風雲急を告げる幕末日本をテンポよく描く『青天を衝け』。第20回では、将軍家茂(演・磯村勇斗)の死から物語が始まった。
* * *
ライターI(以下I):江戸幕府第14代将軍徳川家茂(演・磯村勇斗)が亡くなりました。
編集者A(以下A):満年齢で20歳。あまりにも短い生涯でした。もし家茂がこれほど早世しなかったら歴史はどう展開したのだろうと思わずにはいられません。もし、家茂が家康と同じ73歳まで生き永らえたとしたら、明治を通り越して大正年代になっています。
I:「歴史のif」を考えるのはタブーと言いますが、考えちゃいますよね。見舞いに来た一橋慶喜(演・草彅剛)に「もっと腹を割って話したかった」という意味のことをいっていました。一橋派と南紀派で14代将軍の座を争った関係ですものね。
A:「if」ついでにいうと、渋沢栄一(演・吉沢亮)は明治以降500社にものぼる企業の設立に関与したといわれていますが、例えば坂本龍馬などが維新を乗り越えて明治に健在だったら、別の世界が見えていたのではないかと想像したりします。
I:それは、飛躍しすぎでは……。
A:この第20回で印象に残ったシーンがふたつありました。ひとつは孝明天皇(演・尾上右近)が〈国を閉ざすことも長州を倒すこともかなわず……〉と嘆いていた場面です。「攘夷」を強硬に主張する孝明天皇の存在は、幕府にとって厄介な問題だったと思います。倒幕派はこの孝明天皇を「利用」していくことになるわけですが、どういうふうに描くか興味津々です。
I:長州嫌いの孝明天皇が、長州とどう折り合いをつけるのかつけないのか……。古くから囁かれ続けている孝明天皇暗殺説が描かれるのか描かれないのか、興味は尽きませんね。印象に残ったもうひとつの場面はどこですか?
土方歳三と渋沢栄一、そして近藤勇の関係
A:はい。渋沢栄一と土方歳三(演・町田啓太)の場面ですね。2004年の大河ドラマ『新選組!』では描かれていない場面ですが、ほぼ渋沢が遺した談話通りの展開になっていましたね。
I:土方歳三といえば、往年のファンには栗塚旭さん、平成期には大河『新選組!』の山本耕史さんの印象が強いですが、町田啓太さんの土方もなかなか格好良くて好印象でした(笑)。ところで、渋沢の談話は「渋沢栄一記念財団」のホームページでも読めるのですが、記念財団のこの仕事はほんとうに恐れ入ります。かなりの労力を要しただろうなと、いつも感心しています。
A:捕縛してから理由を申し渡すか、申し渡してから捕縛するかは劇中でもやり取りされましたが、渋沢はこう語っています。〈四人のうちの土方歳三といふ人が事理の理解つた人であつた為、私の主張を理ありとし、この場合、渋沢のいふ通りにするが可からうとの事になり、そんなら門前より見え隠れに護衛をするやうにさしてくれとの事ゆゑ、之までも拒むには及ぶまいとその如くに致させ~(以下略)〉
I:実際にああいう大立ち回りはあったのでしょうか?
A:それはなかったのではないでしょうか(笑)。私は虚実織り交ぜた名場面に感じましたが。ちなみに、渋沢は、この一件の後に近藤勇とも面会したことを書き残していますね。
I:関心のある方は、渋沢栄一記念財団のホームページを訪れてほしいですね。
A:この回で感じたことはほかにもあります。徳川将軍家も11代家斉、12代家慶ともに50人前後の子だくさんだったのに、ここにきて将軍継承候補者が先細ってしまっているのが印象的でした。天璋院(演・上白石萌音)が挙げたのがまだ幼児の田安亀之助(後の家達)ですからね。
I:ほんとうですね。今から150年ちょっと前でしかない時代の、しかも将軍家なのに子どもの成長率が低いのが不思議に感じます。
A:そうですね。それともうひとつ。俗に「一・会・桑」とくくられる、一橋慶喜、会津の松平容保(演・小日向星一)、桑名の松平定敬(演・小日向春平)が揃う場面はもう少し、重厚に描いて欲しかったなあ、とは思いました(笑)。
I:Aさんは、会津びいきですものね。ところで、次週予告でついにパリ行きに突入するようです。楽しみですね。
●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/
●編集者A:月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を担当。かつて数年担当した『逆説の日本史』の取材で全国各地の幕末史跡を取材。函館「碧血碑」が特別な思いを抱く。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。幕末取材では、古高俊太郎を拷問したという旧前川邸の取材や、旧幕軍の最期の足跡を辿り、函館の五稜郭や江差の咸臨丸の取材も行なっている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり