梅雨も明け、夏らしい時期が近づいてきました。今年に限っては、観測史上最速の梅雨明けを宣言されたのちに、台風4号の影響もあってか不順な天候に逆戻りといった、どうもおかしな天候となっています。本来であれば、夕立ちや雷が多くなり、気温も段々と上がって行く時期です。
古来より日本人は一年を七十二の“候”に区分して、そうした季節のうつろいに意識を向けていました。自然の変化を感じづらくなった今だからこそ、旧暦の二十四節気を軸にして季節を愛でる機会を持ってみるのはいかがでしょうか。
今回は、旧暦の第12番目の節気「大暑」(たいしょ)について、下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
目次
大暑とは?
大暑に行われる祭りや行事とは?
暑中見舞いに使う「大暑の候」とは?
大暑に見頃を迎える花
大暑に旬を迎える食べ物
まとめ
大暑とは?
「大暑」とは、7月後半から8月前半にあたる二十四節気の一つです。「大きく暑い」と書くことからわかるように、一年でもっとも暑さが厳しく感じられる頃を指します。日本では多くの地域で梅雨明けを迎え、安定した夏空が広がるようになる時期です。
二十四節気は毎年日付が異なりますが、大暑は例年7月22日〜7月23日になります。2022年の大暑は7月23日(土)です。また、期間としては、次の二十四節気の「立秋」を迎える、8月5日~8月6日頃までが該当します。2022年は7月23日(土)〜8月6日(土)が大暑の期間です。
大暑は読んで字のごとく、1年間で最も暑さが厳しいとされる時期。日に日に暑さが増し、蒸し暑くなります。夏バテや熱中症などにならないよう、栄養摂取や水分補給、暑さ対策が必須です。
また、この時期になると、スーパーなどで天ぷらが安く売っているのを目にしたことはありませんか? 大暑には「天ぷらを食べるといい」と言われおり、「天ぷらの日」になっているほどです。ここには「夏の暑さに負けないように、天ぷらを食べて元気に過ごそう」という意味が込められています。
大暑に行われる祭りや行事とは?
大暑の期間に執り行われるお祭りは、下鴨神社で斎行される「御手洗(みたらし)祭り」が挙げられます。律令制確立以降、朝廷が万民の罪やけがれを祓い除き、清浄にする儀式の「大祓」と、民間信仰の影響を受け形成された水無月祓(夏越祓・暑気払いなど)とが混交し、参拝時の「水で清める」礼儀作法が加わった形で成立した「祓」の神事です。土用の丑の日に御手洗池の清流に足をひたせば、無病息災でいられると伝わっています。
立秋の前夜には、この御手洗池にて夏越神事(矢取神事)が斎行されます。夏越とは、「名越祓」の「名越」から来ており、夏の名を越す、すなわち夏の終わりを表し、季節の変わり目のお祓いの意味があると言われています。
池の中央には御幣が付けられた大きい斎串(いぐし)が二本、小さい斎串が四十八本立てられます。大きい斎串は、太陽と月を表わし、小さい斎串は一年間の季節を表すと伝えられています。神職の祝詞奏上に続いて、氏子崇敬者や参拝者の病やけがれを背負い、無病息災の願いが書き込まれた数万体の人形(ひとがた)が、神職の大祓詞奏上と同時に御手洗池に投げ込まれます。
その時、池の周囲に待ち構えている裸男たちが、一斉に池の中に飛び込み斎串を奪い合います。その姿は、荒々しく、賑やかで歓声が飛び交う様子は、静かで厳かな神まつりが多い下鴨神社の中では珍しい風景です。また、賀茂神話の丹塗矢の故事によるお祭りでもあります。
また、大暑には、鰻を食べる「土用の丑の日」もあります。この暑い時期にスタミナ満点の鰻を食べて、夏バテを乗り切るという古くからの風習です。ただ、鰻の旬は秋から冬にかけてであり、夏ではありません。この風習は江戸時代、鰻屋が夏も鰻を売るために「土用の丑の日」と宣伝したことがきっかけとされています。
鰻は栄養価も高く、夏バテにもいいということもあり、夏に食べる人が増えて売上が上がるようになりました。このことから、「土用の丑の日」=「鰻を食べる日」と根付いていったのです。
暑中見舞いに使う「大暑の候」とは?
暑中見舞いを送る時期は、大暑の前の節気である「小暑」と「大暑」の期間です。暦上では7月前半~8月前半に当たります。「暑中見舞い」の「暑中」とは、小暑や大暑の「暑」の中だと考えるとわかりやすいでしょう。
その暑中見舞いにはよく「大暑の候」という時候の挨拶が使われます。「大暑の候」は、噛み砕くと「厳しい暑さを感じる季節になりました」といった意味になります。暑さが本格的になる「大暑」の時期のみ、つまり立秋の前日まで使える挨拶です。
“~の候”とつく漢語調の挨拶は、時候の挨拶の中で最もあらたまった丁寧な言葉です。ビジネスや公的な手紙、目上の方に出す手紙の場合には、この漢語調の時候の挨拶を使うのが慣例となっています。例えば、「拝啓、大暑の候、ますますのご繁栄の事とお喜び申し上げます」や「大暑の候、貴社ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」などというように使います。
大暑に旬を迎える食べ物
大暑の時期に旬を迎える野菜・果物、魚、京菓子をご紹介します。
京菓子
現在のようにエアコン等の冷房設備の無い時代の人々は、少しでも夏の暑さをしのぐために様々な工夫をしておりました。それは、食の面においても例外ではなく、身体を冷やす効果のある食材や、口当たりの爽やかなものを好んで食しておりました。
蒸し暑いことで知られる、京都の夏。少しでも涼しさを感じるために、京菓子においてもこの時期は視覚と味覚から涼を感じられるものをお客様に提供するお店が多いようです。
下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に大暑の時期に楽しめる京菓子についてお話をお聞きしました。
「大暑の時期、当店では『水ようかん』をおすすめしております。糸寒天と水を鍋で均一に煮溶かし、こし餡(あん)を加えて溶かしたものを漉(こ)してから、器に流し入れます。その時、餡が沈みきらないように、回転させながら常温で固めます。こうした過程を経ることで、口当たりがなめらかで潤いのある味わいになります。
暑い日が続くと、自分が思っている以上に体は疲れているものです。冷蔵庫で冷やした『水ようかん』を食して、暑気払いとしていただきたいですね。
当店の『水ようかん』は、糸寒天と水、そしてこし餡の3つで作られています。冷やして召し上がっていただくことで、濃厚なこし餡でありながらも、口溶けの良さを感じていただけます。
賞味期限は2か月程度と日持ちがいたしますので、夏の贈答にも向いています。どうぞご利用ください」と古田氏。
野菜・果物
大暑に旬を迎える野菜はゴーヤーです。独特の苦味のあるゴーヤーは、緑の鮮やかなものほど新鮮で栄養価が高くなります。苦味は胃液の分泌を促して、食欲を増進させてくれる効果があるため、食欲の落ちる大暑の時期におすすめです。
また、ぶどうも旬を迎えます。主成分の果糖やブドウ糖などの糖質には疲労回復効果があり、夏バテが心配な方にはぴったりの果物です。選ぶ際には、実にハリがあり、全体的にきれいに色づいているものがおすすめ。また、軸がしっかりしており、茶色くなっていないものを選びましょう。
魚
旬を迎える魚は、アナゴです。岩のすき間などの穴にいることから「穴子」と呼ばれるアナゴは、淡泊な味わいが好まれる魚。そのため、脂の乗らない夏が旬とされています。あっさりとしたこの時期の穴子は、天ぷらにすると美味しいでしょう。
大暑に見頃を迎える花
大暑の訪れを感じさせてくれる花をいくつかご紹介しましょう。
大暑の時期になると、白粉花(おしろいばな)が花を咲かせます。種を割ると白いおしろいのような粉があることからこの名が付けられたとされています。白粉花は、夕方から次の日の午前くらいまでしか開花しないため「一日花」と呼ばれることも。ただ、開花期である夏の期間は次々に新しい花が咲き続けるためずっと花が咲いているように感じられます。
朝顔(あさがお)もこの時期に開花を迎えます。夏の暑い日差しの中で、青や紫のきれいな花を咲かせる朝顔は、夜明け前に花を咲かせ、昼にはしぼんでしまう姿が特徴的です。元々は薬草として中国から持ち込まれましたが、その美しさから観賞用にも栽培されるようになったとされています。
まとめ
梅雨も去り、本格的な夏がやって来る「大暑」。年々増してゆく夏の暑さを乗り切るためには、栄養のある食材を食べるなど、夏バテ対策をすることが大切です。季節の花を観て、旬の食材を食べる、そうした自然との触れ合いが私たちに元気を与えてくれるのではないでしょうか。
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/豊田莉子(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook