人口の3分の1が65歳以上の高齢者である現代社会において、介護問題は多くの人々にふりかかってくるものです。
しかし、知識を持たないまま介護を始めてしまうと、介護されるご本人も、その家族も苦しい生活を送ることになってしまうことも。そして、それは、介護される方のQuarity of Life(生活の質)を下げてしまうことにもなります。
そこで、自身の親の介護を経験し、リハビリ専門デイサービスを経営する神戸利文さんと、理学療法士の上村理絵さんの共著『道路を渡れない老人たち』から、知っておきたい介護の基礎知識をご紹介します。
文 /神戸利文・上村理絵
自宅のリフォーム費用は、介護保険で最大18万円まで支給される
介護保険で介護のための住宅リフォーム費がいくらまで支給されるか、知っていますか?
最大18万円まで、支給される可能性があります。介護が必要になったときには、介護保険をはじめ、経済的な負担を軽減するためのさまざまな制度を利用することができます。その中でも、まずおすすめしたいのが、バリアフリーや介護を目的とした住宅リフォーム費の補助金・助成金の制度です。
介護保険では、介護のための住宅リフォーム費のうち、20万円の7〜9割、最大18万円まで支給されます。これは、要介護認定の区分によらず、基本的には1人につき生涯で18万円を受け取れるものです。
そのため、工事費用が20万円に達するまで、何度でも繰り返し利用することができますし、引っ越しをした場合はもう一度使うことができます。ただ、すべての介護リフォームに適用されるわけではなく、支給対象となるリフォーム内容が決まっているので、その点は注意が必要です。まずはケアマネジャーに相談してみてください。
また、介護保険からの支給とは別に、市区町村からも、「寝室の家具転倒防止」や「高齢者世帯へIHクッキングヒーターの支給」など、高齢者福祉事業や日常生活用具の給付等の様々な施策でサービスや助成を受けられることが少なくありません。支給条件、支給額などは各市区町村で異なるので、詳細については市区町村のホームページや窓口で確認するようにしてください。
難病の人は、難病認定と身体障害者手帳の交付を受けよう
介護を受ける人のなかには、「難病」を患っている人がいます。「難病」とは、発病の原因が明確でないために治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする病気です。こうした難病のうち、国が医療費助成制度の対象と定めているものを「指定難病」といいます。
指定難病を患っている場合には、都道府県の窓口へ申請し、難病医療費助成の認定を求めるとよいでしょう。認定されれば、月額の自己負担額の上限が0〜3万円となる医療費の助成が受けられます。
また、難病認定と同時に、生活になんらかの不便や障がいがあるようでしたら、身体障害者手帳の交付も受けるようにしましょう。
身体障害者手帳は、身体に障がいがある人の自立と社会経済活動への参加を促進するために交付されるものです。
1〜7級までの区分があり、申請は市区町村の障害福祉の担当窓口で行います。
身体障害者手帳が交付されると、その等級に応じてさまざまな支援やサービスが受けられ、経済的負担、場合によっては身体的負担も減らせるので、活用しない手はありません。身体障害者手帳の交付によって受けられるサービスには、次のようなものがあります。
・医療費負担の軽減
・国税や地方税の控除または減免
・補装具購入費の助成または支給
・障がい者の生活支援を目的とした住宅リフォーム費の助成
・公共交通機関など各種運賃や通行料の割引
・駐車禁止除外
・郵便料金、NHK受信料、公共施設入館料等、一部公共料金の減免 等々
身体障害者手帳で受けられるサービスの内容は自治体によっても異なるので、詳しくは住まいのある市区町村の障がい福祉の窓口に問い合わせるか、ケアマネジャーに尋ねてみてください。
なお、介護保険の利用と身体障害者手帳の交付は同時にできますが、重複するサービスについては介護保険のサービスが優先されます。
高額療養費制度と医療費控除で、医療費をできるだけ軽減する
入院、通院を続ければ、医療費もかなりの額にのぼります。特に高齢者の場合には、複数の病院を受診していることも少なくないので、なおさらでしょう。
そこで、医療費を軽減し、出費を抑えられる制度を2つ紹介しておきます。
高額療養費制度
まず、1つ目が、高額療養費制度です。
高額療養費制度では、同じ月に支払った医療費の一部負担金を合算し、自己負担限度額を超えた部分について、払い戻しを受けることができます。高額療養費は、同一世帯に同じ医療保険に加入している人が複数いる場合、入院・外来・診療科を問わず、月の初日から末日までの1カ月間の自己負担額を合算することが可能です。
つまり、高齢の夫婦では、2人の負担額をあわせて計算することができます。ただし、入院時の食事代や差額ベッド代など、保険診療の対象でない費用は、高額療養費に含まれないので、注意してください。
医療費控除
2つ目の制度は、医療費控除です。医療費控除では、医療費の合計が10万円を超えた部分について、上限200万円までを対象に、税負担が軽減されます。その年の総所得金額が200万円未満の場合には、総所得金額の5%の額が対象となります。
医療費控除は、「生計を一にする配偶者やその他の親族」まで広げられるので、同居だけでなく別居していても、夫婦はもちろん、親子の分まで含めて合算し、申告することができるのがメリットです。
医療費控除に関しては、どんな費用が控除の対象に含まれるのか、判断が難しいところがあるかもしれません。医師と歯科医師の診療・治療費用はもちろんそこに含まれますが、たとえば通院時のタクシー代、薬局で購入した風邪薬の代金などのほか、介護保険の訪問看護サービス、訪問リハビリテーションサービスなどの医療系サービスや、それとあわせて使ったホームヘルプサービス、デイサービスの利用料も対象となる場合があります。控除の対象かどうか迷ったときには、税務署に問い合わせるのが確実です。
控除を受けるには、前年1年間の確定申告をしなければなりません。還付申告の時効は5年なので、その間であれば、過去分についても申告して、還付を受けることができます。
ここでは、指定難病での医療費の上限と障害者手帳による医療費の助成、そして、高額療養費制度と医療費控除についてのお話をしました。ちなみにこの4つの事業は、それぞれ申請場所が異なります。難病指定は都道府県。障がい者等医療費助成制度は各自治体の障がい関連部署。高額療養費制度は後期高齢者医療広域連合という所から書類が送られてきて各自治体の健康保険関連部署に申請。医療費控除は確定申告をして税務署に申告と……。
そして両親の確定申告すら、税務署は違反だと叱責してくるし本当大変です。さらにこれらの申請以外にも社会福祉サービスを受けるときに、どれが該当し、どこに何を申請できるかといったことも考えなくてはなりません。それでなくとも忙しい、老老介護で外出しにくくなっている老夫婦や共働き夫婦、子育て世代の人たちに対し、機会損失がないようにこれらの案内や申請の補助をトータルでしてくれる人は、ほぼいません。
「こんな補助があります。これもあれも同時に申請しておきましょう」という、プッシュ型のデジタル行政が構築されることで、効率よく無駄をなくした生活環境が整えられ、ケア・リハビリプランにも積極的な自立支援ができてくると思われます。
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『道路を渡れない老人たち』 神戸利文・上村理絵著
アスコム
神戸利文(かんべ・としふみ)
合弁会社・株式会社保険市場の代表取締役を務めるなど、保険業界を中心に活躍をしていた中、自身の親の介護の実体験がきっかけとなり「理学療法士によるリバビリテーション」「日本で初めて介護保険分野で受けられるサービス」を世に誕生させた誠和医科学(現・ポシブル医科学株式会社)と出会う。生活期のリハビリの重要性を説く考えに共感し、その経営に参画した。同社を退任後、生活期のリハビリが不毛不足する東京関東圏に進出するため、リタポンテ株式会社を設立。リハビリ専門デイサービスリタポンテを新宿区で開業。「日本から寝たきりをなくすために、おせっかいを科学する」を合言葉に、リハビリを中心とした介護サービス事業を展開する。
上村理絵(かみむら・りえ)
理学療法士。リタポンテ 執行役員事業部長。1974年生まれ。中京女子大学(現・至学館大学)卒業後、関西女子医療技術専門学校理学療法学科(現・関西福祉科学大学)を経て、理学療法士として活動。塩中雅博氏のポシブル医科学株式会社の創業を支援。およそ10年間で、のべ16万人に生活期のリハビリを提供し、そのビジネスモデルの骨格を現場で作り上げてきた。同社退任後、神戸とともに、リタポンテ株式会社を立ち上げ、理学療法士の立場から、「高齢者に本当に大切なリハビリ」を提供している。