掉尾(とうび)は『冨嶽(ふがく)三十六景 凱風快晴(がいふうかいせい)』を取り上げる。
北斎の数ある名画の中でも、『冨嶽三十六景』は、日本のみならず世界的に最もよく知られた「日本の絵画」であり、その意味においても心情的には国宝に指定されて然るべき、とさえ思えるが、印刷物でもある木版画故に、未指定も無理からぬことだとはいえよう。
それはともかくとして、本シリーズの中でも富士の山体だけを描き出すという、極めてシンプルな構成が特徴的な本図。タイトルにある「凱風」とは周辺に吹く南風を指し、空には鰯雲(いわしぐも)が棚引くことからおそらくは初秋の風景と考えられる。朝陽を浴びて赤く染まった富士の姿は、これぞまさに「威容」という言葉がぴったりだ。
富士を神に見立てて
実は全46図ある同シリーズの中で、富士の山体のみを描写しているものは2図しかない。本図とほぼ同じ構図で裾野(すその)に稲妻が走る「山下白雨(さんかはくう)」だけなのだ。
実はこのふたつの作品、俵屋宗達(たわらやそうたつ)が描き琳派(りんぱ)の象徴となった『風神雷神図屏風(ふじんらいじんずびょうぶ)』の見立てになっているのではないかという説がある。鰯雲が棚引き爽やかな風が渡る「凱風快晴」を風神に、入道雲が逆巻き、山下に雷光が走る「山下白雨」を雷神に、それぞれ見立ててペアとなる連作としたのではないかというものだ。北斎にとって富士は「超絶なるものの象徴」だったといわれる。絵師として「神の領域」を目指した北斎にとって、富士は神そのものだったのだろう。
「サライ」×「東京国立博物館」限定通信販売
東京国立博物館創立150周年限定の高精細複製画を「サライ美術館」読者のためだけに受注製作します。
東京国立博物館監修の「公式複製画」をあなたの元へお届けします。
製作を担当するのは、明治9年(1876)の創業時から印刷業界を牽引する「大日本印刷」(DNP)。同社が長年にわたり培ってきた印刷技術を活用して開発したDNP「高精彩出力技術 プリモアート」を用いて再現します。
その製造工程は以下の通り。まず原画の複写データは、東京国立博物館から提供された公式画像データを使用。そのデータを、長年印刷現場で色調調整を手がけてきた技術者が、DNPが独自に開発した複製画専門のカラーテーブルを使って、コンピュータ上で色を補正。原画の微妙な色調を忠実に再現した上で、印刷へと進みます。
通常、印刷は4色のインキで行なわれているが、「プリモアート」では10種類のインキを用いて印刷が行なわれます。そのため、一般の印刷物に比べて格段に細やかな彩度や色の濃淡などを原画に忠実に再現することができます。
今回はさらに、そうして再現された複製画と額を東博の監修を受けた上で、館長・藤原誠さんの署名入り「東京国立博物館認定書」を付けてお届けします。東博150年の歴史の中で、こうした認定書を発行するのは、今回が初の試みとのこと。ぜひこの機会をお見逃しなく。