おしゃべりする、ぼーっとする、読む、学ぶ、考える、俗世間の塵を払う──そこは人間にとって大切なものに満ちた場所。喫茶店でしか出会えない“普段着の京都”をご案内します。

80年前に焙煎卸売業として出発したコーヒー豆の匠

広々とした本館。奥はガーデン席(喫煙可。ほかに喫煙ブースもあり)。サンドイッチなど料理も豊富なので、食事も楽しみたい。

昭和15年、猪田七郎がコーヒー豆の焙煎と卸売を始めた。召集でいったん店を閉じるが、復員後、昭和22年に小さな喫茶スペースをオープン。それが今の本店の南側にある白い建物「メモリアル館」である。昭和42年に北側の呉服店を買い取って拡張し、ガーデン席、2階席もある広々とした「本館」となった。

メモリアル館。創業当時の写真や古いコーヒー機器が展示されている。ここで飲食も可。

本館の入口を入ると、左の壁に大きな祇園祭の絵がかかっている。創業者・七郎の作品だ。

若い頃、画家を志していた七郎は、コーヒー店を立ち上げてからも描き続けた。コーヒーカップに描かれたエンブレムも七郎の手による。絵は季節ごとにかけ替えられ、秋には時代祭の絵になる。

店員は制服着用で蝶ネクタイ姿。礼儀正しくキビキビとした接客も老舗ならではの魅力。

苦みと酸味、濃厚な味

「ロールパンセット」930円。コーヒー(※コーヒー「アラビアの真珠」単体は600円)はネルドリップ。濾し布の裏の起毛に湯が滞留し、濃厚な味に抽出される。

「アラビアの真珠」と名付けられた、モカをベースとしたブレンドコーヒーが店の定番だ。ミルクと砂糖をあらかじめ入れて供するのが『イノダ』の伝統。コーヒーが冷めるとミルクが混ざりにくくなるため、話に夢中になっている客にもおいしく飲んでほしいという配慮から生まれた流儀だが、今は注文時にミルクと砂糖の有無の好みを聞いてくれる。ミルク入りでも香りは高く、味は濃厚。しっかりとした苦みとほのかな酸味が口を満たす。カップは肉厚で冷めにくく、脚が付いている。時間を忘れてゆっくりと楽しみたい。

左は創業時の店舗「メモリアル館」。右は「本館」。道路の向かい側に創業者の旧宅がある(現オフィス)。

イノダコーヒ本店
京都市中京区堺町通三条下ル道祐町140
電話:075・221・0507
営業時間:7時~18時(最終注文17時30分)
定休日:無休
交通:地下鉄烏丸線・東西線烏丸御池駅より徒歩約10分 
店の隣に提携駐車場あり。

【立ち寄り情報】
・京都文化博物館まで徒歩約2分。
・頂法寺(六角堂)まで徒歩約5分。生け花発祥の地として知られる。
・焙煎豆のほか、カップセット、ロカ(濾過)器、コースターなどのオリジナル商品を多数販売。おみやげを買うのにもよい。

取材・文/大塚 真 撮影/塩﨑 聰
※この記事は『サライ』2021年10月号別冊付録より転載しました。

 

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