取材・文/沢木文
女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているとわかりながら、友人関係を維持しようとする人の話を紹介していく。
好子さん(56歳)は、55歳で離婚してから、この1年間ソーシャルアパートメント(シェアハウス)に住んでいる。その住人の女性達との関係に悩んでいる。
【これまでの経緯は前編で】
「いちいち、肩書を言わなくてもいいのよ」
住人は、40~60代の男女。女性の方が圧倒的に多く、離婚歴がある人の他に、道代さんのようにプロフェッショナルとして活動している人が多い印象だという。
「朝、きちんとした格好をして出ていく人が多いので、ちゃんとした会社員の人が多いと感じました。私も朝、一緒に出勤する40代の女性に、“皆さんきちんとされているんですね。安心しました”とほめたら、“ああ、そうですか”と流されてしまったんです」
そのソーシャルアパートメントは、住人同士が仲いいという触れ込みだった。
「確かに、みんなは仲良さそうなんです。3~4人連れでアウトレットに買い物に行ったり、温泉に行ったりしていることは会話からわかります。道代さんは病院勤務と言うからお医者さんでしょ? コロナもあって仕事が忙しいみたい。他の人とも仲良くしたいと思い、共用スペースに滞在していても、声がかからない。そこで半年間、なるべく自分から話しかけて、自己開示を心がけていたんです」
好子さんの自己開示は、自分の学歴と勤務先と肩書、元夫の勤務先、娘の学歴や勤務先やその恋人の勤務先など。
「私はきちんとした背景があるので、安心して付き合ってもらいたいと思ったんです。そしたら、私と同じ年の女性に“あのね。いちいち肩書を言わなくてもいいのよ”と言われてしまいました」
他にも、好子さんにアパートメントの住人の暮らしぶりについて聞くと、「収入がある人が住んでいると言っている割には、安い調味料を使っている人が多い」とか「安物の靴が玄関に並ぶ」「メガネをほめたら、安いことで知られる大量生産のものだった」などと言っていた。おそらく、好子さんは誰よりも優位に立ちたいという性質を持っている。それゆえに、調味料から衣料品まで、これ見よがしにブランド物を使っていたのではないか。
「そういうつもりはないんですよ。ただ、想像と違うと思っただけ」
【病院勤務というから、お医者さんだと思っていた。次ページに続きます】