文/鈴木拓也
行列のできる眼科医院として知られる、東京都墨田区の「眼科かじわら アイ・ケア・クリニック」。
当院の梶原一人院長は、9万人近くの患者を診てきたなかで、目に不調を感じても「とりあえずそのままにしてしまう人がとても多い」ことを痛感しているという。
例えば、小学生のお子さんのいる40代女性。
子どもが運動会で走っているのをビデオカメラで追っていて何度も見失うなど、目の異変を感じることが増えた。
しかし、痛みはないので放置していたら、「見えない範囲」が広がっていき、あわてて梶原院長のもとを訪れたところ、診断結果はかなり進行した緑内障。
緑内障は、日本人の失明原因の1位であるが、自覚症状が乏しく失明寸前まで気づかないこともある病気。この女性は、すぐに治療を開始することになった。
他にも、ドライアイかと診てもらったら、緑内障にくわえ網膜剝離を併発していたとか、眼瞼下垂と思い込んでいたら、実は脳腫瘍だったというような症例の数々が、梶原院長の著書『ハーバード×スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)に記されている。
失明することもある緑内障は「国民病」
上記の実例から、緑内障の恐ろしさに驚かれたかもしれない。本書でも、この眼病について多くのページが割かれているが、梶原院長は、「なんだか見え方がおかしい」と感じたら、「とにかく一度、眼科で検査を受けてほしい」と力説する。40歳以上の20人に1人はかかる「国民病」であり、視力が1.2もあるのに、この病気が進行していた例もあるからだ。
また、梶原院長は、「ある程度以上進んだ」緑内障の可能性があるか、簡易的なチェック方法を載せている。
やり方としては、目から中央の黒丸まで20cm離し、片目を手で隠して、もう一方の目で黒丸を見つめる。見つめたまま、目の数cm手前まで近づけたり離したりする。もう片方の目についても同じことを行う。砂目の一部に見づらい(あるいは見えない)ところがあるかチェックしてみよう。
もう1つ、注意すべき病気に網膜剝離がある。ボクサーといった格闘技選手に特有のものと思われがちだが、「もっと身近な病気」であり、加齢や糖尿病などもリスク要因となる。
こちらは、進行して大事に至る前に、2つの兆候を見逃さないことがカギになると、梶原院長は説く。1つは、目の中で光がピカッと見える光視症。もう1つは、目の前に小さなゴミが浮かんでいるように見える飛蚊症。飛蚊症は、同じ症状を持っている人が多いので、気に留めない人が多い。
飛蚊症の原因の1つである、目の中のゼリー状の物質(硝子体)の変化は、何度も指摘しているように、ときに癒着した網膜を引っ張って、穴を開けたり裂け目をつくったりすることがあり、これは網膜剝離につながる可能性があります。(本書より)
重大な結果につながる危険性があるのは、緑内障や網膜剝離に限らない。白内障や加齢黄斑変性など、放っておいてはいけない眼病はいくつもある。今のところ具体的な不安はなくても、年に一度は最寄りの眼科で検査を受けることを、梶原院長は強くすすめる。
通常の疲れ目はセルフケアで対処可能
テレワークの普及で、目を酷使しがちな人が増えている。パソコン・スマホの長時間使用による目の疲れは、どう対処したらよいのだろうか?
こうした軽い症状については、梶原院長は「さまざまな方法で予防・改善できる」という。
キーポイントとなるのが「血流促進」。目には細い血管が集中しており、血流が悪いと必要な酸素・栄養が届かなくなる。目の使いすぎは、目の周りの血流を悪化させるため、この部分の血の流れを良くすることが重要だ。そのために、梶原院長も実践している方法のひとつがこちら。
濡らしたタオルをギュッと絞り、電子レンジで1分ほど温めて、まぶたの上にのせて温めるだけ。
電子レンジからとり出すときに、熱くなりすぎていないか気をつけてください。市販のホットアイマスクなどを使うのもいいでしょう。
まぶたの上にホットタオルをのせたまま目を閉じて3分ほどリラックスします。
血流がうながされると、長時間近くのモノを見続けて、ピントを合わせるために緊張し、疲れた目の周りの筋肉がじんわりとほぐれるのを感じます。(本書より)
これ以外にも、首こりを解消する運動や、入浴時は(シャワーだけでなく)湯船に浸かるなど、血流改善につながる方法が幾つか紹介されている。さらに、「Dr. かじわら式10秒エクササイズ」というものもある。どれも簡単なものなので、習慣にするとよいだろう。
喫煙・肥満は目の健康にも悪い
パソコン・スマホの見過ぎ以外にも、目の健康に悪い生活習慣があるという。
その筆頭として、梶原院長が挙げるのは喫煙だ。
喫煙者が、白内障や加齢黄斑変性になる確率は、非喫煙者の3倍近くになるという。その理由は、ニコチンが血管を収縮させて血流を悪化させるから。その状態を回復させようと、体は血圧を上げるため、今度は高血圧になるリスクもある。
もうひとつは、肥満。これが問題なのは、高血圧、糖尿病、動脈硬化の素因となりうるからだ。こうした病気はどれも、視力の喪失を招きやすい。
肥満対策としては、食物繊維を含む食材を多く摂ることがすすめられている。例えばキノコ、野菜、豆、ナッツ。食事の際は糖質の多い主食の前に、これらを食べる。この食べ方によって、血糖値の上昇をゆるやかにし、(糖質を脂肪に変える働きをもつ)インスリンの過剰分泌が抑えられるそうだ。
さらに、注目すべき食材として、ルテインやゼアキサンチンという栄養素を含む野菜・果実類が挙げられている。これらの栄養素は、網膜中央の視神経が密集する黄斑部に蓄積され、「活性酸素の害を抑えるだけでなく、紫外線を吸収する働き」をするという。
両栄養素が特に豊富ということで、梶原院長がすすめる食材がブロッコリー。耐熱容器に入れて軽く塩を振り、500Wの電子レンジで4分加熱し、5分ほど余熱でむらすのが、「Dr. かじわら式」の調理法。簡単にでき、忙しい昼食時に向いている。
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梶原院長は、日々の診療で駆け込んでくる患者を診てきて、「もっと早く病気を特定できていれば、適切な治療ができたのに」と思うことが少なくないという。もしも、自分の目に少しでも違和感があるなら、いちど受診するのは賢明なことだろうし、本書は症状を理解する一助となるはずだ。
【今日の健康に良い1冊】
『ハーバード×スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。