文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

映画『ダイ・ハード』の舞台となった超高層ビル

「ブルース・ウィルスがナカトミ・プラザへ帰ってきた」。2022年7月、そんな見出しが米国内のいくつかのメディアを飾った。『ダイ・ハード』から34年後、ジョン・マクレーン刑事がナカトミ・プラザの屋上に立ったのだ。マクレーンが犯人グループのリーダー、ハンス・グルーバーを突き落とした、あの超高層ビルである。

残念ながら、『ダイ・ハード』の続編が制作されているわけではない。67歳のウィルス氏は失語症を患い、俳優業から引退することが2022年3月に家族から発表されている。この再訪も家族のサポートがあって実現したものだ。

バブル経済時代の日本を象徴する建物

ナカトミ・プラザという名前の建物は実は存在しない。『ダイ・ハード』の舞台となった超高層ビルの正式名称は「フォックス・プラザ」である。映画会社「20世紀フォックス」の本社ビルだ。それにもかかわらず、今でも「ナカトミ・プラザ」の方がはるかに通りがよいという奇妙な建物なのである。

なにしろ、地図には存在しない筈の“Nakatomi Plaza”をグーグルマップで検索すると、ちゃんと行き方が表示されるくらいだ。試しにやってみてほしい。ロサンゼルス空港から約20分、映画の都ハリウッドからもすぐ近くに位置し、人工都市として名高いセンチュリー・シティの一角にある。

センチュリー・シティ

『ダイ・ハード』に出てくるナカトミとは架空の日本企業名で、その金庫に保管されている莫大な財産を犯人グループが強奪を狙うというストーリーだった。この映画が公開されたのは1988年。日本はその頃、空前絶後の好景気に沸いていた。当時のアメリカでは、金持ちと言えば日本人や日本企業が連想されていたわけで、その意味では日本のバブル経済時代を象徴する建物と呼べるかもしれない。

1988年と言えば、野茂英雄もイチローもまだ渡米しておらず、大谷翔平や大坂なおみにいたっては生まれてさえいなかった。やたらカネは持っているけど、何を考えているか分からない不気味な集団だと、そんな印象をアメリカ人の多くは日本人に対して抱いていたのではないだろうか。残念ながら、『ダイ・ハード』でも、1993年公開の『ライジング・サン』でも、他にも数多くの映画で、日本人及び日本企業はそのような扱いを作中で受けている。

幸か不幸か、その後日本のバブル経済は崩壊し、今ではアメリカ人の対日観も大きく様変わりした。日本人であると名乗っても、変に警戒もされない代わりに、特に金持ちだとも思われない。言うまでもないことだが、アメリカで暮らす日本人にとっては、現在の方がずっと気楽である。

ナカトミ・プラザの訪れ方。次ページに続きます

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