取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

* * *

私がガマンして丸く収まればいい

寿美子さん(63歳)は、東京都の市部にある上品な住宅街に30年近く住んでいる。夫の親の代からこの街に住み、同じ年の夫はここで生まれ育った。

「私は高校卒業後に、就職で群馬県から出てきて、東京で夫と知り合いました。結婚するときは、夫の両親が大反対。私が大卒じゃないことや地方出身であることなどで、さんざんなことを言われました」

しかし、寿美子さんの美貌とこだわりのない性格。すぐに一男一女が授かったこと、その子供たちが成績優秀であったことなどから、義両親は寿美子さんのことを4人いる嫁の誰よりもかわいがった。夫は4男坊の末っ子だが、地元にこだわり、実家の近くに住んでいた。したがって、寿美子さんが義両親の用事を果たすことも多く、距離は縮まった。

「子供が生まれるまでは敵視されていましたよ。私は大家族育ちで貧乏しているから、東京のマナーがわからないんです。“田舎の人”とか“こんなことも知らないの?”と言われても、おっしゃる通りですし、教えていただくしかない。結婚の挨拶の時に、両親が義両親の誘いでレストランに行ったのですが、両親は箸の持ち方も間違っており、マナーも礼儀も知りません。父はフォークとナイフを逆に持ち、母はスープを音立ててすすった。それを笑われて、“恥をかかされた”と思うか“初めてだから仕方がない”と思うかは、その人次第だと思うんです」

おそらく腹が立ったことは想像できるが、寿美子さんは空気を読む。周りの空気がざわついたり険悪になるなら、自分の感情を押し殺したり、感じていないふりをしたり、スルーしたりする道を選ぶと感じた。

「私がガマンして、丸く収まればいいと思っているところはあります。“いい人”に思われようとはしませんが、温厚な人という評価はあると思います。勤めに出ていた頃も、家庭に入ってからも、声を荒げたことはないかもしれません」

義両親からまとまった遺産を相続し、自分のために生きることにした。次ページに続きます】

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