取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
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中学校の同級生同士、地元の喫茶店で再会
可乃子さん(65歳)は、東京都郊外の武蔵野の面影が残る住宅街に40年近く住んでいる。
「趣味人だった父親が書斎代わりに使っていた10坪程度の2階建てで、古いだけなんですよ。2人の子供もとっくに独立して息子はアメリカで暮らしているの。娘はいわゆる“リケジョ(理系女子)”で、地方でエネルギーの研究をしています」
転機があったのは、5年前。夫が突然狭心症の発作で亡くなってしまったこと。
「お風呂から上がったな……と思ったあたりで、“ああああ!!”と大きな声で叫ぶんです。そして苦しそうに“俺はもうダメだ。可乃子ホントに今までありがとう”って私の手を握った。慌てて119番をして、救急車が到着する10分程度、夫の名前を呼び続けていましたよ。どんどん指先が白くなっていって、“これはダメだ”と思ったんです」
救急隊が到着し、蘇生処置を行い、心臓は動いたけれど意識は戻らなかった。
「夫は10歳年上で、戦後すぐに生まれて栄養も足らず無理を重ねてきたのでしょうね。もう十分よくしてくれたと思っていましたが、胸にぽっかり穴が開いちゃって。夫婦の時間もたっぷり持っていたし、孫の世話をしにボストンの息子のところに行ったり、娘一家と九州の温泉を巡ったりして、やり残したことはもうないの」
夫が亡くなって辛かったのは、「日常のちょっとしたことを話す相手がいないこと」。
「庭にメジロが来たとか、卵の黄身が2個入っていたとかそういうこと。友達付き合いもしているし、ご近所さんもいるけれど、張り合いがないのよね。そこで、近所の喫茶店のママとおしゃべりしに、よくお邪魔するようになったの」
その喫茶店は、ほぼ常連さんのみで運営している住宅街の中にある夫婦経営の喫茶店。よく80年代に見かけた、1階が店舗で2階が住居というタイプの店だ。
「そこで、私の中学校の同級生・花子と再会したの。ウチの子供たちは小学校から国立に入れちゃったから、私はずっと地元なのに同級生たちと接点がなかったのよね。花子も私と同じでご主人に先立たれていて……めぐりあわせよね。花子は明るくてパワフルな子。お昼が済むとお店に行ってくっちゃべって、3時くらいに帰るってのが週2~3回あったかしら」
【コロナ禍もお店は営業を続けていた。次ページに続きます】