ライターI(以下I):ついに火矢が放たれました。頼朝(演・大泉洋)の挙兵です。土肥実平(演・阿南健治)や岡崎義実(演・たかお鷹)などの戦いぶりが見事で、身震いしました。
編集者A(以下A):なんだかんだいって合戦シーンは興奮しますね。合戦の最中に座り込んでしまう義時(演・小栗旬)。これが初陣なんでしょうね。
I:敵方は、三島明神のお祭りに出かけた家臣が多くて、守りが手薄だったんですよね。山木兼隆(演・木原勝利)と堤信遠(演・吉見 一豊)いずれも討たれて首がはねられました。
A:本作でいう「首チョンパ」になりました。両者の首実検のシーン、頼朝は礼を持って接していました。『後三年合戦絵巻』などには木々に掛けられた首がたくさん描かれていますし、ほんとうに武士のすることは恐ろしい……。
I:頼朝が挙兵して自陣の山木、堤が殺されたわけですから、伊東祐親(演・浅野和之)が「あの時頼朝を殺しておけばよかった」と言うのにも実感がこもっていました。平家の威を借りて威張っていた堤信遠、やっぱりいの一番に的にされたんですね。
A:いつの時代も堤信遠のような存在はいます。幕末の世良修蔵とか。もちろん現代にもそういう人はたくさんいるんでしょう。さて、初戦の勝利で頼朝がさっそく、土地の分配など差配していく流れになりました。とはいえ、初戦を終えたばかり。北条宗時(演・片岡愛之助)が大庭の兵力が3000なのに対して、〈われらは300!〉〈少ない!〉ということで、甲斐の武田信義(演・八嶋智人)に援軍を要請すべしという話になりました。それに対して頼朝は〈武田など血筋ではわしに比べるべくもない〉と一蹴するのですが……。
I:武田信義は頼朝の高祖父(祖父の祖父)義家の弟義光の曽孫で、頼朝とは九親等離れています。現在では六親等までは血族とくくられますから、九親等ではもう他人でしょう。ちなみに以仁王(演・木村昴)とともに挙兵して敗死した源頼政(演・品川徹)は頼朝とは十二親等離れていますから、武田家以上に離れていたことになります。
A:現代人でも九親等といったら、会ったこともない人がほとんどでしょうね。
再会した頼朝と八重、寸止めの不穏
I:今週は、なんと頼朝と八重の再会の場面がありました。〈久しぶりだのう〉〈人に見られたら〉〈覚悟のうえじゃ〉〈江間(夫)は伊東に行っています〉……。
A:なんだかゾクゾクしました。一昔前の昼ドラのようなやばい展開ではなかったですか?
I:私は、頼朝が部屋に入り込もうとした瞬間、「頼朝、何をやってるの!」ってクッションを画面に投げつけてしまいました(笑)。
A:ちょっと嫌な予感がします。いったん盛り上がったふたりの想いが寸止めで中断を余儀なくされる。いつかこの想いが暴発してしまうのではないかと……。
I:それは考えすぎではないですか?
時政と景親の舌戦
I:大庭景親軍と頼朝軍が石橋山で対峙します。名乗りをあげて舌戦を交わす。『源平盛衰記』に記述される名場面ですね。この時代の合戦場の場面は、大鎧や武将らの名乗り合いが歴史ファンになるきっかけになることが多いようです。確かに格好いいですよね。
A:私見ですが、北条時政(演・坂東彌十郎)と大庭景親(演・國村隼)の舌戦は、日本史上屈指の名場面だと思っています。大庭景親が鎌倉権五郎景政の子孫だと名乗る場面、時政から源氏累代の家人がなぜ平家につくのかと詰問された景親の「昔は昔今は今、恩こそ主よ」や「平家の御恩を蒙むる事、海山の如く高く深し」という発言は、名言中の名言だと思います(やや、興奮)。
I:劇中では、〈平家の御代を揺るがそうと合戦を起こしたのは誰だ? カマキリが両手をあげて牛車に立ち向かうようなものだ。名を名乗れ!〉と景親が叫んでいました。
A: カマキリといったのか蟷螂(とうろう)といったかはともかく、『源平盛衰記』に記述される名台詞です! この時代、後白河院の編纂した歌謡集『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』にもカマキリに触れた歌が登場します。
I:蟷螂は自分の力をわきまえず大敵に向かうことを言う中国のことわざだったか何かがもとになっていると聞いたことがあります。祇園祭の蟷螂山は、南北朝時代の合戦の故事が由来とのことです。
A:カマキリはともかく、『草燃える』の石橋山合戦の回を見返してしまいました。加藤武さんの大庭景親、金田龍之介さんの北条時政……。両者が交わした舌戦も懐かしい!
I:國村隼さんと坂東彌十郎さんの舌戦も印象深い場面になりました。〈わが身を救ってくれたのは平家である。その恩は海より深く山より高い〉〈一時の恩にひたって先祖代々の主を捨てるとは情けなや、情けなや〉――。
A:要所要所でしっかり古典のエッセンスを組み入れているのが心に沁みますね(しみじみ)。
宗時の台詞に込められた坂東武士の野望
I:さて、石橋山の合戦は頼朝軍の大敗北でした。伊豆山権現に避難していた政子らも気が気でなかったでしょう。
A:そうですね。ここで、頼朝が〈北条を頼ったのが間違いだった〉などと無神経な発言をしてしまいます。時政が怒るのも当然。ただ、〈頼朝の首を持っていけばなんとかなるんじゃないか〉って、そこまでいうかという感じではありますが。
I:鎧に刺さった矢を抜いたら「山内首藤」と書かれていました。経俊どうなってしまうのでしょう。そちらも気になります。そして、頼朝と八重との間に生まれた千鶴丸を殺したのは善児(演・梶原善)ですが、どうやらこの男、伊東の家人と言いながら、その実態は「殺し屋」だったんですね。頼朝挙兵に尽力した宗時(演・片岡愛之助)は、わが国初の武家政権成立の立役者のひとりだと思います。その宗時を殺し屋風情に殺させるとは納得いきません!
A:お、Iさん完全に北条に肩入れしていますね(笑)。確かに、その気持ちはわかりますが、伊東に肩入れする立場からすれば、宗時の死は喝采を叫ぶ出来事なんでしょう。歴史は立ち位置の違いで見えてくる風景がまったく異なりますからね。第3回では堤信遠が、北条時政が持参した野菜の茄子を時政の顔になすりつけました。少なからぬ視聴者が堤信遠の行為に怒りを感じたようです。同じように善児の行為に怒りの感情を持った人もいるでしょう。
I:その怒りを平家にぶつけたほうがいいのでしょうか? それとも伊東祐親にぶつけますか? ああ、ほんとうに悔しい!
A:それだけに宗時の台詞が心に残りました。〈俺はこの坂東を俺たちだけのものにしたいんだ。西から来た奴らの顔色をうかがって暮らすのはもうまっぴらだ。坂東武者の世を作る。そしてそのてっぺんに北条が立つ。そのためには源氏の力がいるんだ。頼朝の力がどうしてもね〉
I: 結果的に宗時の遺言になるんですね。タイトルが「兄との約束」っていうくらいですから、宗時の思いを弟義時が引き継いで行くという展開になるのでしょう。「義時、来週からもっと大人になって!」って強く思います。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり