取材・文/沢木文
結婚期間が20年以上で離婚することを熟年離婚と言うそうだ。厚生労働省「人口動態統計」をひもとくと、1980年では、これに該当するのは、約1万1000件程度で、離婚件数全体の約8%程度だった。しかし、それから19年後の2019年には、約4倍の4万件に増加。その比率も19.4%に上昇している。熟年離婚の当事者たちに話を聞くと、様々な背景がある。ここでは熟年離婚の当事者、または友人の離婚をサポートした人の話を紹介していく。
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妻は掃除をしなかった
結婚期間30年目、コロナ禍真っただ中の2020年に妻と離婚した正治さん(仮名62歳)は、「もっと早く離婚して、別の道を進めばよかった」と語る。
「妻とは同じ年で、私は商社に、妻は家電メーカーに勤めていて、当時として超晩婚だったんです。子供が欲しいというのもあって、お互いにタイミングが合って結婚。当時は30歳で高齢出産と言われていましたが、妻が娘を産んだ1992年からは、高齢出産の定義が35歳に引き上げられた。妻が“私、マルコー(高齢出産のこと)じゃないんだって”と言ったことを覚えています」
妻は妊娠7か月目で会社を辞めた。当時は妊娠を機に仕事を辞める人が多かった。
「結婚してから、彼女も働いているから、家が汚いと思っていても、それを指摘することはなかったんです。でも、息子を出産し、その息子が1歳になる頃には、家はゴミ屋敷状態に。何度も“掃除してほしい”と頼んでも“今日は忙しかった”と言われる。僕が片づけると“ホコリじゃ死なないのに”と言う」
洗濯が大変で掃除ができないと言うから、いちはやく全自動洗濯機も乾燥機も買った。妻の言う通りに譲歩していたという。
「息子が幼稚園に入った年に、“持ち家がないとこの子がかわいそうだ”と言うから、23区内に家を買ったんです。その引っ越しの日のときに、あまりにも荷物を整理できなくて、離婚を考えたのかもしれません。ということは、25年間、離婚を意識して生きてきた」
【食品から衣類まで地層のように積み上げていた。次ページに続きます】