取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

お話を伺ったのは、千葉県浦安市在住で、アルバイトの市村雄一さん(仮名・70歳)。介護施設の経理をしている。雄一さんの娘は、38歳で自宅に住んでおり、接客アルバイトを転々としているという。

【その1はこちら

実は「丸の内OL」に憧れていた娘

28歳の時に、ブラック企業に勤務。自殺未遂まで追い込まれて、親子問題が明るみに出た。母親から「失敗作」扱いされた娘は、大きなショックを受けて、夜の街に働きに出る。

「何をもって育児に成功したというのか、と娘に詰め寄られ、“金を稼いで自立すること”と妻は言った。こんなことを言っては何だけれど、妻は社会に出たことがないからデリカシーがない。人の気持ちを考えず、なんでも思った事を口から出す」

娘は「金を稼げばいいんでしょう」と夜の仕事に出た。

「でもあんなにプライドが高い甘ちゃんに、夜の仕事なんてできるわけがない。私は接待で銀座や六本木に行っていたけれど、夜の仕事の女性は、したたかで強くて優しい。聞き上手で賢いしね。娘では絶対に務まらないと思った」

雄一さんの予想通り、娘はクビになった。「大卒の私がこんな仕事をするのは金のため」という態度を出していたからではないかと、雄一さんは分析する。

「娘が考えているより、数百倍も社会は厳しい。妻はいい条件の男と結婚させようと思って、見合いをセッティングしていたけれど、10人とも向こうから断られた。私もよせばよかったのに、30歳の娘に、食材輸入と加工の会社の就職をあっせんしてしまった。娘は1週間くらいその会社に行ったけれど、人間関係になじめなかったようで辞めた」

親が良かれと思ってやったことが、すべて裏目に出る。

「親しい友人に相談すると、『甘やかしすぎだ』と言われるし、妻からは『あなたのせいよ』となじられる。息子に連絡すると『今さらあなたは父親面ですか? うざいんですけど』と返される」

長男にないがしろにされるのは、家族と関わってこなかったから。

「働く背中を見せていれば、わかってくれると思っていた。しかし、息子は私を嫌い、娘は金づるだとしか思っていない。私は熾烈な競争を経て、静岡から東京の名門大学に進学。卒業後は会社のために働き、結婚後は家族のために働き、中堅商社の取締役までなった。家のことは妻に任せきりだったけれど、2人とも私と同じ大学を卒業させて、何不自由ない生活をさせてやった。これ以上何を望めと言うのだ」

先日、娘に「ホントは何がしたかったんだ?」と聞いてみたという。

「そしたら、丸の内で働きたかった、って言うんですよ。ドラマに出てくる、カッコいいOLになりたかったんだと。言われてみれば、娘は就職活動時に、丸の内にある会社ばかり受けていたような記憶がある。小学校3年生から塾に行かせて、そこそこの中高一貫校に進学させて、現役で名門大学に入れさせて、転職も許してやったのに、“丸の内OLになりたかった”ってさ」

【娘は親のすねをかじる日々…次ページに続きます】

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