文/鈴木拓也

親が片づける気持ちのない実家の片づけはどうやる?|『親の健康を守る実家の片づけ方』

帰省するたびに、少しずつ散らかり度合いが増してゆく、親の住む実家。このままではゴミ屋敷になるのではと心配して片づけようとすると、親から猛反発を受ける。

親が高齢になった家では、よく見られる光景だろう。

この場合、無理にでも子どもが片づけるべきだろうか?

悩みどころではあるが、そもそも、「実家を『片づけてほしい』と思っているのは、実は子どもだけです。親は別に『片づけたい』とは思っていません」と語るのは、介護士と整理収納アドバイザーの資格を持つ永井美穂さんだ。

永井さんは、著書『日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方』(大和書房)で、多少乱雑でもモノにすぐ手が届く部屋が、親にとっては快適空間だと説く。だから、子どもが「片づけて」と言うと、カチンとくるわけだ。

だからといって、散らかったままでいい、というわけではない。永井さんは、片づいていないと転倒のリスクがある点を指摘。統計的にも、転倒して骨折した高齢者の実に約8割が、家の中で転倒しているという。親のことを心配して片づけたいと考えるのは、子どもとして当然のことなのだ。

■親にとって大切なモノを把握し大切にする

片づけたい子どもと、片づけたくない親のジレンマを解決するために、永井さんは多くの対策を提示する。その1つが「大切なモノは目に見えるところに飾る」。本書では、部屋の隅にある、親が若い時分に旅先で購入したこけしを例に挙げる。

「そういえば、私に似てると言ってお父さんが買ってくれたのよね」と昔話に花が咲きます。「じゃあ、大切なモノだから、きれいに拭いてここに飾ろうよ」と娘が提案したとしましょう。お母さんはきっと喜ぶに違いありません。そして、娘が自分と同じように大切にしてくれることで、お母さんのモノへの執着が消え、場合によっては「古臭いからもう処分しようかしら」ということに。(本書21pより)

ポイントの1つは、親が大切に思っているモノを、子どもが把握しておくことが前提である点。長く離れて暮らしていることもあり、子どもは意外と親のことを知らない。これについては、会話をしながら、親にとって大切なモノを知るよう努める。

もう1つのポイントは、親と同じように子どもがそのモノを大切にすること。そのこと自体が親には嬉しいのである。そして、モノにまつわる思い出を親子で共有する。それによって、モノへの執着がなくなり、片づけへのスムーズなとっかかりが生まれるという。

■洋服・食器はジャンルごとに仕分けて片づける

実家の片づけに対し、親から一定の理解を得られたとして、どう片づけ、捨てるべきだろうか?

自己判断で黙って捨てるのはもちろん、古く使っていない食器などを指して「こんなのいらない」と言ったりするのはNGだ。

永井さんがすすめるのは、アイテムごとに分けて、親が審査員になり“オーディション”をすることだという。

例えば、かさみがちなモノとして洋服がある。これを一か所に集め、オンシーズン・オフシーズンに大別し、ブラウスやスカートなどとアイテムごとに分類する。そうした上で1着ずつ吟味してもらい、まだ着る服・愛着のある服はタンスに戻してゆく。戻らない服は、親が不要と考える服になるが、処分するのにためらいがあれば、「2軍」として押入れの奥へ。2軍のまま月日が経ったら、親としても手放しやすくなる。

食器についても同様。「重くて洗いにくい、しまいにくい、電子レンジが使えない食器、結婚式の引き出物、ノベルティ食器」などが、手放す候補となるという。

■認知症だからと勝手に片づけてはいけない

脳疾患による片麻痺や認知症など、親が要介護になった場合、片づけはどう考えるべきだろうか?
これについても永井さんは、1章をもうけて詳しく解説している。

一例を挙げると、デイサービスに通うようになった認知症の親。「認知症だからわからない」というフィルターをかけて親を見るのは禁物だ。デイサービスに行っている間に、勝手に片づけてしまうと、帰宅した親が混乱する可能性がある。特に、タンスのような大きなモノを移動させると、部屋の印象が変わってしまうので要注意。
片づけは、親と一緒にアイコンタクトを取りながら行うように、というのが永井さんのアドバイスだ。

例えば、親が「この洋服、ちょっときついのよね」と言ったら、「そうなの? じゃ、いらないのね」と、かならず確認を取ることが大切です。そして、「なぜ、親はこれを手放せないのか」という、その気持ちを聞いて寄り添い、理解して親の世界に入ることです」(本書109pより)

ここでも、思い出の共有がポイントになる。親はこれによって納得がいき、モノへの執着が薄れ、手放しやすくなる。

*  *  *

永井さんは、「片づけは娘さん、息子さんの親孝行の絶好のチャンスです」と、終わりのほうで述べている。「どうせ親はやらない」などと短絡的に諦めてしまうのではなく、親ともう少し距離を詰め、一緒に片づけるという意識は欠かせない。本書は、そのための一助となるはずである。

【今日の親の健康に良い1冊】
『日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方』

http://www.daiwashobo.co.jp/book/b481128.html

(永井美穂著、本体1,500円+税、大和書房)

日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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