取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
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可乃子さん(65歳)は、東京都郊外の武蔵野の面影が残る住宅街に40年近く住んでいる。夫が亡くなった5年前に、近所の喫茶店で中学時代の同級生・花子さんと再会。そして、2020年4月に妻を亡くした中村君とも再会を果たす。
【これまでの経緯は前編で】
「旅行は中止になったよ」と電話連絡が入る
可乃子さん、花子さん、中村君の3人で行く日帰り温泉ドライブの当日の早朝、花子さんから「中村君の会社の都合で中止になった」と電話が入る。いつもはLINEなのに、電話なので緊急事態だと察知したという。
「温泉は残念だったけど、私はコロナも怖かったし、花子さんのことも気になったので、中止になってホッとしたんですよ。庭いじりもしたかったし。それから、1か月くらいは喫茶店に行っても花子さんと合わない日が続きました」
そんなある日、駅前のショッピングモールで花子さんと偶然会う。
「びっくりしましたよ。少し前までは、ジーパンばかりはいていたのに、ちょっと痩せてミニスカートはいて、髪をキレイに染めて、お化粧までしている。かわいいというか、怖い感じがしましたよね。女性って、若作りをしようとすればするほど、不気味になっていく。私たちが通っていた中学校の音楽の先生がまさにそういう人で、50代になっていたとは思うけれど黒髪のロングヘアで、髪がうねってパサパサで、地肌が透けるくらい髪も薄くなっていた。それなのに、ピンクのワンピースを着て、白塗りの化粧をしていた。あの先生の姿を連想しました」
さらに可乃子さんに対して、気づかぬふりをした。
「おかしな人だなと思いましたよ。その数日後に区役所で中村君に会った。私が手を振ると、中村君はびっくりした顔をしている。“久しぶりだね。温泉、また企画しようね”と言うと、さらに驚いている。私が“あれって、中村君の都合で中止になったんだよね”と聞いたら、“違うよ。可乃子ちゃんが来ないって言ったんでしょ”と言う」
そのときは、お互いに急いでいたので、それっきりになってしまった。
「その後、喫茶店に行っても、花子さんには会わない。喫茶店のママの態度は変わらないけれど、その他の常連さんは何かよそよそしい。この年になると、こういうイジメが心にこたえるんですよ。気持ちがふさがってしまってね。学生時代の友達に連絡をしても、みんな孫が小さかったり、仕事をしていたりして、面倒を見るのに忙しいと断られてしまう」
【いきなり村八分にされた背景には何があったのか? 次ページに続きます】